正直、何を基準しているのかわからないが、ここで下手に出てはいけないだろう。そして、彼に仮面の笑顔は通じない。だからこそ、にっこり微笑んでみる。この精一杯の嫌味が伝わるだろうか。ここまでの思考およそコンマ5秒。
「あなたと同じか、それ以上です。」
一瞬の驚きを見せたが、ふっと嘲笑った。
「やっぱり賢いのか。ただ現時点では、君の体調不良の原因に気付いている僕の方が上手。」
体調不良の原因。わざわざ口に出すほどでもない疲れやストレスといったことではないと英人は言いたいのだろうか。
「霧さん。」
「英人でいい。」
「……英人さん、あなたはどこまで掴んでいるのですか。」
何でもないといったように言う。
「まだ1週間だし、特には。」
優秀者の余裕、だろうか。先の自分の言動を省みて恥ずかしく思う。
「祝。」
「瑛瑠でいいです。」
せめて、対等に立ちたいと思った。
既視感ある状況に、横を歩いていた英人が少し顔をこちらへ向けた。
「……瑛瑠、まだ君は1番気付くべきことに気付いていない。」
前のような嫌味の色は抜けていた。
違うな,そう小さく呟いたのを瑛瑠の耳はキャッチした。
教室の扉の前で立ち止まり、瑛瑠を向いた。
「気付こうとしていない。君のその頭があって、なぜ気付けない?」
英人は視線と語意を強くして言う。
「君が欲しがっているものは目の前にある。
最優先事項を見謝るな。」
無理しないでくださいねと送り出された瑛瑠は、朝の調子はよかった。むしろ、久しぶりの外で清々しい気さえする。
名前を知ってからまだ口の聞いたことのなかった霧英人と、何日かぶりに玄関でご対面。何も言わないのはおかしいので、仕方なくおはようございますと声をかける。彼は無表情でおはようと返してきた。棚の扉を閉めた彼は口を開く。
「体調、大丈夫?」
この人も予言者だろうか。それとも、
「私、そんなにわかりやすいですか?」
体調を崩したのは3日前。言葉も交わしていないその日に体調を崩し、後2日は顔すらあわせていない。となると、その言葉を交わしていない3日前から瑛瑠の不調に気づいていたということだろうか。
瑛瑠も扉を閉める。何ともなしに英人の横に並ぶ。英人が待っている風だったから。
「君、今どのくらいカードを持っている?」
こいつもか,と思わないでいられなかった。自分で話しておいて質問に答えない。
チャールズでの慣れもあり、思考の切り替えは早く、その台詞の意味へとすぐ繋がる。
たぶん、情報のこと。
例え貴方が俺の幸せを願っていないとしても、俺は貴方の幸せを願いたい。多分それが俺にとっての「幸せ」の一つだから。
なんか短編作ったんで明日から火曜、水曜、木曜と三回に分けてのせるっす。
それだけっす。
夏を齧る、冷やしパイン
夜に照る、提灯に灯ろう
夜を彩る、打ち上げ花火
老若男女で、賑わう屋台
ひらひらゆらゆら
なびかせて
まるで金魚の尾ひれみたいに
きれいで儚い
今日限定の、君の浴衣姿。
こつんこつん。
下駄を響かせて歩く、そんな君の手を引いて
僕は、
10代最後の夏を迎えた
伝えたかったこと伝わったのかな
伝えたかったことってなんなのかな
君の昨日と君の明日をとても
眩しく思う
君が好きだった花の蕾、あのアパートの先で見つけたよ。
漢字が読めないナントカ荘の前、いつもの帰り道。
汚れたこの街にも愛があるんだって知ったのは、ピンクのライトのホテルにママが入っていったから。
それに僕と君って、ほんとに愛し合っていたから。
藻掻く腕に絡まった、無駄すぎるインフォメーション。
異世界へのステーションに君は立ってる。
置いていかれて、僕は。
夜は、長くなったけれど、
思考はめぐるばかり。
答えには到底たどり着けそうにない。
君に言わなきゃなのに。
君が上るはしごを支えることすら
僕には出来そうもないから。
画面の前で君を探す。
液晶を買うよ。
君が捨てた過去の中に、僕がいるとするならば。
僕はそれで構わない。たまに知らないふりで会いに行くよ。
汚れた世界でも愛があることを切に願うよ。君を大切にしてくれる人に出会え。
君を本当に愛する人に、愛してもらうんだ。
空振るバットが軽かった。何本でも振れるな、この調子なら。
