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皇帝の目・回復魔法のご利用は適切に_設定

前回のやってないですね。やってないのでどっちもまとめて書きます。

回復魔法のご利用は適切に
シオン:中学1年生、13歳。魔法はほぼ無知、あんまり頭はよろしくなく、ちょっと(かなり)脳筋な女の子。とにかくでかい。運動神経は全校一で回復魔法の持ち主。怪我を治したり壊れたものを直したり結構幅広い能力。一部の人に看護師呼びされている。出てきてないけどお兄ちゃんがいる。かっこいいので慕っている。

エリザベス:中学1年生、14歳。良家のお嬢様なので魔法に詳しく勉強もできるが残念ながら変人。ドリルな縦ロールでハーフツイン、しかもゴスロリでかなり目立つが上品な性格でもある。爆発魔法の持ち主。「シルバーバレット」と詠唱することで爆弾を銃弾のように打ち出せる。家族が過保護で面倒。

レオン:28歳教員。生徒との距離が近い。(物理精神ともに)重力・引力操作魔法の持ち主。

皇帝の目
梓:人付き合いの下手な中学2年生。自由人だが環境は大事にしたいタイプ。面倒事は嫌いで結構ズボラなところがあるため家族に呆れられている。小さくて貧弱で、ある日ビーストの襲撃に巻き込まれてなんか目も悪くなったので生きづらさを感じている。チトニアのことは好きなので彼女に対しては愛想が良く、可愛がっている。

チトニア:とにかく喧しくてよく叫ぶ元気なドーリィ。テンションが高く物理的距離も近く若干束縛気味なのでマスターになる人がいなかった。皇帝ひまわりのドーリィで、皇帝という名にふさわしく蝶や蜂の眷属がおり、ひまわりらしい明るい金髪と黄色の服が目立つ背の高い少女。武器などもいろいろ持っている。今は梓にべったり。

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Trans Far East Travelogue89

嫁と2人,昼下がりの済州島西部の砂浜を歩いていると嫁がポツリ「あんたはうちんことどう思うと?本音ば教えてや〜うち、あんたん理想ん妻になれとるかなぁ」と切り出すので嫁と目線を合わせながら「正直言って,君と結ばれて幸せだよ。元カノと比べるようでアレだが,アイツは口では『大好き』とは言ってくれたけど行動では全く俺のこと大切にしてくれなくて2度目のデートの時点で別れる覚悟をしていた。でも,君は積極的に愛情表現してくれるだけかと思いきや,ほぼ毎日試合があるプロ野球のその日の試合次第でメンタルがブレまくる俺に君はずっと寄り添ってくれるでしょ?その対応が嬉しいし、おかげで君のこともっと好きになるし、もっと大切にしたいと思うんだ」と笑って返すと、嫁は堰を切ったように泣きはじめ,俺は反射的に嫁を抱きしめる。そして,暫くして落ち着いた嫁が「うち、元カレと付き合うとった頃に散々酷かこと言われてキツから頑張って彼ん好みに合わせようと色々頑張ったと。ただ,結局短期間でん努力では彼ん期待に応えきらんで見限られてフラれちゃったけん、次ん彼氏は優しか人が良かて思うとった矢先、傷心旅行んつもりん旅であんたに出会うたと。そしたら,今はほんなこつ幸せやけん、どげん大変な時も自殺なんかしぇず生きとってくれてありがとう」と言うので流石に照れるが,「俺、1人でアレを乗り越えることなんかできなかった。でも,最初の希望をくれたのがプロ野球の巨人なんよ。『今年も日本一になれなかった。でも,来年こそは勝つからその時までは信じて生きていよう』の繰り返しでずっと足掻いてきて,10年目に例のオープンチャットで君と知り合って恋に落ちた。そしたら,その時から辛い出来事をを乗り越える大義名分が『巨人の日本一を見届けるため』というのと『九州の想い人に会うため』の2つになったんだよね。それから2年後に入った大学では上手くいかなかったけど巨人は12年越しの悲願を叶えたし,そこから更に2年後に君と結ばれたからな。こんな俺を選んでくれて本当にありがとう。これからもよろしくな、俺だけの女神様」と伝えると嫁が「生涯バッテリー宣言したけん,支え合うのは当たり前や」と笑い、その後真面目な顔で向き直り,「改めて,こちらこそ不束者ですが末永くよろしくお願いします」と言ってお辞儀している。
そして,気付いたら巨人交流戦優勝のニュースが入っていた。

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五行怪異世巡『肝試し』 その②

集団の最後尾を歩いていた青葉は、背後から肩を叩かれ、立ち止まって持っていた杖を強く握りしめながら振り返った。
「…………あれ」
「や。青葉ちゃん、だっけ?」
「どうも、こんばんはです、犬神さん」
彼女の背後には、犬神が笑顔で立っていた。
「花火大会に来たら偶然見かけちゃったもんだから、ついて来ちゃった」
「そうですか」
「どしたの?」
「……クラスの馬鹿な連中が肝試しするって話してたんで。ここがガチのスポットってことは知ってたので、〈五行会〉として護衛につこうと同行している次第です。……あ」
青葉は不意に思い出したように声を上げ、同じくほぼ最後尾を歩いていた少女を呼んだ。
「犬神さん、ちょうど良い機会なので紹介します。彼女は最近〈五行会〉に入った……」
「特別幹部《陰相》。“霊障遣”の榛名千ユリ。あんたは?」
自ら名乗った千ユリに、犬神は握手を求めるように右手を差し出しながら答えた。
「や、私は《土行》の犬神だよ。キノコちゃんが言ってたのはあなただったんだね」
「キノコ?」
「あれ、会ってないの?」
「……千ユリ。多分種枚さんのことだと思う」
青葉に言われ、千ユリはしばし考え込んでから手を打った。
「あぁ、アイツか」
「ところで2人とも、ここで話してて良いの? 他の子たち、かなり上まで行っちゃったけど」
「あっしまった」
すぐに振り返り、急ぎ足で上り出す青葉を、千ユリと犬神は焦ることも無く悠々と追った。

