そんな2人のことを、ローズとリリーはもちろんよく思っていませんでした。とくにリズに対して、とても怒っていました。2人はいろんな方法でヘンリーとリズを邪魔しようとしましたし、リズにもたくさんの嫌がらせをしました。リズはとても優しいですから、なにかの間違いだと思ってとくに気にせず暮らしていました 。でもヘンリーは2人のいやがらせに気づいていました。そして、そのことをヘンリーが知らないと思ってローズとリリーが近づいてきていることにも。
王さまとお妃さまももちろん気づいていました。2人はリズとヘンリーがせっかく結ばれそうなのに邪魔をさせるわけにはいかないと、ローズとリリーを遠い田舎の別荘にしばらく泊まらせることにしました。素敵な男性方とのパーティーが毎晩あると聞かされた2人は、喜び勇んで出かけていきました。
さあ、これでヘンリーとリズの邪魔をする者はいなくなりました。2人はこれから、相手の良いところや悪いところを知り、長い年月をかけて受け入れあっていくでしょう。そしていつの日か本当に夫婦になるかもしれません。もしならなくとも、2人ならお互いをいいパートナーとして、生涯付き合っていけるでしょう。
誰もが結婚するだろうと思っていたカップルが破局するように、一生の友だちだと思っていたひとといつしか疎遠になってしまうように、先のことなんて誰にもわかりません。
けれど、願わくばすべてのひとが、そのひとだけの幸せで満たされていますように。
いつもは控えめでニコニコしてるくせに、
堂々と歩くとこも、真剣な横顔も、ほんとに好きだ
これは、なんとか効果、ってやつかな
早く冷めちゃえばいいのに
そしたら、楽なのに
世界じゅうどの国も、中央が豊かなのは当たり前だ。
埼玉がどうちゃらとか群馬がどうちゃらとかいう漫画が流行った背景にあるのは、日本は豊かなようでいて全体的に見たら貧しいってこと。東京という強国のもとに、地方という属国があると考えたほうが日本のありようを把握しやすい。
日本はひとつではないのだと、関東エリアの外の人はよくわかってるんじゃないか。
「かなのこと親友だと思ってたのに、こんな形で裏切られるなんて思わなかった」
トイレから戻ったるなの声で、考えごとに没頭していたわたしははっとした。
「あ、ごめん。悪気があったわけじゃ」
「悪気があったわけじゃないって!? 親友だったらわかんじゃん!……もういいよ。友だちやめよ」
「ごめん。ほんとごめんなさい。新しいの買ってくる」
「そういう問題じゃないから」
ずっと仁王立ちのまま、るなはわたしをにらんでいる。わたしはただ、とけかかった氷を見つめるばかりだ。
「もうこれからシェアなんてしない。翔君もわたしが占有するから。かき氷ほとんど一人で食べちゃったあんたが悪いんだからね。さよなら」
そう吐き捨てるように言って、るなは店から出て行った。
一週間後、翔君にふられたのでやけ食いするから甘味処につき合ってと、るなからLINEがあった。
「わたしたち、やっぱり親友だよね」
あんみつのバニラアイスを頬張りながら、るなが言った。
わたしは笑顔でうなずき、ところてんをすすった。
わたしは森のパン屋。お客は熊さんや、りすさん。熊さんは蜂蜜でお支払い。りすさんはどんぐり、くるみでお支払い。
まあ、当然赤字だよね。
*
あれ。熊さんとりすさんが、けんかしてる。さっきまで仲よくパンを半分こして食べていたのに。
どうしたの、けんかは駄目だよ、って間に入ったら、りすさん。
「だって、熊さんが、神様なんていないって言うんだもの」
「いるわけないだろ。だいいち見たことあるの?」と熊さん。
「そりゃ……ないけど」と、涙ぐむりすさん。
わたしはりすさんに言った。
「神を否定されてむきになるのはお前の信仰心が足りないからだ」
*
人はいかにして高度な自我を獲得するのか。
他者も自分と同じような心を持っていると認識できるのは、他者を騙そうと考えた結果である、と言った人がいる。
誰が言ったのかというと、ほかならぬわたしである。
ばれない嘘をつくためには、他者にも自分と同じ心が備わっていることがちゃんとわかっていなくてはならない。
つまり、高度な自我獲得とは、そういうことである。
パンが作れなくなった。資金が底をついたのだ。
冬がやってきた。
熊さんが、飢えて死んだ。遺体は、りすさんと半分こした。
わたしは毛皮でセーターを、内臓で漢方薬をこしらえた。
