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マホウショウジョ・リアリティショック 前編

学校からの帰り道。目の前にぬいぐるみが座っていた。
何かの動物をモチーフにしているんであろう、実在の生き物では確実に無い何か。
それに気を引かれながらも真横を通り過ぎようとすると、すれ違う瞬間、それの首がぐりん、とこちらに向いた。
「わぁ生きてた!」
「やぁ、ミチカちゃん」
ぬいぐるみが私に話しかけてくる。何故これは私の名前を知っているんだろう。
「……取り敢えず何? ぬいさん」
しゃがみ込んで目線を合わせ……いや高さ15㎝かそこらのぬいぐるみと完全に目線を合わせることは不可能なんだけど……とにかく用件を聞くことにする。
「ねぇミチカちゃん、『魔法少女』になってみたくないかい?」
「何それ」
「煌びやかな衣装を身に纏い、華やかな魔法を自在に操り、化け物達と戦って世界を守る、素晴らしい人種さ」
「へぇー……お断りしまーす」
立ち上がって帰ろうとする私を、ぬいぐるみが引き留めた。
「ま、待ちたまえよ! 君だって一度や二度はあるだろう。『魔法』や『ファンタジー』に憧れたことくらい! ぼくの誘いを受ければ、『魔法少女』としてどんなことだってできるようになるんだ!」
「へぇ興味無いなぁ」
「そ、そんな……」

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鉄路の魔女:あんぐら・アングラー その②

「オーケイそのまま、向こうのデカい交差点まで追おう」
「了解おギンちゃん。タイミングそっちで調整してね」
「はいはーい」
ギンと呼ばれた魔女は速度を上げ、先回りしてみせた。
「キンちゃん一瞬止めてー」
「はいはい了解」
大鯰の進む先にギンの放った矢弾が直撃し、粘性の高い液体がまき散らされ、大鯰の移動速度が一瞬遅れる。
「これで良い?」
「おっけぇーい!」
移動の勢いのまま、大鯰が空中に飛び出す。その巨体は、大型道路の交差点に落下しようとしている。
(奴にこのまま突っ込まれると、車に乗ってる人たちがイマジネーションを吸われちゃうかもしれない。だから)
足首に仕込まれた固有武器であるシックル・クロウを起動しながら、ギンは大鯰に飛び蹴りを食らわせた。
発条機構の弾性力とギン自身の威力と質量、速度の乗った攻撃が、大鯰を一瞬押し留めるが、体格差ゆえにすぐ弾き飛ばされてしまう。
「うぅ……流石に重さが違うや…………けど」
大鯰はそのまま落下していく。交差点の中央、信号の切り替わる瞬間の、『車が1台も通っていない』ど真ん中に。
「これで十分。お前に食わせるイマジネーションは無いよ」

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑫

「じゃあお前がやれよ、潜龍の」
「何?」
「だから潜龍の、お前がリーダー。私は別に、この寄合さえ完成しちまえば誰が偉いとかはどうでも良いんだよ。だからお前が代表な。お前にとっても都合良いだろ? ちなみに、お前がやらなかった場合、一番不満が出ないであろう青葉ちゃんがやることになるぜ」
「…………分かった、引き受けよう。……で、何をすればいいんだ?」
「知らないよ。お前がテッペンなんだからお前が考えろ。もう私には責任無いからな」
「貴様…………」
結局、平坂さんと種枚さんで今後の方針を固めるということに決まり、残りのメンバーは自由解散ということになった。

市民センターからの帰り道、すっかり暗くなっていた道を白神さんと隣り合って歩く。
「いやぁ、わくわくするなー。ね、千葉さんや?」
「いや、自分は別に、どうとも……」
「んー? 千葉さんも〈五行会〉に入るんだよ?」
至極当然といった顔と口調で、白神さんが言ってきた。
「はい?」
「だってわたし、良さげな人を好きに身内にして良いんでしょ?」
「それは……どうなんだ……?」
「これで千葉さんはわたしのものだね」
「……それも、どうなんですかね……?」