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五行怪異世巡『肝試し』 その①

8月某日。世間の子供たちが夏休みの只中にあるとある日の夕方ごろ。
数人の中学生の男女が連れ立って、河原への道を歩いていた。
その河原は、この日19時から始まる花火大会を眺めるには絶好のスポットであり、夜店なども多く出店し、ある種の祭りのような様相を呈していた。
しかし、彼らの主目的はそこには無い。出店の隙間を埋める人ごみの中を彼らは迷い無く通り抜け、上流の方向へ、ひと気の少ない方へ只管歩き続ける。
土手を上がり、まばらな街灯の下を進み、深い木々の中に埋もれた石段の前に辿り着き、そこで一度立ち止まる。
先頭に立っていた少年が腕時計を確認し、残りの面々に向き直る。
「現在午後6時40分、花火大会が終わるまでは1時間以上余裕である…………それじゃ、行くぞ! 肝試し!」
少年の言葉に歓声を上げ、子供たちは石段を上り始めた。

“廃神社”と呼ばれるその心霊スポットは、その呼称の通り数十年前に放棄された廃神社である。
周辺をオフィス街や住宅地、幹線道路などに囲まれている中、不自然に小高く盛り上がった丘の上に建っており、丘陵全体は雑多な木や雑草に覆われ、辛うじて名残を見せる石段と境内も、処々に荒廃や劣化が現れ、不気味な雰囲気を演出している。

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Trans Far East Travelogue 88

俺たちを乗せた船が先程着いたソグィポ(西帰浦)の港は韓国で最も高い山,ハルラ(漢挐)の南麓に位置しており,また韓国で2箇所しかない火山島のチェジュ(済州)島南部の観光拠点だ。
入国審査を済ませ,わざわざフェリーで韓国本土から8人乗りの大型車を運んで迎えに来てくれた従兄と4年越しの再会を果たして色々話し込み、車に乗って目的地の海岸に着いてもなお話は弾んでいた。
この様子を遠目から微笑ましく見ていたのは,韓国に留学した経験があり,ソウルに着いてすぐのまだ韓国語に慣れていなかった時期に偶然通りかかった人(当時中学生だった俺)に英語を交えて手助けしてもらった縁からその人と交際に至ったという経歴の持ち主であり、俺達夫婦,特に嫁と船上で会話し野球で直接対戦したこともあった元カノだ。
一方,それを見ていた嫁は自身は韓国語が分からないだけに俺と従兄の韓国語の会話が長すぎて待ちくたびれたのか、それとも俺達の会話を微笑ましく見守る元カノに対する嫉妬からか「世界で熱く光る♪都育ちの主役♪自慢の旦那と♪デートへ♪GO now」となぜか往年の横浜の選手の応援歌を替え歌しているので,俺以外の野球が好きな日本人メンバーもつられてプロ野球の応援歌を替え歌し始め、俺もつられて「さあ行こうかチュンナム♪우리 어머니의ふるさと♪恋実り幸せだ♪니 옆이 최고야♪」と韓国語も交えて即興で替え歌すると,一気にスイッチが入ったのか各々の応援歌替え歌の原曲は誰のものかを当て始め、気付いたら嫁の手を握って歩いていた。
「福岡育ちの♪自慢の嫁さん♪なぜこの美人が♪今,そばにいる」とか「光り輝き♪歴史も長い♪あゝ不滅なり♪嫁のふるさと♪九州・福岡県」と続けて替え歌すると,嫁が「夢が〜溢れる♪韓国滞在♪круто ♪мой муж ♪都の〜宝♪行くぞ行くぞどこでも世界中♪愛しの旦那の側にいて♪一緒がいいな♪貴方が大好きです♪」と替え歌で返すので俺も「福岡目指し駆け抜けた♪恋の思いは届き♪僕らの笑顔が今♪すぐそこにある♪」と返す。
済州名産の柑橘の花と磯の香りが天然の香水としてお互いをより一層魅了しあっていることや一連の替え歌メドレーの映像がSNSで流出し日本の野球ファンを盛り上げていたことに俺たちはまだ,気付いていない。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑯

「ふゥーん……? 大分おイタを働いたようじゃあないか。ンで、青葉ちゃんに負けたと」
「何か悪い?」
「いやァ? ……で」
少女千ユリから離れ、種枚は青葉の顔を覗き込んだ。
「そんな危険人物連れて私の前に現れて、どうしたいのさね」
「彼女を〈五行会〉に引き入れます。彼女の『悪霊を封じ、使役する』異能は、必ず人類のためになりますから」
「…………へェ。青葉ちゃんや、随分と強くなったねェ?」
「……そうですかね?」
「いや、元からタフなところはあったっけか……。あー、ユリちゃんだっけ?」
「千ユリだバカ野郎」
「女郎だよ。千ユリちゃんね。じゃ、青葉ちゃんの下で面倒見てもらうとするかね……」
「はぁ⁉」
種枚の言葉に、千ユリが食い気味に反応する。
「誰が誰の下だって⁉」
「いや実際負けたんじゃあねェのかィ?」
「こんな霊感の1つも無しに外付けの武器だけでどうこうしてる奴の下とかあり得ないんだけど⁉」
「えー……面倒な娘だなァ…………」
種枚はしばし瞑目しながら思案し、不意に指を鳴らした。
「じゃ、いっそ新しく役職作っちまうかィ。面白い異能持ってるようだし、たしかに誰かの下につけとくべきタマじゃねェやな」
「ようやく理解したか……」
半ば呆れたように溜め息を吐く千ユリにからからと笑い、種枚は天を仰ぎながら考え始めた。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑮

