旅に出よう。
長い長い旅になるだろう。
荷物は持ったかい?
必要な物はあるのかい?
旅に出よう。
行き先は遥か彼方。
14日目には大きな川をも渡って
まだまだ続く旅路の途中。
49日も歩けば目的地に着くだろう。
ここは腹も減らぬ。お金も使わぬ。
長い長い旅の途中。
皆で歌える歌が1つあれば充分。
ここは旅の途中。
僕の教室に悪魔がきた
1日目、あの子が来なくなった
2日目、あいつが消えた
3日目、そいつがいなかった
気づいたら僕のとなりももういない
僕は逃げ切れるだろうか
予防接種したから、たぶん大丈夫
痛いくらいに突き刺さる
冷たくて澄んだ夜の空気
指先は切れそうに冷えて
吐く息は真っ白に煙る
真っ黒な空には
おかしいくらいに光る
つるんとしたゼリーみたいな月
ぽつぽつと瞬いているのは
目をこらしてやっと見えるほどに
小さく輝く星と飛行機
透明な匂いのする冬の夜
そろそろちゃんと
自分を出さないと
自分が泣いちゃうと思った
かわいそうだと思った
ちゃんといろんなもの持ってるのに
もったいない
「……黒鴉、いいこと思いついたわ」
「なんだい白鶴」
「時計盤に『超短針』を追加すればいいのよ」
「……白鶴ってさ、頭いいのにたまに馬鹿だよね」
「なっ、b、ばっっ⁉」
『おい白鶴、何独りで喋ってるんだ』
「ほら、先生に怒られちゃったじゃない」
「白鶴、僕と白鶴の会話ってさ?周りの人には独り言に聞こえるって言わなかったっけ」
『白鶴、なんか変なものでも食ったか?』
「で、なんで私の案は却下されたの?」
余所余所しさが残る今日はもう1月
余所余所しさが残る1月
僕はまっすぐにただまっすぐに見つめてる
まっすぐ前見る君のことを
頭蓋骨の中に蝶々を閉じ込めた
私の頭の中で
必死にもがく
大脳や髄液に沈められ
今にも羽がもげそうね
頭を割って羽ばたいて
私は死んじゃうけれど
頭蓋骨の中に蝶々を閉じ込めた
僕の運命の歯車は、いつから、狂ったんだ?
見上げた月は、僕を嘲笑うようにして、見下ろしている。
人の気配のない場所で、自販機は一人でただ、突っ立っている。
僕は強くなる。だから、傷口は庇わない。
本当の自分
それは、ありのままであることですか?
それは、いつの間にか猫を被った自分ですか?
それとも、着飾り、ずっと笑顔の自分ですか?
自分を知りたい、そして……
人って怖い
結月視点
涼香からの手紙には、こう書かれていた。
『御影結月様 中村時雨様
元気ですか?きっと、この手紙を二人が読んでいるということは私はもうこの世にはいないのでしょう。
さて、なぜ二人に手紙を書いたか教えましょう。
それは、二人がこの先生きていく中で、約束してほしいことがあるからです。
それは、「強く、優しく生きること」です。』
その手紙はなぜか敬語で書き綴られていた。
そして、僕は、約束の内容を見て、昔のことを思い出した。
それは、僕が時雨ちゃんに拾われてから間もない頃のことだった。その当時、施設に慣れていなかった僕は、時雨ちゃんにいつも付いて行っていた。
そんなある日、時雨ちゃんが「仲のいい子のところにいく。」と行っていたので、僕は付いて行った。
時雨ちゃんの話によると、その子は体が弱く、部屋にこもりっきりなんだそうだ。
しばらく歩き、その子の部屋に着き、ドアを開けると、ピアノで美しい音色を奏でる、女の子がいた。
そして、時雨ちゃんが言った。
「久しぶり、涼香。」
どうやらこの人の名前は、涼香、というらしい。
そして、時雨ちゃんは続けて、
「この子が、前に話した、結月ちゃん。」
と言って、僕を紹介した。
僕は、
「はじめまして、御影結月です。」と言った。
すると、涼香は、僕を抱きしめて、こう言った。
「あなたが、結月ちゃんね!時雨が、最近会いにくる度に楽しそうに結月ちゃんのことを話してたから、会いたかったの!」
まるで、さっきまでお淑やかにピアノを弾いていたとは思えないくらい、明るい人だったので、少し驚いた。
時雨ちゃんが、涼香にこう言った。
「そんなにはしゃいだら、また具合悪くなるよ。
あと、楽しそうに話してないから。」
そう言った時雨ちゃんの顔は赤かった。何照れてんだ、といいたかったが、言わなかった。
そして、急に涼香にこう言われた。
「結月ちゃん、ギターに興味ある?」
僕は黙って頷いた。
すると、涼香は、部屋の奥からギターを持ってきて、「じゃあ、さっそく弾いてみよっか!」と言った。
その時、時雨ちゃんのため息が聞こえたような気がした。
【続く】