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視える世界を超えて エピソード9:五行  その⑪

一頻り各自で盛り上がり、しばらくしてそれも落ち着いた。
「……さて、そろそろ話が飲み込めたところだろうし、いくつか決めごとをしたいと思うんだが、構わないね?」
種枚さんがそう切り出した。
「あまりトチ狂ったことを言わなければな」
平坂さんが答えた。
「別にお前らみたいなのに不利に働く提案はしないよ」
種枚さんが出した決め事は3つ。
一つ、新入りを引き入れた際には他の4人に報告すること。
一つ、可能な限り相互に連絡を取り、直接面会すること。この際5人全員の集合は努力目標で構わない。
一つ、身内の救援要請には、可能な限り応えること。
「な? 別に悪い話じゃなかったろ?」
「……まあ、そうだな」
平坂さんも納得している様子だった。
「はいはーい、メイさんからこれまた質問」
また白神さんが手を挙げた。
「何だよシラカミメイ」
「この5人で始めるってのは良いんだけど、リーダーとか代表みたいなのっているの?」
この問いには、種枚さんと平坂さん、犬神ちゃんの3人がぴくりと反応した。
「キノコちゃんがリーダーなんじゃないの? 発案者だし」
「馬鹿言え、こんな鬼子の下に就けっていうのか」
「私は正真正銘、ただの人間なんだけどねェ?」
「どこがだ」
また言い合いが始まった。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑨

「お前のトコなんかそういうのは『ナシ』だろ? 潜龍の」
振られた平坂さんは無言で頷く。
「野生の才能ってのは意外といるモンだ。現に私もシラカミも、完全フリーだったろ? これを『こっち側』に引き入れて、戦力にできる。しかも、NGは無しだ。来るもの拒まずって感じで」
「えー? 私の時はあんなに殺意バリバリだったのに?」
白神さんが拗ねたように言う。
「お前のせいっつーかお陰でこっちも考えが変わったんだよシラカミメイ」
「むぅ、それならヨシ」
「偉ッそうに……で、私どこまで話したっけ」
「野生の霊感持ちを囲えるってとこまでッス、師匠」
種枚さんの後ろに立ちっぱなしになっていた鎌鼬くんが答えた。
「そうだった。良いか、これには利点が3つある。まずウチの戦力増強。次に、青葉ちゃんや潜龍のみてーな元からある組織に戦力が流せる。そしてもひとつが……潜龍の」
「何だ」
「お前みたいなのは、この寄合に助けられると思うぜ? なんせ、問題児が全員手の届く場所に集まるんだからよ」
「……なるほどな。悪い話でも無いか」
「だろォー? 誰ぞ反対する奴はいるかい?」
種枚さんのその言葉に乗る人はいなかった。全会一致で賛成ってことだろう。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑧

「まあコイツのことはどうでも良いんだよ。見張りも付けるし、何ならお前が直々に目ェ光らせておきゃ良いんだ、潜龍の」
種枚さんの言葉に、不満げながら潜龍さんは納得したようだった。
「さて、この寄合の本質は、『怪異に手の出せない人間の保護』だ。ちょっと偉そうかね?」
「「いや」」
青葉ちゃんと平坂さんが同時に答えた。
「『それ』は“潜龍”の存在意義でもある」
「岩戸家も左に同じく」
「マジかよお前ら。こいつァ都合が良いや」
けらけらと笑い、種枚さんは話を続けた。
「この寄合はこれからどんどんデカくなるぜ、予言する。私ら5人はその天辺に立つのさ」
「はい、1個質問」
青葉ちゃんが手を挙げた。
「何だい青葉ちゃん」
「この寄合を作る意味って何です? 怪異退治なら、正直既にいくつか組織がありますけど、これ以上増える必要ってあるんですかね?」
「ぁー…………」
種枚さんは軽く唸り声をあげ、しばらく目を泳がせ、再び口を開いた。
「まず、この寄合は飽くまで『個人の集まり』だ。勝手と融通が利く。次に、『はぐれ』の霊感持ち、あとはシラカミみてーな奴を好きなように囲える」
「へ? メイさんみたい、とは?」
白神さんが気の抜けた声をあげた。
「『こっち側』に引き込めそうな『そっち側』」
「はーん……なーるほどー」

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子供は適切な保護者に安全に教育されなければならない 前編