「潜龍さん? 何をしているんですか?」
短刀の刃を掴み、青葉が低い声で尋ねる。
「……こいつの異能は危険だ。その根源たる十指を、切断する」
平坂は平然と答えた。
「……そうですか。なら、私の手諸共、斬ってみますか?」
「……離せ」
「離しません」
平坂が短刀に込める力を強め、それと同時に青葉の握る力も強まる。
「こいつの遣う霊障によって、既に人が死んでいる。こいつの異能は封じられなければならない」
「だとしても、私はその手段を許しません」
青葉の掌と刃の隙間から、血が滲み出る。
「……ほう。ならば、何か他の手段があるとでも? こいつの力を、確実に封印できる手立てが」
「はい。『私達』が手段です」

翌日。
少女の手を引いて街中を歩く青葉の前に、種枚が現れた。
「あ、クサビラさん。ちょうど探してたところだったんですよ」
「そりゃちょうど良かった。で、その娘は何者だい?」
少女に顔をずい、と寄せながら、種枚が青葉に尋ねる。
「えっと、最近悪霊について騒ぎが起きていたことについては、御存じで?」
「そりゃあ、ここいらで起きる怪異絡みの出来事に関しちゃ大体把握はしてるがね」
「その犯人です」
「……へェ? お前、何て名だい?」
種枚に臆する事無く睨み返しながら、少女は答えた。
「榛名千ユリ(ハルナ・チユリ)。霊障遣い」

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エッセイ的な何か

世の中には「孤独が耐えられない!」「ひとりぼっちだと死んじゃう!」って人、結構いるよね。
それに対して今のウチは、ずっと1人でもなんとも思わないし、むしろ1人の方が気が楽な時があるのよ。
「孤独を好むのは発達障がいのせい」と言えばそれまでなんだけど、正直それじゃあ腑に落ちない。
じゃあなぜか、色々調べたり考察したりしてみると「自己を肯定できているか」って所に行き着く。
「孤独を感じない人」は自分のことを1人で評価できているから自己肯定感が高くなるが、「孤独を感じる人」は他人にばかり己の評価を求めているから寂しがってるそうなんだ(ネット調べ)。
まぁホントかどうかはさておき、寂しがってる人って他人に肯定されたがっているのかなとは思える。
そういう人って、認識の有無を問わず自己肯定感が低そうだしさ。
自分が一時期友達が欲しくて仕方なかった時も、自己肯定感が低かったんだよね(あと普通の人間は友達がいて当然という思想)。
それがどうでもよくなったのって、ある意味学力とか他人への信頼とか色んなものを失って最後に自分の中に己が愛した創作活動しか残らなくて、ひたすらそれを続けていたからだし。
あと歳の近い妹に「大学では好きなことをやっていい」って言われたこともある。
好きなこといっぱいやってる内に気付いたら寂しさを感じなくなっていったんだ。
だから孤独を感じる人は“(コンプライアンスに抵触しない程度に)1人でもできる”好きなことを見つけることから始めてみようぜ。
きっと好きなことに没頭してれば寂しさなんて感じないはずだからさ。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑭

少女が叫ぶように言うのと同時に、背後から青葉の心臓近くを武者霊の刀が貫いた。更に、女性霊の手が後ろから首を掴み、力を込める。
「…………」
「ッハハ、ザマァ見ろ……! 霊障は直接魂を害し、肉体にダメージを誤認させ、現出させる!」
「なんだ、結構斬ったのにまだ動くのか。そういう力か?」
「……は?」
悪霊2体の攻撃を意にも介さず前進する青葉に、少女は呆然とする。その隙に、青葉は少女の胸倉を掴み、仰向けに転がした。
「な……おい、やめろ……止まれ!」
少女の言葉を無視し、青葉は片足を高く持ち上げ、勢い良く振り下ろした。
「…………悪いけど、こっちも才能以外は数百年分背負ってるんで」
失神した少女の頭の真横に下ろした足をゆっくりと退かしながら呟き、背後の悪霊たちに目を向ける。それらは呆然と立ち尽くしていたが、やがて倒れた少女にじりじりと近付いていき、そのまま掻き消えた。
「……はぁ、緊張した…………」
腰を抜かしてその場にへたり込んだ青葉の隣に、平坂が歩み寄って来た。
「あ、潜龍さん」
「すまんな。お前に最も危険な仕事を任せることになった」
「いえ別に……潜龍さん?」
平坂は徐に地面に捨てられたままになっていた短刀を拾い上げ、刀身をしばらく眺めてから握り直し、少女の前に屈み込んだ。
「潜龍さん?」
青葉の呼びかけには答えず、平坂は脱力して開かれた少女の右手の指の付け根に、刃を当てた。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑬

(カオル)
武者霊と打ち合いながら、青葉は自身に宿る霊体に心中で呼びかける。
(どうしたの、ワタシの可愛い青葉?)
(ちょっと作戦を思いついたんだけど。防御は捨ててあの子に直接突っ込む。霊障はカオルが吸ってくれるんでしょ?)
(ふーむ……あまりおすすめは……あ)
(何?)
(……いや、ワタシの可愛い青葉が傷つくのは……)
(五体が残るなら多少の怪我は気にしないから。勝てる方法、教えて)
(それじゃあ…………)
カオルの言葉に従い、仕込み杖〈煌炎〉の持ち手近くを握る。軽く捻るようにしながら力を込め、内部に仕込まれていた刀身を一気に引き抜いた。
「……おいクソ雑魚。何なの、それ?」
少女が強く睨みながら、青葉に問う。
40㎝にも満たない短い刀身は、夜闇の中であっても奇妙な金属質の輝きを見せ、霊感に干渉する不気味な雰囲気を纏っていた。
「その気持ち悪い刀で……何するつもりだ!」
「……お前に勝つ」
短く言い放ち、青葉は駆け出した。2体の悪霊が少女との間に立ち塞がるが、青葉が回転しながらその隙間をすり抜けると、無数の刀傷を受けその場に崩れ落ちた。
「なっ……! “アタシの……」
唖然とする少女に詰め寄りながら仕込み杖を納刀し、振り下ろすように打撃を放つ。仰け反るように回避した少女の下顎に、更に打ち上げるように放った二打目が掠める。その攻撃による振動は少女の脳を揺さぶり、意識を奪うに至らしめた。
その場に膝をつき倒れる少女を前に、青葉が構えていた杖を下ろしたその時だった。
「っ……が、っは…………! ぁ、がぁぁあああああ!」
地面に両手をつき、少女が呻き声を上げる。
「なん……で、だ…………! お前みたいな、無能の雑魚、が……!」
「……まだ意識あったんだ」
少女は朦朧とする意識を気力で繋ぎ止め、己を見下ろす青葉を睨み返した。
「ッぅぁぁぁぁ……! 逆、じゃんかよ……ええ⁉ アタシの……身体も! 名前も! 異能も! 霊障も! アタシを作る全部! 『血』から受け継いできたんだ! アタシは……、何百年の『血』の歴史の……終着点だ! 跪くべきは…………っ、そっちだろうが!」

