なんで素直になれないのかな。
「なんでもない」は「話を聞いて」。
「大丈夫」は「助けて」。
「いいよ」は「行かないで」。
「へーきだよ」は「苦しい」。
鈍感な君だから気付かないかな…?
今すごく寂しい。あの子みたいに君と普通に話せたらこの胸は少しでも楽になるのかな。
いつか君と話せるように。
空は曇天。鈍色の雲が重たそうに山に被さる。その様子を見ていた凜は、子供ながら考えた。信乃を一一母を、独りにしてあげようと。
「お兄ちゃん、ぼく、村を案内してあげるよ。」
凜だって辛いはずなのに。泣きたいだろうに。
朔は、胸が締め付けられる想いだった。固く握られた小さな手からは、握っているはずなのに何かがこぼれ落ちそうな、そんな不安にかられる。
「…お願い。」
不意にこぼれたその声は、凜への返答なんかじゃなかった。
ぱしゃん と落ちた泉に沈んで
熱のない陽射しを浴びている
掬い手がいつまでも現れぬのは
私がそれを望まぬからなのに
ごぽり と離れていく呼気への
未練を断ち切れずにいる
捕まえようと伸ばした指先は
願うほどには上がらず
遠く隔った生の手段に
漸く諦めのついた頃
私の身体は先のほうから
ゆるり ゆるり と解けていった
生き続ける限り、困難と理不尽がつきまとう。
それでも、生き続ける。
だって生きてるんだもん。
「見ただけで分かるものか?」
「眼が違う。」
蒼は、勿論分からなかった。鬼と人間は、見た目による違いは無いに等しい。
しかし、蒼はそんな自分の勘よりも、旧友への信頼の方が厚かった。だから、朔の言っていることの方を信じた。
「そうか。…しかし、それがあることで何か問題は在るのか?」
この時代において、鬼と人間の共存は当たり前だった。だから、たとえ岡っ引きが人間だろうと鬼だろうと特に問題はない一一もっとも、共存出来ずに崩壊した村も少なからずあるのだが。
「今回裁くのは鬼。しかも、人間との仲は良いわけではなさそうだ。」
蒼は何となくわかった。朔の言わんとしていることが。
つまりは、公平に裁かれない危険性があるといいたいのだ。犯人が薊だとした場合、捕まえられる確率はほぼない。しかし、裁かれる相手がたとえいなくても、何らかの形にしないと、被害者も遺族も報われない。だが、そうなると裁く方が手間である。これが、内部の人間の、しかも人間の手による犯行ならば、鬼達はどれだけ楽なことか。
鬼という自分等の面子も潰れない。稀に、こう云った事が無きにしもあらず。この岡っ引きはどうだろうか。
「しかし一一此のままだと、僕達の方が危ないかもしれないな。」
「何故?」
朔は笑う。
「愚問だね。」
蒼は肩をすくめた。
息を止めて空気を読んでばかりいるから
苦しくなってため息を吐き出してしまうのだ
皆がコートを着ているからって
暑苦しいのを我慢している必要はないんだ
世界中が歓喜の輪を作ったって
君は君の悲しみを悲しんでいいんだ
世界が悲しみの底に沈んでいたって
君は君の喜びを盛大に祝っていいんだ
空の底に光があって
春がやがて降り注ぐだろう
花びらが舞い散る中で
唄いながら宙を舞う小鳥
いずれ夕焼けが空を染め
空はやがて星が満たして
日の出の3秒前に光あれと叫んで
神様ごっこして遊ぼう
ただ思いのままに生きる
どうせ終わっていく命を
笑いながら愛おしんで
一頭身の身体を燃やして
幸いまで運んでいくのだ
神様の真似事をしながら
幸いまで運んでいくのだ
息を吸え そして吐け
魂を燃やせ
光あれ
そこでは闘いが起きていた、
とてもとても激しい闘い、
まるでこの世ごと崩れてしまいそうな、
そんな闘いが。
始めに、よく分からない名前の本の取り合いが始まった。
結局は一人の女の人が命と引き換えにその本を破棄したらしい。
とても物悲しい、そんな気がした。
↓お願いしますあとがき書きますから見て、どうぞ