〈ブラックマーケット〉のとある夜。元より陽光は〈地表面〉に遮られ、昼夜の区別など殆どつかないこのエリアでは、クォーツ時計と体内時計だけが日時を示す。
下品なネオンライトの輝く路地を遠くに眺めながら、男は『学校』を囲む塀――もはや『城壁』と呼ぶべき規模のそれ――その上、半ば私室化した空間でアルコールバーナーを操作していた。
「………………」
青白い火を眺めていた男はふと、塀の下、『学校』敷地内に視線を送る。
闇に紛れるように黒色の布地に身を包んだ小柄な影が、前庭を駆け抜けようとしている。
「……はァ。クソガキがよォ…………」
男は溜息を吐きながらアルミ・ケトルを火にかけ、わざとらしく物音を立てた。それに気付き、影がびくりと身じろぎして足を止める。
「よォ。夜更かしか? ガキは寝てるべき時間だろうが」
影は答える事無くじっとしていたが、不意に布の下から腕を突き出し、男に向けた。男が合金製のライオット・シールドを引き寄せるのとほぼ同時に乾いた破裂音が響き、男の構えた盾に何かが高速でぶつかる。
「……なるほどなァ…………。『武器庫』から火薬銃が1丁無くなってると思ったら、お前か。どうせなら熱線銃の方パクっときゃ良いものをよォ。ま、隠し持つならそっちだよな」
軽く笑いながら、男は『武器庫』と呼んでいる木箱から目的の道具を手探りで取り出し、地面に向けて放り投げ始めた。
目的の品を出し尽くした後は、ライオット・シールドも地面に放り、自身も飛び降りる。一連の動きを、影は身動きできずに眺めていた。
「さァて…………と」
着地の衝撃を殺すために大きく曲げていた膝と腰を伸ばしながら、男は口を開く。
「よォ、不良のクソガキが」
「…………ミネ、先生」
影が羽織っていた黒色の布を解き、地面に投げる。その下から現れたのは、まだ幼さの残る少年だった。

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Side:Law in Black Market:真黒な闇から真白な貴方へ 前編

今からおおよそ200年ほど前の事だったでしょうか。世界は軽く滅亡しました。
理由ですか? いえ、私はその頃生まれてすらいませんでしたので……。資料? 残っているわけ無いじゃないですか。紙の書類や書物はどれもこれも真っ先に燃料になっちゃいましたし。もしかしたら誰かがデジタルメモリで保存しているかもしれませんが……少なくとも私は知りませんね。情報が欲しいなら〈アッパーヤード〉にでも行ってみたらいかがです?
さて閑話休題。種の滅亡を目前にしたとき、本能的にそれを回避しようとするのが生物というものです。幸い、『ヒト』という種族にとってもそれは同じだったようですね。
世界各地の大都市(メトロポリス)を拠点として、スカイ・スクレイパー群の上層へと逃げるように移住した人間たちは、争ったり協力したり、ウヨキョクセツを経た結果、やがて収斂進化的におおよそ3つのエリアが成立しました。
1つ目に〈アッパーヤード〉。さっきちらっと口にしましたね。最低でも地表から100m以上の高さに位置し、そのメトロポリスの有力者や権力者の居住区と、図書館や情報関係の施設など、人類にとって重要になる施設が多く見られるエリアです。“天界”なんて呼び方をする人たちもいますね。
2つ目に〈グラウンド〉。目安として、地表から40m以上に位置し、生き残りの子孫のおよそ7割が暮らしています。ちなみに〈アッパーヤード〉の人口比率はおおよそ2割ほどです。
“地上”とも呼ばれるこのエリアの特徴はスカイ・スクレイパー群の間に橋渡しするように増築された迷路のような居住区です。ぱっと見、本当にそこが地表みたいに見えるんですよ。下から見上げたり遠くから眺めると壮観ですよ、おすすめです。

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Side:Law in Black Market 用語集・その他編

・200年前:人類が軽く滅亡したあの一件。詳細は不明。病気かもしれないし、戦争かもしれないし、地球外生命体かもしれないし、ロボットとAIの反乱かもしれない。真相は〈アッパーヤード〉の情報保管施設で厳重に保存されており、それと過去の様々な記録を基に、有力者の人たちが社会維持のための様々な方策を考える。これに関する無断での情報閲覧は違法。死刑。すごく面倒で長ったらしい手続きをこなせば、監視付きで閲覧可能。公表されていない理由は、無用なパニックでただでさえギリギリで持ち堪えている人類が崩れてしまったらマズいから。人類の危機を救うため、本気で知りたがっている人間だけが面倒な手続きの果てに知ることができる。ただの尋常じゃない好奇心でも、手続きさえほっぽり出さなければ閲覧できる。

