きみが二度と年をとらないことを
綺麗なことだと思ってしまうぼくは
恋人失格なんだろう
「わたしが幸せなとき、あなたは幸せそうな顔をするね」
「けれどわたしが不幸せなときは、不幸せにならないでね」
「きっとずっと楽しく居てね」
「わたしがいなくなっても笑っていてね」
そんな都合のいい話があるかよ、ってぼくは泣く
控えめに言って天使なその寝顔に
思わず笑いかけながら
あなたは女子高生、学校の水泳大会に向け、市民プールでこっそり練習することにする。あなたはおとなしいが負けず嫌いで、かつ、努力しているのをひとに見られたくないタイプ。
入念に準備運動をし、水に静かに入る。息を整え、背泳ぎを始めようとする。すると、監視員が笛を鳴らす。
「ちょっと君!」
自分のことのようである。あなたは怪訝な表情で監視員を見返す。
「今日は背泳ぎ禁止デー‼︎」
いつものあなたなら、何それ、と思いながらも従うのだが、今朝お母さんとけんかしてむしゃくしゃしていたのと、夏の解放感から、無視して背泳ぎを再開する。ターンしようとしたところで、あなたは何かに引きずり込まれる。
意識が戻り、半身を起こすと、ひんやりとした、岩の上にいる。暗闇に目が慣れると、奥に何かがいるのがわかる。
「おはよう」
「……ここは?」
「わたしの別荘だ」
「あなたは?」
「わたしは大山椒魚だ」
「ここから出たいんですけど」
「無理だ。出口はわたしがふさいでいる」
「出して下さい」
「無理だ」
「どうして?」
「お前は若くて美しく、健康だからだ。手元に置いておきたい」
あなたは立ち上がり、大山椒魚をどかそうと試みるが、びくともしない。
一か月が過ぎた。あなたの命は終わりに近づいている。
「怒っているか?」
大山椒魚がきいた。
「……怒ってなんかいない……。怒りを向けたら……、自分との関係性が強くなり、さらなる怒りにつながる……。あなたとわたしに関係はない」
あなたはこときれる。大山椒魚が、さめざめと泣く。
山道。草いきれ。通勤途中だというのに、好奇心に駆られ、変な路地に入ってしまった。都会だと思っていたが、ちょっと道を外れると、ジャングルのような自然が広がっている。わたしの田舎よりひどい。手入れする地元民もいなければ行政の手も入らない放置された地域。子どものころ読んだ近未来の、SFの世界。
子どものころ俺は、道草したことなどなかった。知らない所、知らないことが怖かったからだ。俺は、成長が遅いのだろう。ばかなのかもしれない。いや、ばかなのだ。
完全に迷ってしまった。つまり完全に遅刻だ。
携帯は、さすがに通じた。遅刻します、と言うつもりが、休みます、と言ってしまう。
引き返さず歩き続ける。道幅が、狭くなった。植生が変化している。川が流れている。裸足になり、川に入る。いい気分だ。川床に横になる。
気がつくと俺は、大山椒魚になっている。だからもう戻らない。
なんとなく窓を開けてみた
湿っぽい空気に夏のにおい
あーまたこの季節がやってきた
プールあがりの君の湿った髪
かおるシャンプーのにおい
あーまたこの季節がやってきた