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Trans Far East Travelogue87〜新旧パートナー談義②〜

嫁と元カノが2人で話し込んでいるのだが、両者ともツラそうな表情だ。まだ入籍前に元カノのことを思い出すことはあるか否か尋ねて当時のことがトラウマで時折悪夢を見ることもあると正直に打ち明けられたことを、そのトラウマを植え付けた張本人に説明しているのだから当然だ。 元カノは一連の話を聞いて途中から俯いているが、嫁は「正直言って,私は貴女を責めるつもりはないわ。なぜなら、貴女は貴女なりに考えて愛する人の為に最善を尽くした。でも,彼は色々な意味で他の人とは違う特別な人なの。ただ,残念ながらその事実に最後まで気付けなくて結果的に傷付け合っておしまい。結果がどうであれ,ベストを尽くした人を責めることはできないしわ。ただ,1番辛い思いをしたのは本人なの。それだけは覚えておいてね」と告げて感極まって泣き出した元カノを抱き締め、俺を呼ぶ。
「どうした?」と思わず訊くと「ほら,貴方って元カノから酷かことされたやろ?そん元カノから言いたかことがあるって言いよるけん話くらいは聞いちゃったらどげん?」と嫁が切り出し、元カノは「あの時は彼氏の貴方に一切歩み寄ろうとせず、結果的に迷惑をかけてしまってごめんなさい」と涙ながらに謝罪する。そして、俺は「いくら君が心を入れ替えてくれたからって、失われた勝ち星,引退してしまった選手はもう戻って来ない。でも,君がかつての過ちに気付いてこうして俺に謝ってくれた。そのことに俺は感謝してるよ」と返して俺も元カノを抱きしめるのを見て嫁は「あげん酷かことされたとに,そげん優しゅうして良かと?」と拍子抜けした様子なので「君と出会えたからもう良いんだ。いくら酷いことをした元カノだからって、これから俺達の結婚式の費用全額払ってくれる人を更に追い詰めるようなことしたら可哀想だし」と笑って返すと、「男の執念すごか」とだけ言って嫁が笑い出したので俺も「俺さ、君がプロ野球の試合結果に応じていつも俺への接し方をかなり変えてくれているの知ってるんだぜ?だから,そんな風に俺を大切にしてくれる人を俺も大切にしないとな」と笑いながら嫁の頭を撫でてやると元カノが嫁と握手を交わすのを「巨人ファンと阪神ファンみたいなもんだな」と元カノの今の交際相手で先輩が呟く。
そして、全員落ち着いたところで前方を見ると済州島の漢拏山がもう見えている。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑫

武者霊の振り下ろした刀を大きく沈み込むように回避しながら前進し、更に伸びてくる女性霊の腕を跳躍して躱し、少女との距離を詰めて青葉は杖を相手の顔面に向けて突き出す。女性霊が少女の首の後ろを掴んで後方へ引くことで、少女はそれを回避し、反撃に伸びてきた無数の腕は、平坂の鳴らした鈴に消し飛ばされる。
一連の攻防を終え、2人の間に一瞬の静寂が流れる。
(……あのお兄ィさんの鈴、鬱陶しかったけど大分性質が分かってきた。あいつからの『距離』と悪霊の『格』で威力が変化するっぽいな。まあ“草分”はたしかに数だけ揃ったやつだけどさァ……っと)
青葉が振り下ろした杖の打撃を、女性霊の左腕で受け止める。青葉の小さく貧弱な身体から放たれたにもかかわらず、その威力は女性霊の腕を折るのには十分だった。
「クソ……鬱陶しい!」
ウエストポーチから取り出した個包装のキャンディ数粒をまとめて口に放り込み、少女が右手を頬に当て、小指でこめかみを叩く。それによるものか、青紫色の炎が少女の右眼から燃え上がった。
「……ん?」
「無能のくせに生意気なンだよ……! アタシの全力ブチ込んで、テメエは絶対殺す!」
後退すると同時に女性霊を前進させ、武者霊と同時に青葉に差し向ける。青葉はそれを後退りしながら回避するが、それを読んだように、斬撃から刺突に攻撃を切り替える。
「っ……!」
身を捩りながらその刃を辛うじて回避したところに、女性霊の拳が突き刺さる。
(…………動きが変わった? さっきより受けにくい……というより)
杖で拳を防いだものの地面に組み伏せられた青葉に、武者霊の斬撃が迫る。転がるようにしてそれを躱した青葉の首が一瞬前まであった場所を、刃が通り抜けた。
(……カオル)
(うん、ワタシの可愛い青葉。〈煌炎〉で当たって力の減衰しない悪霊なんて在り得ないのに……奴らの格からして、あそこまで押されるわけ無いのに)
再び距離を取り、青葉は平坂のいる場所まで下がった。
「おい、押されているようだが……手を貸すか?」
「いえ、そこまででは。突破口探すので、引き続きあの腕たちの牽制だけしていただければ」
「ふむ……だいぶ疲れてきているようだが」
「大丈夫……です、はい」
自分に言い聞かせるように言い、青葉は再び悪霊たちに向かって行った。

