友達とバカやって、恋?に心をときめかせて、先生に反発して、そんな日常だったものが急に懐かしく思えてきちまうんだよなあ
今君に会いたい
会って好きって
伝えたい
好きって言って
君を抱きしめたい
抱きしめたら
君におやすみなさいの
キスをしたい。
雫をまとったレンズ
薄桃色の花びらで流されてゆく世界
うすく霞んだ部屋の明かり
傘で跳ねる空しさのメロディ
きみがここにいないことを
証明するだけの瞬間
この世界では常になにかがなくなっている。
そして常にうまれている。
でも、なくなってから
うまれるものもあるのかもしれない。
終わっていない課題 見えない希望と将来 飛ばしたメッセージ 塗った真赤はもう落とした ゴミ箱に投げた便箋 破った封筒 インクの無くなったボールペン 折れたシャーペンの芯 埋まらないノート 答えられない記号問題 わかんないこと 君の言葉の端から端まで読んでも 君の生活には触れられない 月にかかった雲 ネオンで見えない星 モノクロの写真 原色のワンピース パステルのカーテン 渡したメモ 水色の24時間営業のお店 伸ばした髪 切った爪 忘れそうになったこと ぼろぼろの定期入れ あの子から貰った入浴剤 シャンプーの匂い ミント味の泡 含んで吐いて 永遠に思える時間も きっと有限で 君と居られる なんて 叶うわけもないから また今度ね って 誤魔化させて
愛される為の嘘 自己防衛の為の嘘 守る為の嘘
確定事項はなるべく早く忘れて?
君の中の記憶、全部消したい、とか、そんなこと
あれも嘘だったんだね なんて責めても
君の中に私はいないんだし
君の好きな人は私じゃないし
わかってるよ、そんなこと、なんて強がれば、ほら
日本は妖怪大国である。
妖怪というと前近代の社会の妄想の産物のようにとらえがちだが、現実に存在する。
最近わたしが知った妖怪は、誕生日を祝う妖怪である。
あなたは地方から上京したばかりの新入生の女子。サークルに入ったものの、極度の人見知りなので、まだ友だちができない。今年は誕生日をひとりぼっちで過ごすことになる。あなたは誕生日当日だと室料が無料になるカラオケボックスで、一人カラオケでもしようと街に出る。
雨の予報だったが、晴れている。幸先がいい。角を曲がろうとしたとき、ゆらり、長身の男が現れ、行く手をさえぎる。
「誕生日おめでとうございます!」
満面の笑みを浮かべて男が言う。もちろんあなたは硬直してしまう。男はそんなあなたの態度に頓着せず、赤いリボンのかかったプレゼントを渡す。プレゼントは大きすぎず小さすぎず、かさばらない、ちょうどいい大きさだったので、あなたはつい受け取ってしまう。
男はプレゼントを手にしたまま、放心状態になっているあなたに向け、バースデーソングを歌う。あなたの名前が出るとあなたは、はっと我に返る。歌い終えた男は、実にあっさりと背を向け去る。雨が降り始める。
サプライズなのか、意地悪ないたずらなのか。あなたはしばし、もやもやするが、すぐ忘れる。あなたは忘れっぽいたちなのだ。プレゼントはほどかれぬまま大学を卒業するまでクローゼットの中に放置されるが、引っ越しの際、荷物にまぎれてどこかに消えてしまう。
数年後、あなたは合コンの席にいる。あなたの前には、中性的なイケメンが座っている。あなたと彼は意気投合。解散後、二人きりでバーに入る。
「心の発達の遅い子どもは言語の発達も遅いってきいたことない? 言語と感情ってのは密接に結びついていてね。僕の友だちで、四歳から高校卒業まで中国に住んでた女の子がいるんだけど、そいつは愛してるって言われるより、ウォーアイニーって言われたほうが刺さるらしいんだな。かなちゃんは関西出身だから関西弁で告白されたほうが刺さるんじゃない?」
「わたしは、関西弁でも標準語でも、自分の好きな人なら」
「愛してるよ」
「嬉しい」
「結婚しようか」
「うん」
彼はただプロポーズするだけの妖怪なので、結婚することはできない。
「このあいだ久しぶりに実家に帰ったら。
テーブルの上に猫くらいの大きさのいなり寿司があって。
うわーでっかいいなり寿司と思って手を伸ばしたら猫で。
しつけがなってないなぁと思って下ろそうとしたらびくともしなくて。
しばらくしたら母親の叫び声がして。
母親は猫に駆け寄ると、おじいちゃんと言いながら揺さぶり始めて。
この光景をぼんやりと見ている自分は誰なのかなぁとよく考えたら自分はおばあちゃんだった」
新しいって怖いんだ
だって知らないから
そんなに焦らなくても良いのさ
そうは言っても不安で仕方ないよ
始まりから逃げても
終わりは見えない
そんなに怯えなくても大丈夫
そう言ってくれる君も もういないんだね