哲人「じゃあ君は彼が絶対的に悪いというんだね?」
青年「もちろんですよ!まだ年端も行かないか弱い何人もの女の子をあれほど無惨に殺害するなんて、悪くないという方がおかしいですよ」
哲人「そうか。ならその親はどうだね。その男をそんな凶悪犯にしてしまった親だよ?」
青年「ええ、もちろんその親も悪いです」
哲人「ではその親は?少なからずともその男、その男の親に影響を与えた人だ」
青年「それなら、その人もです」
哲人「どこまで遡ろうか?君が進化論者か創造論者かは知らないが、すべての原点は宇宙の始まりだ。君は全宇宙を否定するかね?」
青年「.........」
哲人「我々人間には、人間は裁けないのだよ。同じ人間なのだ。例え裁判官でも、裁判官は裁けない。しかしてその裁判官の裁く力も人間が与えたものだ。ましてや君が人を裁くことができようか?」
青年「.........」
哲人「我々が例え善悪を判断できても、それゆえに人を裁いてはならないのだよ。君は自分のことだけ心配してればよろしい」
青年「しかし、たった今先生も私を裁かれたではありませんか」
哲人「そう思うかね?」
青年「.........」
カウントはしないよ
君が焦ってしまうから
いつかは伝えたい
伝わってしまう
気づかれてしまう
バレてほしいのに
いやまだ、そんなんじゃなくて…
本末転倒が呼んだ
最悪でみっともない僕を
見ないでおくれこんな僕を
どんなに気を付けたって失言はなくならないし、かけたかった一言もすぐ忘れてしまうけれど、たいせつなグラスみたいに一つひとつこわれもののことば、毎日きれいに磨いては口を付けて、明日も…
持ち上がりが多いためか、初日のわりにクラスはざわついている。もしかしたら、望のようにフレンドリーな人も多いのかもしれない。気を付けろなんて、言いがかりだと思ってしまう。
「ねえ、瑛瑠さん。担任の先生、どんな人だと思う?」
うしろを再び振り返って望が聞く。
学校の制度は学んだことがある。しかし、クラス形式での学びは初めてなので、担任の存在は知っていても、どんな人かなんてまるでわからない。
「大人数をまとめあげる統率力のある方、でしょうか。」
馴染めとはまた強引な指令である。今さら気付いてしまった。
瑛瑠としては精一杯考えたつもりだったが、求められていたのはそういう答えではなかったらしい。
さすがに瑛瑠とて苦笑いくらいわかる。
「すみません、質問の意図を取り違えてしまったようで……。」
「ううん、そうであってほしいよね。
ぼくは優しい先生がいいなあ。」
そういうことか。ため息が出そうになる。
いつかぼろが出る、そんな気がしてならない瑛瑠だった。
滑り込んで滑り込んで。
手が届きますように。
痛くても立ち上がって。
絶対落とさない。諦めない。
上がれ。繋がれ。届け。
生きがいを探してみたけれど、
どれもしっくり来なくて、
考えてて虚しくなったから、
とりあえず、明日を生きよう。
思った以上に 世界は退屈なようで
思ってた以上に 僕の足場は悪くて
重く沈んだ腰は いくら踏ん張っても上がらず
気づいた時には 頼んでもいない夜明け
いつか夢見ていた「明日」を
まるで強盗かのように
怖れて
拒んだ
十七のある夜明け
とりあえず今日は様子見。そう割りきって教室に入る。玄関での人数のわりに、思っていたよりも人はいた。
基本的に静かではあるが、既に話している子も中にはいる。中等部から一緒の子だろうか。だとしたら、人間だろう。一年の期限つきの自分達は、高等部からの新入りである。そう、チャールズに聞いた。
黒板に張られた紙から、自分の席を探して机の上に鞄を置く。前の席には既に人が座っていた。
すると、こちらを振り向いた。
先程気を付けろと言われただけに、身構えてしまう。
「おはよう、初めましてだね。
ぼく、長谷川望(はせがわ のぞむ)って言うんだ。
名前、教えてもらえる?」
優しくにっこりする彼に、拍子抜けしてしまう。
「祝 瑛瑠です。」
「祝さんかー。なんて読むんだろうって、ずっと思ってたんだ。名前も、可愛いね。瑛瑠さんて呼んでもいい?」
感じのいい微笑み。
だめだ、ひとつもこの人が危険だなんて思えない。
いや、危険とは言われていない。気を付けろ、だけだ。
やはり あの彼の真意は図りかねる。
「もちろんです、よろしくお願いします。」
瑛瑠が微笑んで言うと、望はまたにっこりして言った。
「こちらこそ、よろしくね。」
愛を信じれない
誰も愛せない
愛に忘れられた
愛を忘れた僕を
月が咲う
夢も信じられない
幻すら願えない
今宵も月に妖しく照らされる
あなたの目は
冷たく
切ない