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Trans Far East Travelogue86〜新旧パートナー談義①〜

俺も嫁も揃って船室でひと眠りし,暫くしてデッキに出て水平線を見ていると件の松山の先輩も交際相手である俺の元カノを伴ってデッキに出てきた。
すると,嫁と元カノが2人で会話を始める。「少し良いかしら?私,本当は今の貴女の夫と結婚する筈だったの…彼は本当に優しくて,私がデートで行きたい遊園地を挙げたらその場所でのイベントの時間とか全部調べてくれて,本当に好きだったの。でも,私の誕生日に遊園地デートした次の日に突然別れを切り出されて、連絡先ブロックされちゃって…でも,原因が分からなかったから彼と復縁したかったけど,もう彼は彼で幸せそうだから無理ね」と元カノが切り出すと、「彼は日本にも韓国にもルーツを持っていて、しかも気の毒なことに6歳の時から日韓関係が改善されるまでイジメや差別と10年近く向き合ったから、誰かの軽はずみな言動で傷付く人の気持ちが分かるの。だから,彼は貴女を傷つけないように大切にしてたのだと思うわ。ただ,本人から直接聴いたけど本当はデートで遊園地なんか行きたくなかったらしいわ」と嫁も返す。
「私の国ではマイナーで知らなかったけど,今の彼氏に教えてもらった野球なら元カレと復縁できるかもと思ったら…実際に野球したり試合を観てた時のあの人の笑顔、私と付き合ってた頃よりも幸せそうで…私が一方的に好みを押し付けてたと知って…」と元カノは涙を堪えながら答え、嫁は「彼が貴女も含めて元カノと付き合っていた頃が最悪のトラウマになってたって知ってた?」と投げかける。「いいえ,でも私達が一方的に彼に好みを押し付けてたからそう思われても仕方ないわね」と元カノが言うと「そうじゃないの」と嫁が反論し、「彼にとってトラウマだった理由,それは貴女達とデートで行っていた遊園地はかつて彼をイジメて何度も自殺を試みるまで追い詰めた連中が休日に集まって遊んでた場所で彼にとってつらく悲しい過去の象徴だったし、日韓両方で盛んな野球は今も彼の心の支えだけど彼が好きなチームはデートの日の試合で必ず負けて帰宅後1人で泣いてたのに、当時の彼女は野球を知らないから自分の気持ちを理解してくれなくて,極めつけにはその人の誕生日の試合で負けて決勝ラウンドに行けずに帰りの電車で泣いてたのに隣に座ってた彼女は笑顔で心が折れたって本人が言ってたわ」と嫁も涙を堪えながら続ける。

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魔狩造物茶会 あとがき

どうも、テトモンよ永遠に!です。
予告通り「魔狩造物茶会」のあとがきです。
どうぞお付き合いください。

今回のエピソードは「とりあえずナツィたちがバトってるシーンを書きたい!」という願望から作りました。
ただそれだけじゃ無理があるので、今まで出してこなかった設定を出すことにしました(ナツィの“保護者”とか)。
まぁまだ謎は多いですが、次のエピソードはメインキャラのかなり重大な設定が出てくる予定ですので楽しみにしていてください。

さて、今回はかなり短いですがこの辺で…と言いたい所ですが、少し言っておきたいことがあるので少し。
いつも「ハブ ア ウィル」と「造物茶会シリーズ」を交互に投稿してきたので、「造物茶会」を投稿した次は「ハブ ア ウィル」を投稿しようとしているのですが…
なんと、次のエピソードを全く執筆できてないんですよね〜(笑)
ここ最近、大学での所属サークルの会誌の原稿のネームを描いたり、身内が危篤になってお見舞いに行ったり(ちなみに今は持ち直した)したので全然執筆している余裕がなかったんですよ。
あと今後も夏休みの最終盤になってゼミの発表会が2日連続であったり、学園祭実行委員会の活動があったり、実行委員会の仲間と遊びに行く約束してたりと怒涛の展開が待っているんです。
今さっきだって、学園祭で実施するスタンプラリーの台紙のデザインの下書きを急遽作ってたし…
まぁだいぶ忙しくて書いてる余裕がない訳です。
そういう訳で、次は結構前に書いた「ハブ ア ウィル」の番外編を投稿しようと思います。
いわゆる「過去話」ですが、お楽しみいただけたら幸いです。

という訳で、今度こそこの辺で。
「造物茶会シリーズ」第9弾もお楽しみに。
それでは、テトモンよ永遠に!でした〜

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑪

「クッソ……あの雑魚、いっちょ前にアタシの愛しいエイト・フィートを……!」
吐き捨てながら、少女は女性霊の腕に突き刺さった短刀を引き抜き、地面に投げ捨て踏みつけた。
「こうなったら、全リソーステメエにぶち込んで……!」
右手の中指を立てながら少女が言おうとしたその時、少女の足下に武者の霊が転がってきた。
「む……どうやら貴様の『最高戦力』は、貴様の言う『本物の雑魚』に負けたようだな」
そう言う平坂の隣に、やや息を切らした青葉が並ぶ。
「潜龍さん、すみません。仕留め損ねました」
「……何?」
青葉の言葉に、平坂は彼女に視線を向けた。
「あいつ、押し勝てないと見てすぐさまあの子の元に引き返しやがりました」
「それはつまり……奴の元に全戦力が集結した状況、というわけか」
「そう、なりますね……」
少女が傍に膝をつくと、武者の霊はすぐに立ち上がり、刀を構え直した。
「キッヒヒヒヒ……形勢逆転だな」
立ち上がりながら、少女が口を開いた。それに対して、青葉が一歩前に出て睨みつける。
「……何? アンタ如きに何ができるわけ?」
「さぁ? 少なくともついさっきまで、私はその武者を圧倒してた」
「『私は』ァ? 『私の武器は』の間違いでしょ?」
「……たしかに。あ、潜龍さん、あいつは私がどうにかするので、邪魔が入らないようにだけ補助、お願いできますか?」
突然話しかけられ、平坂は僅かに動揺を見せつつも頷いた。
「さて……」
青葉と、悪霊たちを引き連れた少女が1歩、また1歩と互いの距離を詰めていく。それがおよそ2mにまで縮んだところで2人はぴたりと動きを止め、互いに睨み合った。そして。
「…………」
「…………」
「「…………ブッ殺す!」」
2人の少女は同時に吠え、己が武器を振るった。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑩

青葉が武者の霊と戦っている間、平坂は少女との距離を詰めようとしていた。無数の腕の霊“草分”が進路を阻もうとするたびに、平坂の手の中の鈴の音色がそれらを消し飛ばす。その様子を見ていた少女は、苛ついた様子で咥えていたロリ・ポップを噛み砕いた。
「ねェお兄ィさんさぁ……人の可愛がってるモノ苛めといて許されると思ってんの?」
「こちらは身内が貴様の悪霊にかなり痛めつけられたのだがな……。先日遂に3人衰弱死した」
「何、お兄ィさんは人食いヒグマにも人道を説くタイプのひと?」
「…………」
その問いには答えず、平坂が投げた鉄製の掌大の円盤は、またしても空中で叩き落とされる。
(ふむ……。一瞬だったが見えた。奴を守るように背後から伸びてきた青白い腕。あの武者とも周囲の腕たちとも異なる、『3体目の悪霊』か)
平坂は懐に手を入れ、しばらく探ってから1本の短刀を取り出した。
「わァ怖ぁーい。そんなものでアタシを殺すつもり? それこそ殺人だよ?」
けらけらと笑いながら少女が煽る。
「なに、殺しはしない。ただ元凶を斬るだけだ。それに多少の無法はもみ消せる」
「へェ……」
少女は吊り上がっていた口角を下げ、2本目のロリ・ポップを咥えた。
「……やってみろクソ雑魚」
少女の挑発と同時に、平坂はすり足のように歩き少女に接近した。
「はン、バカ正直に真っ直ぐ突っ込んで来やがって……“アタシの愛しいエイト・フィート”」
左手を目の前に突き出しながら、少女が呟く。すると、彼女の背後から白いワンピースと長い黒髪が特徴的な、異常に長身の女性霊が出現し、少女を守るように左腕で抱き寄せた。
1mほどにまで接近して平坂が突き出した短刀を、女性霊は空いた右腕で振り払うように防ごうとする。と、刃は弾かれる事無く女性霊の腕に深々と突き立てられた。
「ッ、テメエ! アタシのモンを何傷つけてやがる!」
少女の叫びと共に、女性霊が無事な左腕を振り回す。平坂は刺さった短刀から手を放し、距離を取るようにしてそれを躱した。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑨

平坂と背中合わせに立ち、青葉は彼に呼びかける。
「潜龍さん、あの武者は私が何とかします。腕の方をお願いできますか?」
「お前にどうにかできるのか?」
「ええまあ、恐らくは」
「……こちらでも見てはおくからな。対処しきれないと思ったらすぐに言え」
「了解です」
再び武者の霊に接近し、杖を用いて打ち合う。
(……何かこの落ち武者、見た目よりパワーが無いな?)
小柄で華奢な青葉の倍近い体格の武者の霊だったが、多少力を要するものの、青葉でも十分に攻撃を防げていることに疑問を覚えつつ、隙を見て胴体に打撃を叩き込み、大きく後退させる。
(……やっぱり弱過ぎる。カオル、何か知ってる? カオルに言われて持ち出したものなんだけど)
(んー? ワタシの可愛い青葉、その子は私の妹だよ。銘を〈煌炎〉。私と違って、『怪異を殺す刀』なんだ)
(へぇ……ん?)
「刀ぁ⁉」
武者の霊から距離を取りながら、青葉の口から叫ぶような声が飛び出す。
(そうだよ、ワタシの可愛い青葉。〈煌炎〉はワタシ〈薫風〉と同じ刀匠の打った仕込み杖なんだ)
「そ、そうなんだ……?」
(まあ……抜くのはおすすめしないけど。ちょっぴり危ない子だからさ)
「ふむ……殴り倒す分には大丈夫なんだ」
(だいじょうぶー)
「分かった。取り敢えずこのまま戦おうか」

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Flowering Dolly:釣り人の日常 キャラクター紹介

・カリステジア
モチーフ:Calystegia soldanella(ハマヒルガオ)
身長:137㎝  紋様の位置:右手首の裏側  紋様の意匠:昼顔の葉
白いノースリーブのワンピースと麦わら帽子を身に付けた、黒髪ショートヘアのドーリィ。肌は青白く、目の下には濃い隈ができており、ちょっと心配になるレベルで薄くて細い。開始時点では誰とも契約しておらず、毎日波止場で釣りをしたりコンクリを這うフナムシを眺めたりしていた。
固有武器はサバイバルナイフ。全長約20㎝。使わない。
得意とする魔法は結界術。直方体の結界を張り、結界の境界面に触れたものは反対側の面から出てくる。その特性のお陰で絶対不壊。ちなみにこの効果は内側と外側どちらにも付与できるし付与しないこともできる。結界そのものの強度はジュラルミンくらい。
ビーストにボコボコにされる人間文明を見続けてちょっとヘラってるところがあるので、そんな中で「日常」を諦めない人間を見ると、脳を焼かれて自分を押し売りしてくる。
ちなみにマスターが「日常」を捨てた瞬間、自分とマスターの2人がギリギリ収まる程度の極小結界に2人で閉じこもり、マスターが窒息するまで抱き着いて寄り添っていてくれる。過去の被害者は1人。契約直後、マスターになったからって変に気負った瞬間やられた。理想は契約しても「ドーリィ・マスター」という使命感を意に介さず普段通り生活できる人間。