・『商品価値』:〈ブラックマーケット〉の『掟』において最重要視されているもの。所持品、才能、技術、人脈、人徳、その他もろもろ、金を稼ぐあるいは食いつなぐことができるだけの何か。無くても大丈夫。『肉体』と『生命』の価値は誰かが見出してくれる。

・〈ブラックマーケット〉の掟
この地において上界の法は適用されない。我々は法的に「死人」である。
この地を出る際、身の振り方には注意すべし。我々は法的に「死人」である。
他者の持つ『商品価値』には相応の『商品価値』を対価として差し出すべし。
『商品価値』無き者の価値は、それを最初に見出した者の自由とする。

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鉄路の魔女:Nameless Phantom その③

片手で扱える短いメイスを手にしていたミドリちゃんが、大回りで私の背後に回ろうと駆け出す。なるほどこれは長く重いランスを持ったアオイちゃんには難しい動きだろう。そう思ってアオイちゃんの方に視線を戻そうとしたときだった。
「あぐっ……」
脇腹に何かが勢い良く突き刺さった。アオイちゃんのランスじゃない。あれほど重くは無い、むしろ軽く速度だけのある弾丸でも食らったみたいな……。
「うっ、がっ、あがっ」
その『弾丸』は更に撃ち込まれる。アオイちゃんの仕業みたいだ。首や背中にも『弾丸』が突き刺さり、その度に鋭い痛みが走る。
「痛いなァ……ごふっ」
アオイちゃんに向き直ろうとして、後頭部に強い衝撃を受けた。ミドリちゃんに殴られたんだ。
「うぐぅぇぇ…………ひどいことするゥ……」
これ以上殴られても困るので、取り敢えず棍棒を振り回して牽制する。と、またアオイちゃんの射撃だ。流石に慣れてきたので、機械腕で防ぎながら、彼女の方に馬脚を走らせる。アオイちゃんが反応する前に距離を詰め、棍棒で掬い上げるように吹き飛ばした。しかし彼女もただじゃやられてくれないみたい。向こうもきっちり、弾丸で反撃してきた。痛い。

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Side:Law in Black Market

企画っていうか厳密にはその下位互換っていうか、敢えて明文化するなら『誰でも好き勝手使って良い世界観』とでも言えば良いんですかね。そんな感じのものをご用意したんですがね。誰か使ってくれないかなー……って。
そういうわけで期間なんかも特に定まっていないわけなんですが。これ使って何かやれそうだなって人はタグに『Side:Law in Black Market』か『SLBM』か『さいどろ』と入れてお話とかポエムとか書いてくれると嬉しいです。というわけで以下雑に世界観。

舞台は近未来の世界。自律ロボットもサイボーグも多分いる。約200年前、人類は滅亡の危機に瀕した。
理由は不明。紙媒体の資料はポスト・アポカリプスにおいて『燃料』として消えてしまったから。デジタル・デバイスは生きているが、重要な情報は大部分が厳重に保管・秘匿されているため、真相を知る人間は少ない。
人類は世界各地のメトロポリスの高層建造物群を利用し、上へ上へと逃げるように移住していった。やがて彼らはそれぞれの役割に応じて、そのスカイ・スクレイパー群に3層に住み分けるようになる。
地表から100m以上の上層〈アッパーヤード〉。総人口の約2割、主に有力者や権力者が住み、デジタル・メモリを利用した情報・記録の保存と各スカイ・スクレイパー群の統治を目的としたエリア。
〈アッパーヤード〉より下、地表から40m以上の〈グラウンド〉。建造物の隙間に橋を渡すように増築された『地表』が総面積の約7割を占める、一般市民の居住区。
そして、〈ブラックマーケット〉。正確な規模や面積は一切不明で、地表から〈グラウンド〉や〈アッパーヤード〉の高さにまで食い込んでいることすらある、人格や思想故に民衆から『あぶれざるを得なかった』ドロップアウター達が最後に辿り着く危険地帯。
〈ブラックマーケット〉の領域内において上層の『法』は適用されず、ただ『商品価値』を示せる限り生を許されるという『掟』だけで回っている。『価値』を失った人間は、最後に残った『肉体』と『生命』を『価値』が分かる人間に『活用』されることになる。

