表示件数
0

LOST MEMORIES 427

 町から少しはずれたカフェ。カフェというと『Dandelion』一択だった瑛瑠は、新鮮な気持ちだった。
 落ち着いたBGMに望の声が乗って届く。
「まだ気まずくなるかも、なんて思ってる?」
 アイスティーの氷がとける。
 からんというあたたかい音を端で聴きながら、瑛瑠はゆるく首を振った。
「もう、平気です。私たちの間には、信頼関係がありますから。」
 微笑む瑛瑠に、望も返す。
「じゃあこれからは、男として見てもらえるように頑張るよ。」
「そういうところですよ、望さん。」
 レモンの香りが漂う。
 瑛瑠は、レモンティーを手にした。白い湯気が淡く消える。
 ふっと訪れた静寂。
「望さんは、素敵な方ですね。」
 レモンティーを置いた瑛瑠は、不意にそんなことが口をついて出た。

0

金ではない斧 銀より良い素材でできた斧

ある日、樵が森で木を切っていると、うっかり手が滑って斧を近くの沼に落としてしまいました。樵が、まずいなー、木って鉈だけで切れるのかなー、なんて考えていると、沼の中から老婆が斧っぽい物を三本持って現れました。
「何だこの婆ぁ?」
「あたしゃこの沼の女神だよ」
「嘘つけ。女神がこんな不細工なわけあるかよ」
「あァん?舐めとんかクソガキが。呪うぞ?」
「分かった分かった信じるから。で、何の用?」
「アンタの落とした斧があたしの住居破壊しに来たから文句言いに来たんだよ」
「ああ、そう。まあ良いや。斧返して」
「人の話を聞け」
「人じゃないじゃん」
「口の減らない奴だな。で、アンタの斧はこれらのうちどれだい?一つ目はこの古い石斧。二つ目はこの鉄斧。最後がこの良ーっく鍛錬された玉鋼の斧」
「ああー………。二つ目だな」
「そうかい。ならこれは返してやらないよ。使い慣れない他の斧使って、手にマメ作って苦労するが良いさ。イーッヒッヒッヒ」
沼の女神は、残り二つの斧を置いて消えてしまった。
どうやら石斧は歴史的価値のある物だったらしく博物館に売ったら良い金になった。玉鋼の斧はありがたく使わせてもらっている。前の斧より楽に切れる。
最近あの女神は良い奴だったんじゃないかと思うようになってきた。

0

好き

好き
なんて言っちゃったら
あなたを困らせるとわかっているのに
気まずくなるとわかっているのに
冗談めかして
好きだよ
なんて言ってみると
あなたの方が大人びた反応だった
なんだろ
悔しい

0

最初のKiss

アナタだった
最初は最後で儚く
やるせない気持ちだけ置いて去っていった

0

想いは α

あなたに、抱きつかれた
いきなりだったし驚いた。
しかも逃げちゃうとか反則でしょ。
呼び止めはしたけど、追いかけちゃダメな気がした。

あなたの後ろ姿。

同性のあなたに抱きつかれてドキドキしている私の、この想いは何なんだろう。

4

ネバーランドで呟くピーターパンの独り言。

こういう考え方の人もいるかもしれないと投影して紡いだ言葉なのか、私は今こう考えているよということを投影して紡いだ言葉なのかがわからないから、易い気持ちであなたの考えに共感するなんて言えないのです。それがまた趣深さでもあり、もどかしさでもあり、面白さでもあるのだけれど。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
掲示板で言葉を紡ぐ人たちの作品のクオリティの高さ(なんていう軽い言葉でくくってしまって申し訳ないのだけれど)に、他者と関わることで改めて気づかされた私は、ここで言葉を交わし合うことができることに喜びを感じるのです。

0

何回目?

お母さんの持ち物なんだなと思うのはこれで何回目だろうか
秘密を秘密に重ねて嘘を嘘と重ねるのはこれで何回目だろうか
お母さんが毎回「あんたのせいで」と言って悲しむのは何回目だろうか

早く終わってくれた方がすがすがしい

0

寂しさ、悩み事。

夜、寝る前に布団に入ってからが始まり。
きっと奴が来る。
奴は1人の時に来る。夜は毎日来る。
奴が現れると私の頬を濡らし、心を真っ暗にする。
きっと何歳になっても、奴は私の所に来るんだろう。
でも、奴は大切なことを教えてくれる。
だから私は奴のことが嫌いじゃない。

0

追いかける人

「金属バットって、ふつう地面に刺さりますっけ?」
「普通じゃないから刺さったんだろうね」
「普通じゃないって……?」
「君ならもうその答えを知っているはずだ」
ええ、まあ、はい。恐らくその答えであろうものと似ているであろうものが僕の中にもありますからね。
「これ、どこから飛んできたんでしょうか」
「んー、ここから約40m先、あの男が投げたやつだね」
そう言って青年が指差した先には、件の不良の一人がすごい剣幕で居りました。
「あれ、知り合いかい?『あの野郎カツアゲ成功率100%の俺の顔によくも泥塗りやがったな。ブッ殺してやる!』みたいな顔してるぜ。奴との距離残り約20m。逃げるなら早くしな」
青年がそう言うので、僕は『およげ!たいやきくん』を発動し、全力で逃走を開始した。
それから五分後、件の不良は意外と足が速かったのか、まだ追いかけてきていた。
(おいおい、嘘だろ……。僕、結構なスピードで逃げてるんだぜ。何で追いつけるんだ?まさか僕の力みたいに、『追跡が上手くなる能力』でもあるってのか?けどそれだとバットの謎が解けないしな)
「やあ少年。苦労してるね?」
あの怪しげな青年がまた現れた。自転車に乗ってやがる。
「ええ…。どうしましょうこれ」
「君さ、『空気』って見えるか?」
「はあ?」
「だからー、空気だよ。約八割は窒素でできてて約二割が酸素、残った1%にも満たない中に色々入ってるあれさ」
「見えるわけ無いでしょう」
「そうだろう?……だから良いんじゃあないか」
「…へ?」