緋い魔女と黒い蝶 Act 1
木々が青々と茂る山の中、2つの人影が歩いている。
一方は長い赤毛の少女で、丈の長いワンピースを着ている。
もう一方は短い黒髪のコドモで、暖かい時期なのに黒い外套を着て頭巾を被っている。
2人は静かに歩いていたが、ふと赤毛の少女が立ち止まった。
「…お前、その頭巾を外したらどう?」
赤毛の少女が振り向きざまにそう言うと、黒い人物はぴたと足を止める。
「この通り暑いし、ここは山の中だからお前の嫌いな人目もほとんどないし」
顔を隠す必要はないと思うんだけど、と赤毛の少女は呟く。
「…別に」
俺は好きで被ってるからいいんだよ、と黒い人物はそっぽを向く。
「あらそう」
そう言って少女は前を向いて歩き出す。
「…それにしても今回の依頼は、”脱走したホムンクルスの捕縛“ねぇ」
随分とまた面倒そうな依頼を引き受けてしまったわ、と少女はこぼす。
「じゃあ引き受けなきゃよかったじゃん」
なんで引き受けたんだよ、と黒い人物は少女のあとを追いながら聞く。
「そりゃあ今は金欠だから…」
少女がそう言いかけた所で、おーい!と2人に向かって声が飛んできた。
声がする方を見ると、黒髪の少年と赤いとんがり帽子に藤紫色の髪のコドモが立っていた。
少女はあらと笑ったが、黒い人物はげっと嫌そうな顔をした。