物語の主な舞台は〈ブラックマーケット〉。ドロップアウター共が己の『価値』を武器に現世の地獄を生き抜く、そんな歴史の端にも引っかからないような、ちっぽけなお話。

というわけでもうちょい色々書きますね。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その⑥

「お、全員揃ってんじゃーん。みんな真面目だねェ」
そう言いながら、扉に一番近い椅子に身を投げ出したのは種枚さん。その背後に鎌鼬くんが立ち、……あと1人、この少女は見たことが無いな。小学生くらいかな? 種枚さんの知り合いだろうか。
「ほれ、全員座りなよ。いつまでも立ってるのも疲れるだろ? ああ、犬神ちゃん、セッティングありがとう」
「良いの良いの」
答えながら、犬神ちゃんは種枚さんの席から1席挟んだところに座った。隣に座るだろうと思っていたから意外だった。種枚さんの隣には、近くにいた白神さんが座る。
「……あれ、潜龍神社の跡継ぎさんだ」
「ん? ……何だ、岩戸の三女じゃないか」
「なんで姉さまとの縁談断ったんです?」
「悪いがこちらも跡取りだ……というかそんな話を人前でするな」
「これは失礼しました」
少女はどうやら、神社の男性と知り合いらしい。
「……コネの無い連中は知らない同士だろ。とりあえず自己紹介でもしておくかね? お前ら全員私のことは知ってるはずだから良いとして」
種枚さんが顎で白神さんを指す。
「あ、白神メイです。どうぞよろしくー。じゃあお隣さん」
「私? 犬神って呼んでくれれば良いよ。はいお隣にパス」
犬神ちゃんの左隣に座っていたのはあの少女だった。
「えっと、岩戸青葉です。呼び方はどうぞお好きなように。跡継ぎさん、どうぞ」
「む…………一応、潜龍の名で通ってはいるが……平坂だ」
一周して、種枚さんに手番が回ってくる。
「あとは私の馬鹿息子とお気に入りが同席してるな」
「だからその言い方やめ……あの、俺別にこの人の子どもとか養子とかそういうのじゃないんで。どっちかっつーと弟子です。えっと、まあ鎌鼬と呼んでいただければ。じゃあお気に入りさん」
「えっあっはい」
そういえば、鎌鼬くんにも名乗った事は無かったっけ。
「えっと、千葉です。種枚さんにはいろいろと助けてもらってます」
何故か拍手があがった。

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鉄路の魔女:Nameless Phantom その②

『私』が自我を得た時、既に下半身は機械の蹄を持った馬のそれだった。ただでさえ文字通り『馬力』のある脚が、更に機械仕掛けでパワーを強化されている。そんな私の蹴りを受けて尚、あの二人は立っていた。どうやら各々、武器で身体を庇っていたようだ。
「さて……困ったなァ…………喧嘩は良くないって常識じゃンかァ…………」
イマジネーションはさっきの人から十分もらってるから、戦うには足りる。
「…………けどなァ……そういうの良くないもんなァ……」
残念ながらアオイちゃんもミドリちゃんもやる気満々みたいなので、取り敢えず自衛のために武器は用意しておくことにする。
右手を真上に掲げ、その中に私の武器、金属製の六角柱に持ち手を付けたような武骨な外見の棍棒を生成する。取り敢えずそれを肩に担ぎ、2人の様子を見ることに。
「くっ……アイツ、武器を出した。やる気だよアオイちゃん」
「うん……かなり大きい。不用意に射程に入らないようにしなきゃ」
2人はどうやら作戦会議をしているようだ。まあ、こちらから仕掛ける理由も必要も無いわけだし、のんびり待とうか。
2人は声を潜めてしばらく会話していたが、20秒ほどで切り上げ、こちらに向かってきた。その足取りはさっきまでの勢いのあるものとは違う慎重なもので、試しに棍棒を軽く振って見ると、すぐに後退ってしまう。
「どうしたの? 私を倒すンじゃァなかったの?」
「うっ……うるさい! お前なんか、私たち2人で掛かれば楽勝なんだから!」
ミドリちゃんがそう言った。頼もしいね。
それから数秒ほどだろうか、2人が遂に動き出した。

