自分のこと可哀想に歌う人いるけど何がしたいんだろ。
自分の人生を物語に例えたら自分は主人公で脚本家で監督であって。そうやって自分の人生は自分が決めるのに悲劇の主人公に自分を仕立ててどうするんだ。
どうせなら喜劇の主人公になろう。自分が笑顔で終われるラストを描くんだ。
泣いちゃダメだ。泣いたら蒼空が私を忘れたことを認めたことになる気がする。
でも、もういいかなぁ。
スマホをぎゅっと握りしめコンクリートに膝をつく。蒼空、蒼空と声を上げて泣いてしまう。
蒼空が私のことを思い出さなくても、これからもずっとずっと私は蒼空のことが好きだ。蒼空の声も仕草も匂いも全部全部大好き。
でも私だけが好きだなんて寂しいんだって。
伝わるはずもないけれど、悲しい気持ちは募るばかりだった。するといきなり私の視界に誰かが手を差し伸べるのが見えた。
「膝、怪我してるじゃん」
聞きなれた声に上を向く。
『蒼空……?』
そこには蒼空がいた。なんでこんな時に。
蒼空は本当にずるい。私が辛い時にいつも現れるんだから。
「ほら、手貸すから。
女の子でしょ、怪我跡残ったらどうすんの」
『……ありがとう』
蒼空の声に1滴1滴と涙が零れてしまう。
「葵、泣かないでよ」
『そうだよね、ごめん…ごめんね』
そう言う彼の手には私とのツーショット写真が映ったスマホが握られていた。
私がいなくても蒼空の世界は回るんだ。
そう思うと出し切ったはずの涙は床にまた落ちていた。そして私は来た道を戻っていた。
どうして私を忘れてしまったの。
そんな黒いモヤが心を支配していく。
いつの間にか雨が降ってきた。
でもその雨さえも今の私にとってはどうでもいい。
2週間立って蒼空も学校に来るようになった。
でも私のことを思い出す素振りはない。
寂しいかと聞かれれば当たり前に寂しい。
そりゃそうだろう。
でもその気持ちさえどこにもぶつけられない。
これからどうしていいかも分からない。
私はただの幼い子供だったんだと思いながら
スマホのフォルダーを見る。そこには蒼空と私のツーショット写真があった。この頃には戻れないと思うとまた涙が出てきそうだ。
もう今日は帰ろう。先生に早退するとだけ伝え、
ポツポツと歩く。
幸せなんて儚いものだ。案外脆くて壊れやすい。
そしてそれがいつ終わるか誰も予想出来ない。
例えば大切な人が事故にあってしまって
自分のことだけ忘れてしまう、とか。
「君は誰…?」
『…何言ってるの?葵。葵だよ…?』
「ごめん、僕達どこかであったことあるかな」
神様は不公平だ。私と蒼空は世間一般的に言う“恋人同士”の関係だった。
私の隣には蒼空、蒼空の隣には私。そんなどこにでもあるようでここだけの幸せだったと思う。もう過去形になってしまったけど。
[蒼空が帰り道に事故にあった]
そう聞いた時は心配で心配で蒼空がいる病院まで
ひたすら走った。命に別状がなかったと聞いた時はどれほど安心したことか。
蒼空の病室に入った時堪らずに涙が零れた。
本当に良かったと泣くことしか出来なかった。
それなのに
“君は誰…?”
まるで初めて会うような蒼空の言葉に視界は暗くなった。だけど頭の中は真っ白で。
変わらないのは蒼空の綺麗な瞳だけだった。
頭を抱えて
髪をぐしゃぐしゃにして
考えても
考えても
わかんない
君の気持ち。
ほんの少しでいいから
私のことを好きになって欲しいのよ。