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指定席

三両目、一番前のドアから電車に乗る。
この時間はどの席にもいつも同じ人が座っている。
不思議なものだな、と思いながらもいつもの『自分の席』に座る。
四人掛けシートの窓側。進行方向と反対側の席。この席は朝日を眺める特等席だ。

単語帳を広げてもやる気が起きない。赤シートに朝日が反射して眩しい。あの朝日をうっとうしいと思ったのはこれが初めてだ。今まではぼーっと朝日を眺めながら音楽を聴くのが楽しみだったのに。頭に入らないアルファベットの羅列を眺めながら、私は何がしたいんだろう、と考える。
したいことが見つからない。行きたい高校が見つからない。好きなことも見つからない。学校に行って、部活に行って、友達付き合いも忘れずに。そうして家に帰ればまた次の日も学校だ。全て誰かに敷かれたレールの上を進んでいるようで、ぞっとする。私でなくても私という存在が成り立ってしまうのではないかと、矛盾しているような想像をしては一人で落ち込む。その頃には、気づけば手元の単語帳は閉じられていて、車内放送が最寄り駅に到着したことを告げる。

慌てて「すみません」と言いながら席を立つ。隣の高校生の男の人は軽く会釈しながら長い脚を折りたたんで、私が通れるように最善を尽くしてくれる。
電車から降りると笑顔でいなければならない。
いつも通り、後ろから軽快な足音がする。
「和花ちゃんおはよー」
「おはよー、今日寒いね」

悩みを悟られないように、明るく。



【和花 Sakura Nodoka】
中学三年生
吹奏楽部員
高校受験に悩む

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ちょっとした企画:ピッタリ十数字

どうも、ナニガシさんこと何かが崩壊している者です。またもやちょっとした企画をぶん投げようと思います。
その名も「ピッタリ十数字」。今回はポエムの企画ですね。

ルールは簡単。企画名の通り本文の文字数がぴったり十数字のポエムを投稿していきましょう、というもの。
ただし、別に10文字台なら何でも良し、というわけでもありません。今回のレギュレーションで許された文字数は、「10字」「13字」「15字」「19字」の4種類のみ。
また、英数字や記号は全角、半角に拘らず1字にカウントします。句読点も1字。
「!」や「?」も単体で1字になります。「⁉」の場合は2字ってことになりますね。「!!!!!」なら当然5字にカウントされますが、字数調整が簡単になり過ぎちゃうので、できれば気軽にそういう真似はやらないでくれた方が嬉しいなー……。

期間は2月1日~2月29日まで。
参加者は、タグに「ピッタリ〇字」と入れて投稿してください。〇の部分には自分のポエムの文字数を入れてください。だから「ピッタリ13字」とか「ピッタリ15字」とかそんな感じ。
ちなみに、企画期間より前や終了後に投稿しても良いんですが、その場合は企画の指定タグの後ろに、前なら「習作」、後なら「遅刻組」と入れてください。
つまり1月中に出すなら「ピッタリ19字習作」みたいな、3月以降に出すなら「ピッタリ10字遅刻組」みたいな、そんな感じになります。
簡単なような面倒なような、そんな企画ですがどうぞ奮ってご参加ください。

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手にしている缶コーヒーはまだ温かい。その温もりはいつまで続くだろう。冷めちゃうね、と呟くが返事は軽い頷きだけで、この人との間は詰められない。詰めてはいけないような隙間がある。その隙間を風は容赦なく通り抜けていく。この缶コーヒーを買った自販機はどこだっただろう、一体どれくらいの距離を歩いたか。何も話さずに二人が黙々と歩いているのが不気味だと思われないだろうか。今はそんなことも気にならない。ただ目の前にある背中を頼もしいなぁと眺めながらも、冷やかしてくる夕陽に目を細める。今日も良い一日になった。明日も晴れだといいな。そんな視線も気にせずに目の前の背中は遠ざかっていく。小走りで追いかける。この日々がいつまでも続くと思うのは間違いだろうが、そう願うのはきっと素敵なことだ。あの人の背中に手を伸ばす。まだ触れる勇気は出ない。缶コーヒーが冷めた。飲まずにポケットにしまう。家に帰って温めよう、と思ったそのとき手の冷たさに気づく。思わずあの人の手を見る、指先が微かに揺れている。この寒さが共有できた気がして、心がすこし温まる。まだ冷たい風が耳を撫でていく、背中に向けていた視線を足元に落として、少しひとりで笑みを浮かべる。