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鉄路の魔女:Nameless Phantom その①

今日は朝から気分が良かった。こんなに意識がはっきりしているのはひと月ぶりくらいだろうか。せっかく機嫌が良かったから、私の進むべき道をのんびり散歩していただけだというのに。
「アオイ、そっち行った!」
「了解! 食ら……えっ!」
いつか何かの広告で見た海のように青いドレス姿の“鉄路の魔女”アオイちゃんが突き出してきたランスを、大きく身を屈めて回避する。回避のために咄嗟に足を止めたせいで、もう片方の“鉄路の魔女”ミドリちゃんも追いついて来て、メイスを叩きつけてくる。機械腕でそれを防ぎ、大きく跳躍して二人から距離を取る。
「もう……なんだってこんな……仲間じゃァないかァ……」
「仲間だって⁉」
「お前なんかと一緒にするなよ、“幻影”!」
2人は私に対して、随分と敵意を剥き出しにしている。たしかに人間とほとんど姿の変わらない2人と違って私の下半身は馬のそれだけれども。ケンタウロス差別だろうか。
「何言ってるのか分からないけどさァ……もっと平和にいこうよ、ね?」
2人を落ち着かせようと話しかけながら、ついでに近くを通りかかった人間の頭に腕を突っ込んで、「イマジネーション」を少しばかりいただく。瞬間、2人が目を見開いてこっちに突っ込んできた。
「おまっ、お前ぇっ!」
「今人間を……! 許さない!」
2人は何を怒っているんだろうか。人間なんて、生きていれば嫌でもものを考えるんだから、少しくらいもらったって支障は無いだろうに。
アオイちゃんのランスを片手で受け止め、ミドリちゃんの振り下ろすメイスは払うように受け流し、2人を前脚で蹴り飛ばす。

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その④

「やあ、岩戸青葉さん」
学校から帰ってきた少女を、彼女の自宅の門の前で種枚が出迎えた。
「あの月夜ぶりだね。君の化け物狩りの姿、正直感動してたんだぜ」
そう言われて、ようやくその少女、青葉も種枚のことを思い出したようだった。
「あ……あの時はありがとうございます、えっと……」
「そういえば、名乗っていなかったか。こっちは人伝に君の名を聞いていたけど……改めて、私は種枚。よろしく」
「よろしくお願いします。私は……って、もう知ってるんでしたっけ」
「ああ。それで、今日私が来た用事については、聞いているかな?」
「…………あ、もしかして、この間姉さまが言ってた人って、あなたでしたか」
「そうそう。それで、来てくれるのかな?」
「えっと、はい。少し待っていてください、鞄片付けて着替えてくるので」
「ああ。……そうだ、ついでに君の愛刀も持ってくると良い。きちんと鞘に仕舞った状態でね」
「? 分かりました。では一度失礼します」
数分後、私服に着替えた青葉が、刀を専用の袋にしまった状態で携えてやって来た。
「ようやく役者が出揃った。じゃ、行こうか。そうだ、『青葉ちゃん』って読んでも良いかね?」
「え、まあはい。どうぞ好きなように」

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視える世界を超えて エピソード9:五行 その③

「やあ、君」
千葉・白神の2人は大学からの帰り道、種枚から声をかけられた。
「……いるとは思ってたが、やっぱりシラカミも一緒にいたか」
「あっはい」
「さぞしんどかろうて」
「意外と慣れますよ。たまにバチッと来るくらいで」
「まあ良いや。今回用があるのはシラカミの方だから」
「およ、メイさんに何の御用ですかね?」
「来週の金曜、17時以降、空いてるかい?」
「うん空いてるけど……」
「来てほしい場所があるんだ。その子を連れてきても構わないから、来てくれるかい?」
「良いよー。千葉さんや、一緒に来てくれる?」
「あ、良いですよ」
「よっしゃ、じゃあ場所と時間を教えるぜ。多少なら遅刻してくれたって構わないから、気楽に構えておくれよ」
2人に情報を伝え、種枚は足早にその場を去った。
「……白神さん」
背中にぴったりと貼り付く白神に、千葉が声をかける。
「何?」
「実は行きたくなかったりします?」
「なんで?」
「いや、あの……電気が漏れてまして」
「あ、ごめん。いやね? やろうと思えばちゃんと抑えられるんだよ? 動ける?」
「少し待ってもらえれば……」
「ごめんよー」
謝罪したにも拘わらず離れようとしない白神に苦笑し、千葉は絶え間なく弱い電流を流され続けて麻痺した身体を解そうと少しずつ動かし始めた。

