そろそろ君の視界から僕がいなくなったころだろうから、正直に話そうか。
君にフラれたあの時、僕は君を呪いたくてしかたがなかったのだよ。地べたに頭を擦り付けて僕に懇願しなきゃならないくらいに後悔させてやろうと思ったさ。
けれど、それをするためには君を欺かなきゃならないだろう? だから、僕は君の前では女の子らしく寂しがっているふりをしていたのさ。
寂しがっているふり、だったのさ。
けれど、それはいつしか、僕の本当になってしまってね。
僕の寂しさが癒えた頃には、君はとっくのとうに他の女の子といちゃついていたよ。
あぁ、それはもう失望したさ。絶望ではなく、失望だね。君という人間に呆れ果てたさ。
そして同時に僕という人間に呆れ果てたさ。
いや、もしかしたら僕は人間じゃないのかもな。
だって、こんなに君のことしか見えていないだなんて、おかしいだろう?
だから、君に最後の贈り物をしよう。これは、僕が君に送る最後の贈り物で、約束で、そして、最初で最後の呪いだ。呪縛、と言ったほうが正しいかもね。
君に、もう一度この言葉を贈ろう。
『君に好きな人ができようと、彼女がいようと、僕には関係ない。僕はバカの一つ覚えみたいに君のことしか見えちゃいない。けれど、この自分勝手な気持ちを君に押し付ける気はないから安心してくれ』
『後悔、するなよ』
香りって不思議なもので
色々なものを思い出してしまうんです
目で見たって
口で食べたって
思い出せないことも
香りって不思議なもので
貴方のことまで思い出してしまうんです
あなたが他の女の子と一緒にいると
ドロンドロンの黒い心が
止まんなくなる
そして、心が痛くて
苦しくて
血が出るほど悔しい
私じゃ駄目なのね
私のことなんか見てないのに
あなたの視線が気になっちゃうの
苦しい
心臓が鳴り止まないよ
我が家の風呂場は壁に鏡が貼り付けられている。ある日私が頭を洗って、髪を流したとき、ふと鏡を見ると、鏡の中の私がニタニタ笑ってこっちを見ていた。
『やあ君、突然悪いけど、私と入れ替わる気は無いか?』
その時は寝ぼけてでもいたのか、何故かこのおかしな状況にもすんなり対応出来た。
「もし入れ替わったらどうなります?」
『敬語なんて止めてくれよ。同一人物だろ?』
「そんな気がしないですね」
『まあ特に変化は無いさ。そっちの記憶はこっちにも来るし』
「それ意味あります?」
『自分が主体となって行動することに意味があるんじゃないか』
「で、入れ替わったらやっぱり性格も逆になったりします?」
『そんなのあるわけ無いじゃん。ファンタジーじゃないんだから』
「思いっきりファンタジーの存在が何言ってるんだ」
『もし性格が反転したとして、例えば君には優しい面もあるし乱暴な面もある。柔軟かと思えば変に頑固にもなる。何も変わりゃしないよ』
「それもそうか。けど私はもうしばらくこっちにいたいんだ。今やってるゲームがもう少しでクリアできるからね。こればっかりは自力でやり切らないとつまらない」
『そう。少し残念だが、君が嫌だと言うなら無理強いは出来ない。気が向いたら言ってくれ』
「ところで、私と随分口調が違ったけど」
『……ごめんなさい結構無茶してあの喋り方してました』