・砂原さん(サハラ=サン)
年齢:16歳  性別:男  身長:169㎝
とある港町で1人暮らしをしている少年。ビースト出現騒ぎが増えて次々住民が余所に疎開する中、頑なに故郷に居続ける狂人。ちなみに他の家族は全員内陸部に住む親戚の家に避難しました。1人で居残った理由は単に面倒だったから。学校教育は遠隔で課題をやってるので大丈夫。
基本的に毎日無人の漁港で釣りをしながら、海に現れるビーストやそれと戦うドーリィの様子を眺めている。釣果は1日平均0.04匹。
下の名前はちゃんとあるけど、カリステジアにバレるのは何か嫌なので、頑なに言わない。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑧

少女はウエストポーチからロリ・ポップを取り出し、包装紙を剥いて歯で挟むように咥える。
「そっちの雑魚のお兄ィさんが雑魚なのはまァ、前提として……そっちのガキは何なの? 見た感じ、霊感すら無いマジモンの雑魚じゃん」
少女から明らかな侮蔑を受けながらも、青葉は努めて冷静に彼女を睨み返していた。
「ところでお兄ィさん。さっき投げたの何? アタシの愛しい悪霊が痛い思いしたんだけど?」
「その言い方……近頃騒がれていた『操られた悪霊』の元凶は貴様か」
「まぁねぇー」
答えながら、少女は屋根から飛び降りた。膝と腰を大きく曲げて衝撃を殺し、ゆっくりと立ち上がる。
「……殺れ、“草分”」
言いながら、少女は右手の親指を下に向けるハンドサインをしてみせた。瞬間、青葉と平坂の周囲の地面から土気色の無数の腕が現れ、2人に掴み掛かる。
しかし、平坂が懐から取り出した鈴を1度鳴らすと、二人の一定以内の距離まで近付いていた腕は一斉に消し飛んだ。
「……は? おいテメー今何をした?」
少女の放つ殺気が一段と濃くなる。
「悪霊に寄られたから追い払っただけだが」
平坂は平然と言い返す。その態度に、少女は苛立たし気に頭を掻きむしり、不意に脱力した。
「そっかー……まァ、ほんのチョピっと削れただけだから良いんだけどさァ……」
少女が右手の中指を立てる。
「やっぱお兄ィさん、アンタ死ぬべきだ」
平坂と青葉に、重く鈍い足音が近付いてきた。
(ん、さっきのか……)
青葉はすぐに音の方に振り向き、今にも刀を振り下ろそうとしていた武者の悪霊の喉元を杖で突いて押し返した。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑩

結局、空間は広げてもらえないままバリア内部にて待つこと数分。ようやくいつものドーリィが来て、巨大ウミヘビを海の方まで押し返してくれた。
「ようやく安全になったか……。おいカリステジア、もうバリア解除して良いぞ」
「えー」
「何が『えー』だよ」
「せっかくだし、もう少しだけこのままじゃ駄目ですか?」
「駄目」
「むぅ…………まあ、お兄さんが言うなら……」
ようやく解放され、バリアの壁にもたれていたものだからそのまま倒れる。軽く頭を打った。
「痛って……」
「お兄さん、大丈夫ですか? 治しましょうか?」
「いや大丈、夫……あん?」
ふと、自分の右手首を見る。カリステジアのと同じ場所に、同じ紋様が刻まれていた。
「……あーお前と契約したからか…………これ、銭湯とか入れるのかな……」
「えっ可愛いドーリィと契約した証を見て最初に思うのが刺青判定されるかどうかなんですか?」
「そりゃまあ、そもそも押し売られたものだし。思い入れも何も無ェ」
「そんなぁ」
釣り道具を片付け、立ち上がる。
「あれ、今日はもう帰っちゃうんですか?」
「いや、場所変える。流石にあのウミヘビに粉砕された堤防で釣りは居心地悪いし」
「あっ釣りはやめないんですね」
「まーな。ドーリィが守ってくれるんだろ?」
「っ……! はい! 全身全霊を以て!」
この場所も気に入ってたんだが、壊された以上は仕方がない。新しいポイントの開拓といこうか。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑦

「なッ、貴様、待て! 何をする気だ!」
平坂は慌てて後を追うが、青葉の敏捷性には追いつけず、その差は少しずつ開いていく。
やがて二人はその路地の最奥、数軒の民家に囲まれた行き止まりに辿り着き、そこで一度立ち止まった。
「何故逃げた……岩戸の……」
息を切らしながら、平坂は青葉に近付いた。
「私は容疑者の姿を遠巻きとはいえ実際に見ています。協力できるはずです」
「貴様…………分かった。協力はしてもらうが、俺の監視下に置くからな。勝手はさせんぞ」
「はい。それで良いです」
2人が話を付け、表の通りに戻ろうとしたその時、突然、平坂が振り返った。
「? 潜龍さん?」
「……お前、ここに子供が入ってきたと言っていたな」
「はい、言いましたけど……」
「俺は姿こそ見なかったが…………どうやったんだ?」
「何がです?」
青葉の疑問には答えず、平坂はある民家の屋根の上に何かを投げつけた。ほぼ直線の軌道で飛んでいったそれは、硬い金属音と共に弾かれ、地面に落下する。
「……危ないなァー。体力少ない雑魚のくせに投擲力だけは無駄にあるんだから」
屋根の上から、柄の悪いやや幼めの女声が降ってきた。
青葉がそちらに目を凝らす。星明りの下、注意して見ると、屋根の縁に一人の少女が足を組んで腰掛け、2人を見下ろしていた。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑨

