静かで落ち着いたその声は、瑛瑠を離さない。
「瑛瑠さんのこと、避けてるか避けてないかでいえば、避けてるのかもしれない。」
教室でも聞いた言葉だった。
「ぼくが原因で瑛瑠さんを困らせてたことを知って、恐くなったんだ。近くにいると、困らせると思って。」
哀しそうに微笑む望。
窓から、暖かい光が入ってきた。望の視線から解放されふと外を見ると、夕焼けと呼ぶにはまだはやい赤みがかった青い空が見える。
瑛瑠の視線の先に気づいて、望は先程より柔らかい声で訊ねる。
「綺麗だね。帰ろうか。」
さすがに驚く。まだ望はここへ来たばかりである上に、話も始まって間もない。何か理由があってここを指定したのではないのか。
口ほどにものを言う瑛瑠の澄んだ眼に望は苦笑する。
「ここを指定した理由は3つ。1つ目は、人が少ないから他人の目を気にしなくて良いということ。2つ目は、待ち時間が暇にならないような場所であること。最後が。」
一度切ったことで、瑛瑠の眼は再び望を捉える。
「瑛瑠さんが、何について調べているのかを確かめるため。」
出口のない部屋に君と二人
ずっと一緒にいられたら
どんなに幸せなことでしょう
飽きさせない
逃げさせない
愛してあげる
どんなにどんなにどんなに愛したって
貴方が好きって言ってくれなきゃ
こんなこと考えもしないのに
あなたは確かに笑った
彼岸花のように紅くて
なまめかしい唇を歪めて
鮮明に覚えているのに
長くて艶やかな黒髪も
吸い込まれそうなあの瞳も
消えてしまいそうなくらい透き通った肌も
あなたはどこへ
行ってしまったの
who it is that we are handled by
someone is gazing our trivial battle and struggle
riddle to me
we just huddle in the middle of the vast globe
妖孤のランクについてページを進めようとしていたところで望が来た。
「ごめんね、瑛瑠さん!」
図書室のため声は抑えているが、申し訳なさ全開の表情からそれは伝わる。
望は瑛瑠の隣に腰かけた。
「いえ、興味深いことがたくさん学べました。大丈夫ですよ。」
開かれたままのページを望は目で訊ねる。
見てもいい?
瑛瑠が差し出すと、心得顔になる。瑛瑠がほんの少し目を丸くする羽目になった。
「やっぱり、瑛瑠さんとちゃんと話さないと。」
ぽつりと零れるその声。
窓の外からは、色々な音が聴こえる。この声は、運動部だろうか。遠くでは、楽器の鳴る音が聴こえるような気がする。
それでも、静かなその声に耳を奪われる。
横にいる望と視線が交わる。目を逸らすことは叶わない。
「ぼくは、ワーウルフだ。」
好き
嫌い
スキ
キライ
すき.....
きらい........
もうそんなことやめて
その摘んだ花一輪もって
つべこべ言わずに
大好きな人に会いに行けばいい
この間、家を出ようとしたら、雨が降っていた。合羽を着なくっちゃ、鞄もゴミ袋に包んで濡れないようにしよう、駅から高校まで少し歩くから傘も持たなきゃ。そして約5分後。万全を期して僕は玄関の戸を開けた。雨は殆ど止んでいた。
「…お前、僕のこと嫌いだろ…」
と、僕は世界に向かって口の中で呟いた。
このままずっと夜が続けばいいのに
そう嘆きながら
今日も逃げ続ける
昼間さえも
なにもかも
自分のものになればいいのに
いつもいつも同じことを嘆き続けて
そうして
はじめて私は生きていける
幸せってなんだろうな
王子様とお姫様みたいにはいかないけどさ
あなたが隣にいると 世界がニカッと笑っていて
世界が僕ら二人だけを隔離している
お話のようなロマンチックな演出は
そんなには起こりはしないけど
こんな平凡が僕にとっては
きっとそうなんだろうな
王子様とお姫様がたまたま美男美女だっただけでさ
王子様はお姫様が隣にいるだけできっとそれだけで
そこだけなら平凡なぼくと何ら変わりはないのかも
丁寧に包んだって
あなたはきっと乱暴に剥がすから
はじめから剥き出しの
ありのままの私を見てよ
あのひとの命に終わりがあるように
あのひとの言葉は永遠ではないのかもしれない
抜け殻みたいな落書きに神様は宿らない
動物が、呼吸をすることがそんなに
しあわせなことだと思えないんだ
目を伏せて懺悔したきみの横顔
ひとり分の酸素が飽和した星で
辿った足跡の途切れる場所を探している
報われないことばかりだなにもかも
隣にいても触れられない近さで
きみのこといちばんに知っていたかった