人ごみに流されるまま流され、足元に、投げ出された感覚を覚える。そしてそのままバランスを崩し、倒れこんでしまった。
「瑛瑠⁉」
抱きとめてくれた歌名が非常にかっこよかった。
「ご、ごめん。あの、下駄が……」
足元の拘束感が消え去ったのだが、それは片方の下駄が行方不明になったということで。とりあえず人混みを抜け、歌名の支えに甘えて道の外れまで出る。
「ほんと、すみません……」
「怪我はない?大丈夫?」
「怪我はないです、大丈夫。でも、下駄が……花さんに借りたものだったのに……」
申し訳なさで押し潰れそうになっている今にも泣きだしそうな瑛瑠に、歌名は微笑む。
「大丈夫!二人が探してきてくれるはずだから!狼さんの鼻があればすぐ見つかるよ!」
歌名の言うとおり、英人と望はあれだけの人混みの中から、すぐに投げ出された片割れを見つけてきた。
「瑛瑠、大丈夫か?」
「怪我はしてない⁉」
二人が無事に戻ってきたことと、手に下駄を持っているのを見て、力が抜けてしまった。本当に良かった。
「私は大丈夫です。ありがとう、二人とも」
ほっとした様子の二人だったが、望が困ったような顔をしている。
「望?」
「下駄、鼻緒が切れっちゃっているんだ」
それでは、歩けない。
さあっと血の気が引く。
「とりあえず、ここから近いから“Dandelion”に行こう」
それは、瑛瑠の不安を煽らないための、歌名の咄嗟の判断だった。
「―なっ⁈」
美蔵は驚きのあまり目を見開いた。
「え、どういう…」
何でここに…とわたしが言いかけた、その時だった。
「―!」
目の前が、真っ暗になった。
さっきと同じだ、視界には何も映らない。
だが、闇の中から声が聞こえた。
「―どういうことだ?」
誰かの、多分美蔵が、静かに誰かに尋ねている。
「え、おれに聞いてる?」
耀平の、彼らしいぽかんとした声が聞こえた。
「…そう、あと死霊も」
「おいさすがにその呼び名はやめろ。せめて”使い”ぐらいつけろし」
ネロは不満げに言った。でもあれ、美蔵はネロが”死霊使い”と呼ばれるものだって知ってるの?
「まぁそれは良いんだけどさ」
美蔵は2人に向かって、1つ間を取ってから聞いた。
「お前ら、盛大なまでにバレちゃったじゃん。どうすんの? これから」