暑い夜
窓を開けてさっぱり
なんて
かえるの合唱
電気に集まる虫たち
みんなみんな、もう
鏡よ、鏡。
世界で一番弱虫なのはだれ?
鏡よ、鏡。
世界で一番臆病なのはだれ?
鏡よ、鏡。
世界で一番…
なんて、だれが決めるの。
だれが一番だとか関係ない。
みんな世界で一番。
それでいいじゃない。
一生懸命な告白を思い返して、ときめかなくなったのが別れの合図だった。
目が合う度に微笑んで満たされる恋愛もあるけど、今日はそれじゃ物足りない気分。
こんな日は、カモミールティーでこつりと乾杯しましょ。
こうやって恋を積み重ねて、しかも無意識のうちに慎重に積み重ねて、いい感じにバランスのとれたタワーができてゆくのね。おかわり、飲む?
月を凍らせて、しゃりしゃりとスプーンで一口掬って食べた。
今夜は幽体離脱な気分。
散歩に出掛けよう、黒猫には会わないようにしながら、みゃあと呟いて。
口の中でゆっくり溶けていくお月さま。
今日もごちそうさまでした。やわらかく甘い味わい、甘ったるくはなくて後味は涙をカシスでわったような味だ。レモンとはちょっと違う。
夜の影は、街灯の影。夜を告げるのは、星じゃなくて彼らというのが最近の主流らしくてさ。
月の光で影を作って、凍ってゆくところを眺めた。しゃりしゃりしゃり、スプーンを伸ばすのは我慢のしどころ。
頃合いを見てつん、とスプーンで凍った影をつついたらぱらぱらとそれは地面に逃げた。
やっぱり、もう一口。凍ったままの月、しゃりしゃりとスプーンで一口掬って食べた。
背後でみゃあ、という声。
走って帰った。ただいま。
もしも 君が わたしを 好きだったら
わたしは 背筋をピンと伸ばして
うれしくて ワクワクして
羽で飛んでいっちゃいそう
もしも 君が わたしを好きだったらいいな
今になって追いかけて
君はもうそこにいなくて
チャンスの時間は過ぎていて
それでも走って君を探すことしかできなくて
君の後ろ姿を探したけれど
後悔だけが残ってしまったんだ。
「黒いよなー、女って。かわいい顔して内心何思っとるか、想像するだけで怖いわ」
彩生さんが苦笑いしながら言った。
そしてこうも言った。
「巳汐はそれが見えてまうんよね。大変だよなー」
確かに……
だからこそ嫌いなのかもしれない。
(人の黒い部分が見えてしまうのか……)
“特殊な能力”って、いいことばかりではないのだなと思った。
「白帆さんは心が綺麗だ。だから、心を許せたのかも」
“心が綺麗”か…
初めて言われた。すごく嬉しい。
「純粋ですよね、白帆さん。変に暗い部分がないから、話してて楽です」
夏川くんもそう言った。
「………ってことだよ。要するに、未来は見えても何も出来ひんから、いいことはないよ」
彩生さんは“未来が見える”能力を持っている。
でも見えても変えることはそうそう出来ないらしい。
例えば前を歩いていた人がもうすぐ死ぬという未来が見えても救うことは出来ない。それが辛い。ということだ。
“特殊な能力”を持っていいことがあったとしても、いいことばかりではないということだ。
桜尾さんとはその悩みも共通していたのですぐに仲良くなれたらしい。
(でも桜尾さんは彩生さんのテンションについていけず大変だったとか)
だから彩生さんが入ってきたとき、迷惑そうな顔をしたのか。
「そういうことだね」
桜尾さんが私と目を合わせて言ってきた。
「確かにいい奴だけど、付き合いにくいというか。いちいちテンションが高いから面倒くさいんだよね。いじめの原因はリュウの能力のせいもあるけど、その性格のせいもあると思うよ」
ズバッと言った。
彩生さんが苦い顔をした。
「ひどいなぁ。ま、確かにそうなんやろうけど」
二人が静かに笑いあった。
犬の入った箱には
『拾ってください』
とかいてある
そしてそこに前島くんもいた
「どうして人はこう動物を最後
まで面倒をみてあげられない
んだろうか...」
そして前島くんは犬を抱えた
「よしよし辛かったんだな、
お前は今日から木村くんだ!
そして今日から僕の家族だよ」
そして前島くんは犬を抱え
去っていた
木村というのは僕の名前だが
そこはあえてツッこまない...
星屑 とじこめたレジン
パインあめ ふたつ
嚙みくだく退屈はつるつる
私じゃ消化できない幸せ
みずがおいしいのはのどがかわいているから。のみものやたべものがおいしいのはからだがほっしているから。
おいしくないのはからだがほっしていないから?
そうだよ。
つまらないのもからだがほっしていないから?
そうかも。
はじめてのデートがたのしくなかったのはからだがほっしていなかったから?
たのしかったっていってなかったっけ? じぶんをだましていたんだね。ほんとうにからだがほっしているものをみつけられないひとはふこうだ。
うん。
のみものもたべものもデートも。
なんかつまんないね。
「えっ、“予知能力”を持っているんですか?」
私は、つい聞き返してしまった。
彩生さんはにっこりと笑って私の方を向いた。
「そういうことやな。なんや巳汐、カノジョできたん?」
にやつきながら彩生さんが桜尾さんに言った。
………カノジョ?夏川くんもいるのにどうしてそう思ったのだろう。
桜尾さんが彩生さんを睨み付けた。
「……いや、女嫌いのお前が女の子と一緒なんで珍しいなぁと思って……。違うんやね」
気まずくなった彩生さんは苦笑い。
(女嫌いなんだ、桜尾さん)
「あのね白帆さん、女嫌いなんじゃなくて…まぁ女は嫌いだけど、女のドス黒い心が嫌いなんだ。勘違いしないで」
“ドス黒い心”か……