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その③

「あっ」
体表に僅かに残っていた機械装甲も地面に落ち、黒色の醜い全体像が露わになる。
肩から4本に枝分かれした中央の腕は人骨のそれのような構造、その周囲を囲むように昆虫の肢のようなもの、皮膜の無い蝙蝠の前足のようなもの、更に枝分かれする頭足類の触腕のようなものが生えている。
「うぅんこれは……良くない。人に見られたら怖がられちゃうな。さっさと終わらせなくちゃ」
再び突進してくる幻影を、蝙蝠型の腕で受け止める。先端の4本の鉤爪が幻影自身の勢いもあって深々と突き刺さり、幻影は痛みに苦しむように大きく身体を反らせ震えた。
「そいっ」
射撃を合わせ、爆発で更に態勢を崩し、ひっくり返す。
「……ほらほら、駄目だよ、君。『公共の場』で暴れるのはいけないことなんだから」
鈴蘭の言葉に、幻影は水まんじゅうのような身体を小刻みに震わせる。
「だから駄目なんだって。こら、だーめ。そんなに暴れたいなら、まずは人のいない所に行かなくちゃなんだよ」
グレネードランチャーの銃口で幻影をつつきながら、鈴蘭が説教を続けていると、彼女らのいる場所をバスが通過していった。
「………………ほら。ここはバスが通るんだから、びっくりされちゃうよ」
触腕を絡め、昆虫腕と蝙蝠腕を突き刺し、骨腕で表面を掴んで幻影を引きずり歩き始める。
「まずはここからいなくなろうね。マナーってものがあるんだから」

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花街辻斬り 1

頭が痛い。
身体がとんでもなく重たい。
傷は右腰と左肩。
左肩は脇差が刺さったままなのが唯一の救いだ。
しかし、右足、左腕はもう使い物にならない。
ああ、このままここで死ぬのか。

「お主、ここで何をしていんすか。」

不意に、誰かが顔を覗き込んだ。
化粧をした女の顔をみたところで、ぷつりと意識が途切れた。

(...生きてる...?)

次に目覚めたのは、見慣れない座敷だった。

「おや、起きたでありんすか。」

耳慣れない言葉に振り向くと、隣には遊女が煙管を片手に座っていた。

「誰...?」
「わっちは縁野紅(えんのくれ)。昨夜、ここの廓の辺りで倒れていたお主を、わっちが拾いんした。」

どうやら、刺されて彷徨っていたら、花街の辺りまできてしまったらしい。

「...助けてくれてありがとう。でも、もう行かなきゃ。」
「どこへ?」

眉を釣り上げ、若干食い気味に聞いてくる遊女こと紅さん。

「お義父さんのところ...」

と言ってから、少し紅さんを見る。
紅さんは一瞬目を細め、ゆっくりと告げた。

「あの男なら、もういんせん。」
「!...死んだの...?」
「さぁ。生きていても、恐らく当分、花街の辺りにはきんせん。」

そして、紅さんは続けた。

「何故、そんなに帰ろうとしんすか。」

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その②

“鉄路の魔女”は基本的に、子どもにしか感知できない。鈴蘭が腕を失う原因にもなった大災害の頃、少年期にあった人間でも、十数年を超えた現在、社会人になった者も少なくない。ただ不老不死の魔女である鈴蘭には、時間経過による変化が理解しきれず、かつて交流し共に遊んだその人間が自分を無視している理由が理解できなかった。
専用道路の上をぽてぽてと歩き、2駅分ほど歩き続けたところでふと足を止める。
「………………や」
目の前の黒い影に、右手を挙げながら声を掛ける。人間の赤子の頭部程度の大きさだったそれは、鈴蘭の声に反応して全高数mほどにまで膨れ上がった。
「駄目だよ。こんな風に道を塞いじゃ。迷惑になるんだよ」
幻影は首を傾げるように変形し、目の前の魔女に突進を仕掛けた。
鈴蘭は右手だけでそれを受け取める。幻影の質量と速度が生み出すエネルギーは破壊力として機械腕を軋ませ、装甲の随所からは損傷によって火花が飛び散る。
「む…………」
空いた左手を大きく後ろに引き、軽く握った形に固定する。その手の中に、六連装グレネードランチャーが生成される。
「そー……りゃっ」
射撃では無く、銃器そのものの質量を利用し、幻影を殴りつける。
幻影を引き剥がし、煙の上がる右手を開閉する。
「まだ……動くかな。よし」
その手を強く握りしめ、それと同時に機械腕が爆発し、装甲が弾け飛んだ。

