叫び声が聞こえる。
物凄い音と共に、強い風圧に飛ばされたのだ。目の前の神殿は白煙に包まれていて、どうなっているのかは見えない。
崩れているような音と、畏れの声。
「ママ!?ママどこ!?」
不安で不安で仕方がなくなっている少女の母を呼ぶ声は震えている。母がいないことへの恐怖。急に襲われた痛みへの恐怖。何が起こったのかわからない恐怖。
激痛のなか立ち上がり、神殿へ駆ける。
深く積もった雪が、少女の足に絡みつく。
転びそうになりなり、思わず目をつむる。
「パプリっ!そっちに行くな!」
転ばなかった。正しくは、腕を引っ張られたから転ばずにすんだ。
この声はあの少年。
振り返り、知った顔に安堵して泣きそうになる。少女は堪えた。
「ママがいないの!」
「とりあえずこっちにこい!」
引っ張られるままだった。
ふたりは木の陰に隠れる。
スカートが重い
後ろ髪も昨日梳いたばかりなのに
重い重い
雨は潮時を知らなくて いつまでたってもわたしを逆立てて
前を向くことが難しい
何か呟かれた。
「ママ?」
「パプリにとっては初めてのお友だちだったかもしれないわね。」
元の優しい微笑みだ。
「エルーナもね、お姉ちゃんに会いに来たって言ってたの!エルーナにもまた会いたいなあ……!」
神殿を出る前にマフラーを締め直される少女は、にこにことしている。困ったように微笑む母には気付かない。
「きっとまた会えるわ。」
ふわっと締め直されたときには、浮いている,という感覚しかなかった。
否、正しくは宙を舞っていた。飛ばされていた。
下が降り積もった雪だけだったということと、神殿の中央から離れていたところにいたということが幸いだった。
小さいからだに激痛が走る。
何が、起こったのだろうか。
眩しい
太陽が出す輝きに応えるように
様々なものが眩しく反射する
鋭く、暖かく、
そんな輝きに人々は感動する
光があれば影がある
その影に全ての人が気付くとは限らない
光に気付けても影には気付きにくい
光という存在で影は生まれる
影という存在で光はより眩しくなる