朝の光とバタートースト
夜の闇と読みかけ文庫本
お日様の軌道をなぞると、
お月様はゆるゆる欠けていく
「めぐちゃん!」
神社の階段に、めぐちゃんはいた。わたしをみて、ぱっと立ち上がる。「みゆき!」そして
わたしの顔をのぞきこんで、
「泣いてるよ、どうしたの、大丈夫?」めぐちゃんは優しいめぐちゃんのままだった。「めぐちゃんごめんね」わたしひどいこと言ったのに。「いいよ」「でも」
「ほんとは妨害しようとしてたのかもしれない」「え」めぐちゃんの着てるTシャツのZUSHIOがはたはたと揺れる。
「だからおあいこね、みゆき、 ーーー」
花火の音が響いた。そのせいで何も聞こえない。「聞こえなかったよ」言うと、頬のあたりをかきながら
「聞こえなかったなら、いい」だって。
それなら。
ヒューーの音に耳をすまして、今だ。
「めぐちゃん、ーーー
明るい彩りがめぐちゃんの顔をくるくると照らす。太鼓の音も混ざって、わたしの声が闇に溶けていく。
聞こえた?」めぐちゃんは首をふる。「おあいこってことでしょ」「うん」
ヨーヨーがほしいと言ったら、その後りんご飴がたべたいと言う。かき氷も綿あめもたべよう、ここ数日お話できなかった分、他にも他にも。
「でも、みゆきがなんて言ったかわかるよ」前髪の間から、めぐちゃんのきらきらした瞳がのぞいた。「わたしも、」
手を握る。
「めぐちゃんがなんて言ったかわかるよ」
もう離れないように、はぐれないように。
夏の夜、打ち上がる花と花がいつまでも、ふたりの影を照らして。
3年前の音楽室
そこで僕は君と出会った
理由はないけど特に
君に惹かれていったんだ
1ヶ月後の音楽室
僕の意識は消えたんだ
記憶の中 心の底
僕の想いは眠りについた
他の誰かを好きになって
何を想ったのさ ばかみたいにさ
雨が降りしきる帰り道
蜂が飛び込んだ放課後の教室
全部大事な思い出になる
これから思い出になるんだ
2年前の音楽室
僕は誰も想わなかった
想いは死んでいた
そう思ってただけだ
半年後の文化ホール
コンクールに挑んだんだ
演奏に無我夢中になった
想いの眠りは続いてた
他の誰かを好きになった
くだらない想いが ここで生きた
送り付けられた手紙だって
送り付けたCDだって
近いうちに思い出になるよ
黒歴史になるんだよ
1年前部活やめて
そこにあったのは君だ
手紙を送り付けられた
蛇足な補足 加速する慟哭
眠っていた想いが目を覚ましたんだ
半年前の自分の部屋
君のアカウント見つけたよ
ばかみたいな文送ったよ
君は「笑」ってくれたよ
僕は画面越しに笑ったよ
卒業を前にした 君と話をした
高校に入った、君とは違う高校だ
社会的に見たら僕は高校生だ、君もだ
だけどね、僕は4年生だ、あの時からずっと中学生だ
「今度のお祭り、一緒にいこうよ」「いいよ」
あなたに出会えたことが
同じ本を読んで育っていたことが
あり得てしまった奇跡で
これから会うほんとのあなたは
どんな人なのかしら
「運命で決まってたのかなぁ」
そんな一言でまとめてしまう
「事実」や「現実」
生きてる
それだけで あなたは
誰とも違う
Specialな存在
生きているだけで 未来を自分を
どうにでもデザイン出来る
あなたの姿を探してしまう自分が
あなたに笑いかけてしまう自分が
あなたを好きになった自分が
間違いだったなんて認めたくないよ。
「黒髪の女の子でね、あの時は二つのお団子結びにしていたと思う。
歳は5歳くらいかな、きれいな目だった。」
思い出す。とても可憐な美少女だったあの女の子のことを。
「そういえば、自分のこと“アカネ”って言っていたと思う。」
アカネ,そうチャールズが反復する。
「ジュリアさんとの情報とちゃんと一致している?」
聞くと、ほんの少し困ったように微笑む。
「はい。」
英人は忘れずに報告したのだと思うと、何となく悔しいような気持ちになる。
あ、あと、
「あと、何か、落とし物をしていた。」
鋭くて、こういう形の,そう言って瑛瑠は、簡単に描き上げてみる。
チャールズは少し驚いたように目を見開く。
「……これは、」
かんざし、というようだ。