表示件数
1

夜明けまで65時間-ナイトMORE〜

「くそっ、いつになったら夜は終わるんだ。」
壁を蹴りながら蒼衣(あおい)は吐き出すように言う。
最後の日没から実質時間約96時間。蒼衣は今の時代珍しくない異能者の1人だった。蒼衣の能力は、いや、まだ言わないでおこう。ただ異能者でありながら夜が明けるのを待つしかない、いわゆる一般人と同じなのだ。
紗衣華(さいか)、今のところ世界で最後の異能者と言われている。夜明けを取り戻そうとしている、、はずだが。「けっ、何もがいてんだ」まあ紗衣華はこういうタイプである。
「紗衣華さま、お客様です。」
「分かりました。今、行きます。」
そこで待っていたのは蒼衣だった。
「うわっ、何その汚らしい格好。」
「おい、紗衣華と言ったな。ちょっと来い。」
蒼衣が向かう先は悪喰(あくい)シティと呼ばれるスラム街だった。
蒼衣はどんどん進んでいき、1つの大きな門の前に立った。「ここだ。お前、状況は知っているか?」
「『夜明け』なんてこなくて良いじゃない。」
「やっぱり分かってねえ。」
そこから蒼衣は説明した。時々お前は馬鹿だのお嬢様の世間知らずだの混じえながら。
今「夜」が永遠のものとなっていること。「夜明け」が失われたら植物が育たず、食べものが食べられないこと。そして、「夜」が永遠のもののままだと、蒼衣-ダイトフーチャーと言われる者たち-は生を終えてしまう可能性があること。実は蒼衣は太陽が出ていないと能力を発揮できず、能力を発揮しない時間が137時間以上になると衰弱していくのだ。
「それで、ここは、、『夜明け』を永遠のものにした異能者のアジト。」
「夜明け」を永遠のものにした異能者、俺は take nights と呼んでいるが、そいつが1つの街をつくっているとは俺も驚いた。と言い、
「じゃあ行くぞ。」
「嫌だ。」
有無を言わせぬ蒼衣の態度に、いつも通りの紗衣華。
「俺が行くにはお前の能力(ちから)が必要なんだ。」
女子を落とすような決め台詞に、紗衣華はしぶしぶ歩を進めた。

0

夜明けまで65時間:ジャンキー・ナイトメア 後編

「あ、ご、ごめんなさい! 急いでて……!」
ぶつかってきた奴が謝りながら助け起こそうとしてくれてるのか、片手を差し伸べてきた。よく見ると私と同い年くらいの、結構可愛い女の子だ。
「ァ、ィヤ……その、別に、好きな味の缶は後にとっといたんで……平気ッス……」
よく分からない言い訳で口ごもりながら、向こうの手は取らずに立ち上がる。
流石にこぼれたエナジードリンクでベタベタになった手で触るのは、というかそもそも知らない人の手に触れるのは気が引ける。
「ぇと、急いでるン……スよね、あの、もう、行って、ドゾ……」
「あ、はい、ごめんなさい! それじゃ、失礼します!」
彼女は時折ちらちらとこっちに目をやりながらも、走ってまた行ってしまった。
「……こんな時間に、忙しい人もいるもんだなァ……」
内容物でべたついた缶を指先で拾って、少し先の公園に設置された自販機の横のゴミ箱に突っ込む。ついでに手も洗ってから、もう1本のエナジードリンクを開栓した。
滑り台のてっぺんに腰を下ろして、よく見えない星空を眺めながら中身を一口すする。
これでカフェインとカロリー摂ったら、また徘徊に戻ろう。夜は長いんだ、できるだけ孤独に、静かに、楽しませてもらおうじゃないか。