ウミヘビの方を見る。何度か攻撃を繰り返しているようだけど、本当にこっちには何の影響も無いみたいだ。
「あー……カリステジア」
「はい」
「詳しく説明してくれ」
「はい。私のバリア、6面の直方体の形なんですけど、えっと……」
カリステジアは俺の釣竿に付いていた浮きを外して掌の中で転がしてみせる。
「これを……こう」
奴がそれを真横に向けて投げた。浮きは奴が投げたのと反対方向から、俺達の間に転がって来た。
「こんな感じで、私のバリアの境界面に触れたものは、反対側から出てくるんです。外側と内側、どっちにも適用できるし、通り抜けを起こさないのもできますよ。……と、いうわけで」
奴がまた抱き着いてきた。周りのバリアが狭まったのが触覚で分かる。
「いつものドーリィちゃんが何とかしてくれるまで、私達はこうしてのんびり待っていましょうね」
「それは良いけどまずは離れろや」
「お兄さん……当然ですけど、バリアは広げるほど消耗が激しくなるんですよ? できるだけ狭い空間で密着してた方がお得じゃないですか」
「…………ちなみに、あとどれくらい持つ?」
「お兄さんが寿命を迎えるまでくらいの時間は余裕で」
「ならもう少し広げようなー」
「そんなぁ……」

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑥

また数分、屋根の上を走り続け、交差点に差し掛かったところで立ち止まり、一瞬の逡巡の後、再び路上に飛び降りる。
その時、一瞬視界にカーブミラーの鏡面が入り、即座にそこに映っていた道に駆け込んだ。
(どうしたの、ワタシの可愛い青葉?)
(見つけた! 『何かを探していない様子の人間』!)
青葉の見つけた人影は、すぐに細い路地に入ってしまったようで、青葉も10秒ほど遅れ、後を追ってその路地に飛び込んだ。
「わっ」
「む……またお前か」
そして、その路地から出てこようとしていた平坂と正面からぶつかってしまった。
「お前……何故ここにいる?」
「じっとしていられなくて……それより、ここに誰かが入って来ませんでしたか?」
「『誰か』……? いや見ていないが……どんな奴だった?」
屈んで目線の高さを合わせながら、平坂が尋ねてくる。
「おそらく私と同年代の子どもです。特に目的も無い徘徊といった感じで歩いていました。『犯人』の可能性が高いです」
「……犯人、だと?」
「はい、『悪霊を操っている』、その犯人です」
平坂は再び立ち上がり、見下ろす形で青葉に相対した。
「おい。お前、あの姉からどこまで聞いた?」
「姉さまからは何も。ただ、不自然に統率の取れた悪霊たちのことは、ついさっき確認しました」
「……そうか。情報提供には感謝する。しかしとにかくお前は帰れ。具体的な危険性も分かっているんだろうが」
「むぅ……」
青葉は頬を膨らませ、帰途につくために振り返った、ように見せかけ、素早く振り向き平坂の真横をすり抜け、路地の奥へと駆けて行った。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑧

………………そろそろウミヘビに食い殺されていてもおかしくないと思うんだが、何も起きない。
周囲の様子を確認してみる。周囲の深く抉れたコンクリート、頭上を通る巨大ウミヘビの胴体。俺の胴体に抱き着いて密着してくるカリステジア。座った姿勢のままで曲がっていた膝をとりえず伸ばしてみると、空中で何かに引っかかる。手探りしてみると、どうやら俺達はかなり狭い空間に閉じ込められているらしい。
「んぇへへ…………」
カリステジアがこちらを見上げてくる。奴が徐に持ち上げてみせた右の手首には、朝顔か昼顔の葉っぱみたいな紋様が刻まれている。
「契約完了、です」
「………………カリステジア」
「はい」
「正座」
「はい……」
俺達を閉じ込める空間が少し広がった。カリステジアは俺から少し離れた場所に正座する。
「あのさぁ……契約って双方合意の上で成立するものじゃん」
「そうですねぇ……」
「別に契約すること自体は俺だって全く嫌ってわけじゃねーよ? けどさぁ……こういうのはちゃんと順序踏もうな?」
「お兄さん……! 私のこと、受け入れてくれるんですね……!」
「はいそこ喜ばない。お前今説教されてんの。オーケイ?」
「はーい」
にっこにこしやがって……。何かもうどうでも良くなってきた。一応俺達は安全っぽいし。
「なぁ、このバリア? って割られたりしねーの?」
「あ、それは平気です。通り抜けますから」
「は?」

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑦

「……ごめん俺契約の押し売りは断れって死んだ婆ちゃんに言われたから……」
「そんなぁ、どうして」
つい勢いで断ってしまった。実際、ドーリィがいれば安心ってのは事実だ。最近はビースト事件の報道も増えてきているわけで、マスター付のドーリィが身近にいれば安全性は一気に向上する。けどなぁ……。
「いやだってお前……なんか、あれじゃん……」
こいつがドーリィだってのが事実だったとして、こいつ個人と契約するのはなぁ……。
「でも私、お兄さんのこと命に代えてもお守りしますよ?」
「お前なのがなぁ……そもそも互いに名前すら知らねえじゃん。信頼も何も無ぇ」
「あ、私お兄さんの苗字知ってます。スナハラさん!」
「サハラな。砂に原でサハラ」
「砂漠?」
「違げえよ。いや字面的にはそれっぽいけど」
「そういえば砂砂漠って『砂』の字が2個連続してて面白いですよね」
「おっそうだな」
「あ、私の名前でしたよね。私、カリステジアっていいます。ハマヒルガオのCalystegia soldanella」
「長げぇな」
「短く縮めて愛称で呼んでくれても良いんですよ?」
「えっやだそんなのお前と仲良いみたいじゃん……」
「最高じゃないですかぁ」
少女カリステジアと言い合っていると、俺達の上に影が覆い被さってきた。
「ありゃ……これは、マズいですかね?」
カリステジアの言葉に見上げると、あの巨大ウミヘビが俺達を見下ろしていた。
ウミヘビが口を開けて突っ込んでくる。同時に、カリステジアが俺を押し倒した。悪いが地面にへばりついただけでどうこうなる話じゃないと思うんだが……。