炭酸に溺れる
魚の群れを突っ切って
今すぐ会いたい
小指の糸は信じていない
透明な心臓なら
嘘でもいい、私に頂戴
盲目なほど戻れない
泡の君をつかまえるには
落っこちるしか
もうない
魚の群れを突っ切って
今すぐ行きたい
ごめん
あのときは
「君じゃなきゃダメなんだ」
とか言ったんだけど
ほんとうは
誰でもよかったんだ
僕が帰宅すると君はいつも
「おかえり」っていってくれて
ごはんもつくってくれたんだ
でも最近残業が多くて
頑張っていつも通り帰ってるんだけど
たまに帰るのが遅れると
消え入りそうな声で君は言うんだ
「私のこと好きだよね」って
僕は君が最近怖いよ
ころころ甘い
懐かしい記憶たち
小さな手では零れて、零れて
失くしたものを想うと
ちくちく痛い
彼と話した日常も
零して失くしてしまったけれど
甘いばかりではなくて
つらいことも多いけれど
大切なカケラを集めて思い出にしよう
それがわたしに出来ること
ひとより無くしものが多い「私」の日常
長く伸びた猫っ毛
膝上20センチのスカート
ティントで色づいた唇
フィルムマスカラでふぁさふぁさの睫毛
図書館の椅子で華奢な脚を組み
小説のタワーの中で黙々とあちらの世界だなんて
そんな事は僕だけが知っていれば良い事だ
どうしようもない小さな悲しさ切なさやるせなさが溢れて溜まると
詩がとくとくと生まれる
私の体は
どうやら沈むこころに敏感なようです
図書館のカードをポケットに突っ込んで
冬の冷たい夜が彼を削ってゆく
ショパンだかシャンパンだか知らないが
イヤホンから漏れている私の知らない世界
ふて腐れたように歩く君は
噛み過ぎて味の消えたガムの様に見えるけど
私はそのガムを飲み込みたい
切れかけの電灯を見上げてもう冬になるなあって思う
君が素足のままあまりにも夏を恋しがるから
鍋しようよってぽかぽかのお誘いをする
なんなんだろう、この感覚。
底なしの沼にどんどん浸っていく自分。
這い上がろうとすればするほど、どんどん浸かる。
足元で誰かが、何かが引っ張っているのだろうか。
もう、嫌だ。
悪夢から抜け出したい。
絶対無理だから、分かっているから、
もう頑張れない。頑張りたくもない。
思ったんだけど、なんで沼に人がいるんだろう。
私の足首がありえない強さで引っ張られていく。
ここには(現実)誰も私の手を引っ張ってくれる人
もいなくて必死で頑張ってるけど、無理だ。
諦めは早いも、遅いもない。
無理なものは何があっても無理なんだ。
僕は注文したセットを無言でむさぼった。
またたく間に完食。
勘定を済ます。
店内に響いたはずの扉の鐘の音も1番美味いであろうこの喫茶店のセットも何も感じれなかった。
次の日いつもと同じ時間。扉を開ける。
「おはよ。」
そこには店主1人。解りきったことだけど少し残念だった。
「ども。...いつもの。」
「...どした。昨日のは頼まねぇのか?」
冗談気味に僕に問う。
僕は出てきた珈琲を飲みながら昨日の彼女を思い出す。
「ねぇマスター。昨日の女性は誰なの?」
確かめたくてマスターにたずねる。
「...あぁ、アレだ。俺の娘になる子だよ。」
僕はその意味がよく解らなかった。
「...そ...っか。」
聞いた割に気のない返事。
「つまりアレだ。俺の息子の婚約者よ。」
その言葉に僕は大きな衝撃を受けた。
「...そ...っか。」
「なんだ?惚れたのか?」
僕をおちょくる様に店主が問いかけた。僕はくい気味に咄嗟な抵抗
「ちっ...ちがうよ。...はい勘定!」
「毎度ぉ、またおいでぇ」
店主は嬉しそうに僕をおちょくる。その顔はガキンチョの様に輝いてた。
僕はそんな会話に嬉しさと切なさと恥ずかしさと虚しさを覚えた。
今日は何だか扉の鐘の音が少し濁って聴こえた。
彼女の顔を見る勇気が無いからかもうこれからは夜の喫茶店には行かないと心に誓ってみた。
好きな人の好きなものならば、私が嫌いなものでも好きになれるのだろうか
君の全てを知りたいから