りすさんがどのように活用したのかはきいてない。興味もない。
雪が降り始めた。
窓を開け、雪をながめていると、熊さんの幽霊が現れた。熊さんは、開口一番こう言った。
「神はいた」
「あ、そう」
熊さんはわたしの素っ気ない返事に拍子抜けしたのか、取り繕うように、「パン屋、やめたんだね」と言った。
わたしは漢方薬屋に商売替えしたのだ。
「もうかってる?」
「パン屋よりはね。漢方薬は腐らないから」
「漢方薬やろうと思ったのは、何きっかけ?」
「りすさんの所にも行ったの?」
君きっかけだ、とはさすがに言えなかったので、わたしはさりげなく話題を切り替えた。
「りすさんは神の使いだ。霊になった僕が訪ねてくなんて恐れ多くて無理」
そう言い残し、熊さんは消えた。いつの間にか、雪がやんでいた。
「象さん、象さん、お鼻が長いのね」
ハムスターさんが象さんに言いました。
すると象さんはこうこたえました。
「母は短いんですけどね」
曖昧に笑ってハムスターさんは本題に移りました。
「ねえ、象さん、どうして差別はなくならないの?」
「動物の本能だから」
「本能なんだ。なんか、やだな」
「恋愛体質のハムスターさんならわかると思うけど、恋愛も差別の産物ですよ」
「え? どうして?」
「だって、素敵だな、と思うからときめくわけでしょ」
「それはもちろん」
「誰に対してもときめくわけじゃないよね」
「当たり前でしょ。誰もがみんな素敵なわけじゃないもの」
「それがまさに差別」
「あ、そうかぁ」
「差別せず、みんな受け入れてたら身が持たない」
「わたしのお母さんがそうだったけど」
「自分の子どもはモテるほうがいいよね。とくに男の子だったら」
「うん」
「モテる男の子を作るためには?」
「……うーん、教育?」
「またまたぁ。ほんとはわかってるんでしょ」
「モテる男の遺伝子をもらう」
「そう。でもね、モテる男って浮気するじゃない?」
「するー」
「子育てに積極的でもないよね」
「多分」
「捨てられるのを承知でモテそうな遺伝子をもらうのを短期配偶戦略、モテそうな遺伝子はもらえなくても家庭を大事にする男と一緒になろうとするのを長期配偶戦略と呼ぶの」
「へー」
「いちばんいいやりかたってどんなのだと思う?」
「モテる男とつき合うのと同時に家庭を大事にしそうな男とつき合って、モテる男の子ども作って、家庭を大事にしそうな男に養ってもらう!」
象さんは優しいまなざしをハムスターさんにそそぎました。
最近、先生が校長になるという噂が流れている。
手を伸ばしてもスルリと抜けていく先生に、少し寂しく思っていた。
廊下の角を曲がろうとすると声が聞こえた。
現校長の声だったので、隠れて会話を聞く。
先生と話をしていた。
“先生、校長になる気はありませんか?”
『今、答えを出さなければなりませんか?』
先生は質問を質問で返す。
“いやいや〜。今でなくていいんです。考えておいて下さい。”
『わかりました。考えておきます。』
会話が終わりそうだったので、私は静かに、でも急いで、踵(きびす)を返した。
私はお気に入りの窓に腰掛け、空を眺めていた。
『またここにいたのか?』
先生の声がするので振り返る。
「あ〜、先生。なんか久しぶり?」
『昨日会ったばかりだ。』
「そうだった、そうだった。」
『何かあったか?』
「別に何もないよ?」
『またここに来てるし、何もないと言ったときは大体何かある。』
「じゃあ、本当に何もないんだけど、1つ聞いていい?」
『あぁ。もちろん。何だ?』
「先生は校長になるの?」 『え?』
「先生、校長になるの?」 『何で?』
「噂がウジャウジャしてる。」
『私が校長になると君に何か不都合があるのか?』
「別にないよ?」
『じゃあ何でそんな事を聞くんだ?』
「先生が昇格すれば、おめでたいよ、そりゃあ。でも、今みたいに一緒にいれない。先生がどんどん遠くに行っちゃう気がする。ただそれだけ。」
『そうか。ただ、私は校長になるつもりは無い。』
「本当?」
『あぁ。本当だ。君もそう言ってくれているし、踏ん切りがついたよ。』
「何でならないの?校長。」
『私には似合わぬ職だろう?笑 それに、今のままで私は十分満足だからな。』
「ありがとう。」
『何でお礼を言うんだ?』
「今のままで良いって言ってくれたから?」
『何なんだ?それ(笑)』
私達は少しの間笑い合った。
先生が、これ以上スルリと抜けてしまわないように私はそっと“レプラコーン”にお願いをした。