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その①

電信柱の上で蹲るように眠っていた鈴蘭は、朝の眩しさに目を覚ました。
凝り固まった手足を解すために大きく伸ばし、そのままバランスを崩し地面に落下する。
「ぶげっ…………いたい……」
強かに打ち付けた後頭部をさすりながら立ち上がり、鈴蘭は歩き出した。ガードレールをひょいと跳び越え、未だ始発も動かない早朝のBRT専用道路の上を進む。
目的地は、とある踏切跡。最近は毎朝通う、ある種『お気に入り』となったそのスポット。その遮断機の上に腰を下ろし、右手首を見る。
普段はポンチョ風の衣装の下に隠れている機械の右腕。その装甲の下は、部分的な廃線によって不完全に幻影化している。BRTへの移行が無ければ、影響はこの程度では済まなかっただろう。
そう考えながら右腕をしばらく眺め、鈴蘭は再びその腕を衣装の下にしまった。これまで生きてきて、人間を観察して得た知識によると、彼らは時間を知りたい時に手首を見るらしい。それが『腕時計』という外部装置を必要とするところまでは気付けないまま、小首を傾げてただ時が過ぎるのを待つ。
数十分後、始発バスが真横を通り過ぎた。
「や」
短く呼びかけつつ右手を挙げる。当然答えが返ってくるはずは無く、鈴蘭は周囲を眺め始めた。
時間の経過とともに、少しずつ、本当に少しずつではあるが、人通りも増えてくる。
そして、1つの軽いエンジン音が近付いて来るのに気付き、鈴蘭は表情を輝かせてそちらに目を向けた。
そちらからは1台の原動機付自転車が近付いて来て、1度減速してから踏切跡を通過する。
「やぁ、少年!」
その運転手に、先ほどよりも明るく呼びかけ、右手をひらひらと振る。気付かず去っていく後ろ姿を見送り、一瞬の思案の後、鈴蘭は遮断機から飛び降りた。

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視える世界を超えて エピソード8:雷獣 その⑨

「ああクサビラさん、最期にお友達とおしゃべりする時間をもらうよ?」
「……好きにしろ」
白神さんの問いかけに答え、種枚さんが1歩退いた。一息ついて、白神さんの方に向き直る。
「ねえ千葉さんや。1個だけ、正直に答えてほしいんだ」
「……何でしょう」
白神さんの質問が何なのかは、既に察しがついていた。深い藍色の虹彩に縦長の瞳。微笑を浮かべた口から伸びる鋭い牙、さっき攻撃を受けた際に身体を庇ったのか、上着の袖の破れた穴から覗く、滑らかな栗毛の毛皮。パチパチと音を立てて、彼女の身体の周りに目視できるほどはっきりと流れている放電。
「千葉さんや。わたしのこと、怖いと思う? 正直に答えてほしいんだ。『怖い』って、そう言ってくれたら、わたしは人間に混じっているべきじゃない。大人しくクサビラさんに殺されるよ。それが正しいことなんだから、わたしは気にしない」
「…………」
正直に答えるとしたら、たしかに『怖い』と言わなくちゃいけない。ヒトじゃない存在の恐ろしさは、実体験として知っている。友人として接していた人が、『人』ではなかった。その事実に戦慄するなという方が無茶な話だ。
「…………全く怖くない、とは言いませんよ。妖怪だっていうなら」
「そっかー」
「でも、それでも白神さんは自分にとっては大事な友人です。そんな白神さんを失いたくない。……それに」
種枚さんに目を向ける。
「白神さんなんかよりよっぽど恐ろしいモノ、自分は見慣れてますから。だから大丈夫、白神さんは怖くなんかありません。可愛い可愛い私の友人ですよ」
「ち、千葉さぁん……!」
種枚さんがどんな反応を示すのか、注意を向けてみると、種枚さんは後方の自身の足跡を眺めていた。少しずつ火の手が広がりつつある落葉に向けて適当に腕を振るうと、落葉が大きく舞い上がり、火もかき消された。