表示件数
0

シューズショップにて

「どうぞ、ご覧くださ〜い」
「すみません。このデザインでサイズありますか?」
「あー、そちらは展示品のみになりますね。サイズおいくつですか?」
「26センチなんですけど」
「じゃあ中敷き入れれば大丈夫ですよ」
「30センチはちょっと……大きいかな」
「そんなことないですよ。わたしがいま履いてる靴なんかメンズで32センチなんだけど、中敷き30枚入れて調整してるから。それに少し大きめのほうが足長に見えるよ」
「ジョギングに使うので」
「いま年いくつなの?」
「14歳ですけど」
「14歳なんて成長期なんだからまだまだ大きくなるって」
「……30センチは、どうかな」
「似たようなデザインだったらサッカースパイクがあるけど」
「サッカースパイクでジョギングはきびしいですよ」
「サッカースパイクのほうがむしろ速く走れそうじゃないあはははは」
「いやでも」
「うん、ちょっと待ってね。在庫もしかしたら他店にあるかもしれないから問い合わせてみる」
「すぐ欲しいんですよね」
「大丈夫、隣の店だから」
「あ、隣も系列店なんですか?」
「一切関わりないけど」
「それはさすがに申し訳ないからいいですよ。なんなら自分で行くんで」
「乗りかかった船だもの。それにわたし、お客様への愛があるから」
「それはありがたいですけど」
「もしかしたら奥にあるかもしれないから探してみるね。……ごめんあったあった。少々汚れありだけど履いてみて」
「……サイズは、ぴったりだけど。なんかちょっと湿ってませんか?」
「さっきまで店長が履いてたやつだから」
「隣の店行きます」

0

鎌倉幻想

 鎌倉に来た。幕府でも開こうと思ったから、というわけではなく、暇だったから。神奈川県に来て四年目になるが、一度も訪れたことがなかった。いつでも行けると思うとなかなか行けないものだよね。
 あまたある飲食店から呼び込みの女性のいちばん可愛かった店を選んで入り、観光地価格のグリーンティーを飲み、銭洗弁財天に向かった。俺は神でも仏でも、女が好きだ。
 ざるに札、小銭を入れ洗っているひとたちがいた。テレビでおなじみの光景だ。なんと浅ましいと思ったが、それぐらいのアクティビティがなければ参拝など、大して面白くもないだろうとも思った。
 高徳院に着いた。平日だが、卒業シーズンだからだろう。学生らしきで賑わっていた。
 それにしても、観光地だから当たり前だが、俺をのぞいて誰もがみな、カメラをぱしゃぱしゃ、自撮りやら他撮り(なんて言葉はないか。これが普通だ)やらを行っている。たしかに大仏はフォトジェニックだが、いったいいつから先進国のひとびとは、こんなにも写真好きになってしまったのだろう。
 しばらくぶらぶらして、江ノ電に乗り、シートのはじに腰かけた。扉が閉まる寸前、十八、九ぐらい美しい女が乗り込んできて、わたしの前に立ち、スマホをいじり始めた。
 ダークブラウンのローファー、毛玉だらけの紺のスウェットにグレーのトレーナー、ほこりだらけの紺のブレザー、ビビッドピンクの手さげバッグ。カラーコーディネートは悪くないが少々だらしない。ウェーブのかかった茶色のセミロングは、洗ってないように見えた。
 美人なのに、残念だな。俺は目を閉じ、うとうとした。

 
 ドアの隙間から明かりがもれていた。鍵が開いていた。部屋に入ると、さっき電車で見た、少々だらしない美人がうつぶせで、スマホをいじっていた。
「おかえりなさい」
 女が、こちらを見もせずに言った。
「どうやって入った」
「鍵、開いてた」
「君は誰だ」
 女はようやくこちらを見て、「わたし、弁財天です」と言って頬杖をついた。
「なにを言ってる」
「ほんとだよー」
「どうして俺の自宅がわかった」
「つけてきて、先回りした」
「早技だな」
「神技って言って」
「どうして俺をつけてきたんだ」
「かっこよかったから」
 ならいいや。