好きな曲も聴きたくない
好きな本も読みたくない
好きな映画も観たくない
ベッドの上で駄々こねて
シーツの中でのたうちまわる
そのうち疲れて目を閉じて
君が主役の夢を見る。
寝たくないし起きたくない
何がしたいか考えて
君が主役の夢を見る
きっと、それじゃない。
別にそれでも構わないけど。
できればそうじゃなければいいな、
なんて淡い期待を抱きながら。
そんな私のそれを、
どうやって貴方に返そうかしら。
直接言ってはいけないものだし。
……やっぱり私には態度と結果しかない。
ごうごうとすごい風が吹いている。
きっと君の元へ。
台風がやってきそうな秋の気配。
砂嵐が目に染みる。
目をこすってまばたき3回
君がいる。
そう思ってしまった
思い込んでしまった
思い込むことで
オチをつけてしまった
だからこの物語はこれでお仕舞い
人の夢と書いて、儚いと読む。儚さは美しい。私達の青い時代もまた儚いからこそ美しいのだ。
今日もまた飽きずにオレンジジュースを飲む。
酸っぱくて、甘くて、苦くて
あたしの初恋。
「ごめんください」
「陰陽師さんですか」
「はい」
「こちらです。上がってください」
「すみません。まず、前金で五千円、お願いします」
「ああ、はい」
「どうも。領収書です。……娘さんはいらっしゃいますか?」
「はい。いますけど」
「ちょっと娘さんとお話よろしいですか?」
「はあ……あの、人形は?」
「それは後で」
しばらくして、娘は元の明るい子に戻った。むしろいままでよりはきはきとして活発になった。
「問題ないですね」
「でも、おはらいは」
「娘さんにきいてみたらね、お菊人形にまつわるこわい話が、あの例のね、髪が伸びるやつ、あるでしょう。それをテレビで見てね。それからあの人形がこわくなったらしいんだな。……壁に向かって話しかけてた?……あれぐらいの年だったら寝ぼけることなんてよくありますよ。うなされる? 冷えると思って布団かけ過ぎなんじゃないですか? 小学校に入学して、新しい環境に対するストレスもあるんでしょう。軽い睡眠障害ですね。優秀な子どもほどストレスを感じるものなんですよ。乗り越えなきゃ成長できませんからね。親が手を出し過ぎるのはよくないです。とにかくまあ、人形は、おじいちゃんがあなたが健康ですくすく育ってほしいって思いからプレゼントしてくれたんだよ。だからこわがる必要はないんだよ。どちらかって言ったらかわいがるべきなんだよって説明したら納得してくれました。
お母さんはなんでも一人で決め過ぎなんじゃないですかね。もっとご主人と話し合われたほうが。……う〜ん。本気でぶつかってみなければ、ご主人も本気になってくれませんよ。では」
「ありがとうございました。……あの」
「はい」
「カウンセラーになったほうがいいんじゃないですか?」
「ああ。カウンセラーにはなれません」
「どうして?」
「高卒なんで」
「あ……」
「ではこれで」
娘の入学祝いに、義父から市松人形をもらった。いわゆるお菊人形というやつだ。「ふつうランドセルとか勉強机じゃない?」 と、主人に言ってみる。
「ランドセルやら勉強机やらはお前の実家で用意してくれたじゃないか」
「そうなんだけど。うちの実家だってとくべつ裕福なわけじゃないんだし、相談して決めてくれてもよかったでしょう」
「しょうがないだろ。親父はそういうやつなんだよ」
わたしは、でも、と言いかけるが、黙ってしまう。
入学して、娘の様子がおかしくなった。明るい子だったのに、あまり笑わなくなった。夜、たびたびうなされるようになった。明け方、むっくり起き上がり、壁に向かって話しかけていることもあった。
ある日、娘にきいてみた。
「学校で嫌なこととかあるの?」
「ううん」
「そう?……なんか気になることとかない?」
「うーん……あのね」
「なあに?」
「おじいちゃんからもらった人形がこわいの」
どうしたらいいのだろうか。せっかくいただいたものを押し入れにしまい込んでおくわけにもいかない。おはらいのようなことをしたほうがいいのだろうか。ネットでいろいろ検索してみる。