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ゆき、さき

「海へ行こう」
と君が言うので、僕はとりたての免許とハンドルを握りしめて ドライブに繰り出した。
助手席には君。ちょっと夢みたい。
新しいというワンピースをひらひら。
砂浜で汚れてしまうと心配したら、
良いの。だって。
これで海に立つわたし
きっとすきになれるの。だって。
照り照りが車内に差し込んで、
うみうみに近づいていく。

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何処

だれがいなくたって世界はまわるのさ
なにかを積み上げていく夢を
なにもない場所でみているだけ
死んでも覚めないくらい頑丈だな
かなしみも後悔も逃げられないような

タイムマシンについて考えている
明けない夜はないよ なんて
随分とわかりやすいサインだね
陳腐だと笑っても許してくれるかな
正しさにかたちを求めること
ぼくらはいつ諦めていくのだろう

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ドアを開けると3

「…………」
「すみません。怒りました?」
「いや、疲れたんだ。もう寝る。……君は、眠らないんだろうな」
「はい。眠りません。人形なので。おやすみなさいませ」

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ドアを開けると2

 ドアを開けると、あの人形がいた。
「おかえりなさい」
 人形が言った。 余はもちろん言葉が出なかった。
「ごめんなさい。やっぱり来るべきじゃなかったみたい……帰ります」
 人形がそう言って草履を履こうとするのを見て、余ははっとし、あわてて制した。
「待ってくれ。少し驚いただけだ。行かないでくれ」

 膝を崩して楽にしてくれたまえ、と余が言うと、このほうが楽なので、と正座したままでいる。
「足がしびれるだろう」
「しびれません。人形なので」
「お茶とコーヒー、どちらがいいかな」
「お茶もコーヒーも飲みません。人形なので」
「では、ケーキなんかも、いらないんだろうね」
「はい。飲んだり食べたりしません」
「ところで、なぜわたしの所に来たんだね」
「野暮なこときかないでください。そんなだからいつまでも独身なんですよ」

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ドアを開けると

 日本人形、とりわけお菊人形なんかはなんとなく不気味、怖いと敬遠する者が多いが余は嫌いではない。どちらかといえば好きだ。
 ある日曜日、早朝、旅番組で人形を供養する神社が紹介されていた。大量のお菊人形が並べられた境内をカメラがゆっくりと移動していく。ふと、なぜだろう、やや大きめな一体が余の目にとまった。余は、すかさず静止画にしてじっくり見てみた。その人形は、明らかにほかの人形と違っていた。見た目が可愛らしいだけでなく、生き生きとしていてかつ、憂いがあった。余は、この人形を生で見てみたいと思った。で、その神社に行くことにした。
 昔ながらの幸せは、消費文明にはかなわない。金がなくても幸せにはなれる。幸せなんてものは原始時代から存在していたのだ。余は幸せなどいらぬ。快楽があればよい。余は金がある。暇もある。金と暇があればどこでもすぐ行ける。これすなわち快楽。
 目当ての人形は、あった。お馴染みのおかっぱ頭。少し髪がはねている。陽にあせた赤い着物。複雑な刺繍が施されている。下がり眉、二重まぶた、密集した長いまつげ、やや丸みのある鼻、小さく薄いおちょぼ口、ふっくらとした頬、小さなあご、うつむき加減で、憂いを帯びた表情。色は人形のように白い。ああ人形だった。
 いつまで眺めていたのかわからない。あたりはすっかり暗くなっていて、風が冷たかった。人形に、「さようなら」と言って神社を出た。一泊し、あちこち見てまわってから帰路についた。
 ドアを開けると、あの人形がいた。

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笑える

数日前が誕生日だった。
特に祝われることなく終わった。
親でさえ、翌日に申し訳程度におめでとうと言ってきた。

望んでる訳でも期待もしてないけど、
誕生日おめでとうって言った友人、、、
ってよりも知り合いかな?からは、
当然なにもなく、
顔を合わしても普段と変わらない話をした。
もちろん、笑顔で話すよ。

陰キャラでもいじめられっ子でもないけど、
友人がいない訳でもないけど、
上っ面のみで関わってるから当然なのかな。

でもさ、だったら誕生日いつ?
とか聞かないで欲しいよね(笑)
いつも誕生日を答えるのためらうには
ちゃんと理由あるんだよ。
言う手間を省かせてくれるかな。
当日に嫌気さすだけだから。

翌々日に誕生日を迎えた友人は
まー、祝われてて、その画像を加工しちゃって
SNSにアップして。
楽しそうだね(笑)

あーあ、
今度は違う他人の誕生日だ。
おめでとうって言わなきゃ。

あ、
もう、自分の誕生日は、
無いものと思ってるから。
生まれてきてありがとうも無ければ、
なんで生まれたのって悪口もない。

透明人間ですわ。

僻みだね。
ごめんね。
黙ってるね。