煌めくステージへの階段を君が上がる。
僕は知らないふりでバットを振る。
昼は、新しく塗るため。
夜は、古いものを捨てる。
答えや結果で論じるのはクソってるだけだ。やめたよ。
君に言えなくて良かった。
君が上るはしごを折る奴を、
僕は殺して回ってやる。
君は今日からシンデレラ。
僕は知らない鳥。
君が好きだった花の蕾、やっと咲いたよ。
それどころじゃないよね。
僕が会社に行く時、君のコマーシャルを見た。君のポスターを見た。
君の笑顔が変わってなくて、嬉しくってほんのちょっと、寂しかった。
夜は、長くなったけれど、
思考はめぐるばかり。
答えには到底たどり着けなかった。
君はシンデレラなのに。
君が上るはしごを支えることすら
僕には出来ないから。
画面の前で君を探す。
液晶を買ったよ。
シンデレラ。またねさようなら。
アリーナを出てから少し泣いた。
シンデレラ。もう昔みたいには
会えないけれど、笑ってね。
今思えば、その手の話をかわしたいだけだったのかもしれない。しかし、チャールズのことだ。何があってもおかしくないと考えを改めた。
そして、昨夜の華やかな笑みに共存していた儚さを想う。一変した魅惑的なそれを思い出し、朝ながら小さくため息をつく。チャールズの過去に触れるには、自分は幼すぎる。それを悟った瑛瑠は、いつも通りチャールズにおはようと声をかけた。
まだまだここに居たいな
でも、未来は無理やり私を先へ連れていく
だけど、それは未来の優しさ
成長させてくれるのも、苦しいことも楽しいことも経験させてくれるのも未来の優しさ
思い出がある、それは過去の優しさ
苦しい時に手を差し伸べてくれる、それは君の優しさ
この世は優しさと思いやりと、色んな感情でできている
「成人」っていうのがどんなくくりか知らんけど
「大人」ってなんか嫌だ
楽しいことが楽しくなくなるのが嫌だ
「大人はアニメなんか観ない」って周りの環境がそれを許してないから感性を無理矢理ねじ曲げられてるとしか思えない
「大人になりなよ」
俺に大人になる才能はない
「子供」っぽい自分が気に入ってるならそれが一番良いんだよ、自分にとって
気が付けばセブンティーン。
名前ほどキラキラしてなくて、悩み事は重く、深くなっていく。もっとキラキラしたもんだと思ってたよセブンティーン。
でもそれが大人になった証拠ならば仕方ないな。
ちゃんと立ち向かえるはず。だって、もう泣いてしまえる年齢じゃないもの。
しっかりしないといけない。誰かに頼ってもいけない。そうでしょ?セブンティーン。
好きだったよセブンティーン。
今じゃ少し痛いだけ。大人になんてなれないの。
顔を合わせる たびに喧嘩してた僕ら
あの日「ごめん」の一言すごく遠かったんだ
今さら許してなんて言わないから
最後にあなたの前で
Dear My Friend
いつまでも続くこの思い あなたに 届けよう1番に
You Best Friend
何があってもずっと ありがとう
この言葉を送るよ
Dear My Friend
きっと、瑛瑠が驚き、それでもはにかむように微笑んでいたことに気付いたのだろう。
少し自嘲気味の笑みを溢したチャールズ。
「ですから、お嬢さまにもきっとそんな存在が現れますよ。」
ここへ持っていきたかったらしい。見事な帰着に瑛瑠もにっこりする。
確証もないありがちな言葉は、今の瑛瑠にとって何よりも嬉しいものであった。
「チャールズから自分の話をするのは初めてだったから、嬉しかった。」
ぽろっと零れた言葉がチャールズに苦笑をもたらした。
「少々語りすぎました、すみません。」
瑛瑠がいかにも興味津々といったように碧い眼を覗きこむ。
「個人的興味として、チャールズの恋愛を聞きたいのですがっ……!」
そんな瑛瑠をいつものように
「はいはい、それはまたの機会に」
とあしらっていたのだが、言いかけて止まる。
すると、微笑んで言うのだ。
「お子サマには少々刺激が強すぎると思われるので話せません。」
成人したらお話ししてあげてもいいですよ?と、そんなことを口走る。その笑みがあまりに魅惑的であてられそうになった瑛瑠は、顔を引きつらせておやすみと言わざるを得なくなった。