絵描きは言う 忘れられてしまうのが怖いと 自分を知っている人間が ひとりまたひとりと消えていくのが怖いと 絵描きは言う 人間なんてやめてしまいたいと 浮世をやつして絵画になって あなたの部屋で永遠に飾られていたいと でもね ぼくはね きみがもし浮世絵だったとして さっさと暖炉に焼べていたと思う 束の間の暖をとっていたと思う ぼくは言う 色褪せぬ命など美しくないと ぼくに燃やされたくなかったら 生きて 生き延びて 絵を描き続けろと
底知れぬ床は水の色 空の色 夏の色 どこまでも広い海の色 自由になれないってわかっていても 永遠じゃないって知っていても それでも進むきみの青 深く潜りたい さよならみたいな涙の温度 どうか今だけは肌に馴染んで 取り返せない酸素 きみの瞳に溺れていくその前に たった一度だけ目を開けた