ゆらゆらと流れゆく綿雲を眺め
「空が澄んでるね」ってささやいた
いつもの駅にいつもの通学路
冷たくなってきた風の向こうに
君の幻が見えた
君と歩いた僕の街
灰色の僕の世界に色が煌めいた
ねぇ、「また、あした」と言い合える世界線に
お引越ししようよ
ほとんど日も暮れて暗くなってきたが、森のどこを通ったかは覚えている。
このまま森の出口まで突っ切って行けば…とグレートヒェンが思った時、後方で何かが割れるような音がした。
「!」
まさか、と振り向くと、結界で足止めしたはずの精霊がすぐそこまで迫っている。
「さっき張ったのは簡単な術式だったけど…思ったより破られるのが早いわね」
仕方ない、とグレートヒェンは懐から黒い短剣を取り出す。
その時、グレートヒェンの視界に何かが映り込んだ。
ばさっと音を立てて現れた”それ”は、黒鉄色の大鎌を目の前の精霊に振りかざす。
突然の乱入者に驚いた精霊は、振り下ろされた刃が当たる寸前に姿を消した。
「…」
大鎌を携えた”それ”は、何もいなくなった雪原を見つめて立っていた。
「…お前」
グレートヒェンはぽつりと呟く。
「戻ったんじゃないのね」
”それ”ことナツィは無言で振り向き、こう答えた。
「別に…ただ、気になっただけ」
ふーん、とグレートヒェンは鼻で笑う。
君に傷つけられなくても
それでいいよ 会いに来てよ
君に気付かれなくても
それでいいよ 全て最高だと思う
1
今は昔竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて、竹をとりつゝ、萬の事につかひけり。名をば讃岐造麿となんいひける。その竹の中に、本光る竹ひとすぢありけり。怪しがりて寄りて見るに、筒の中ひかりたり。それを見れば、三寸ばかりなる人いと美しうて居たり。翁いふやう、「われ朝ごと夕ごとに見る、竹の中におはするにて知りぬ、子になり給ふべき人なンめり。」とて、手にうち入れて家にもてきぬ。妻の嫗にあづけて養はす。美しきこと限なし。いと幼ければ籠に入れて養ふ。竹取の翁この子を見つけて後に、竹をとるに、節をへだてゝよ毎に、金ある竹を見つくること重りぬ。かくて翁やう
〳
〵
豐になりゆく。この兒養ふほどに、すく
〳
〵
と大になりまさる。三月ばかりになる程に、よきほどなる人になりぬれば、髪上などさだして、髪上せさせ裳着もぎす。帳ちやうの内よりも出さず、いつきかしづき養ふほどに、この兒のかたち清けうらなること世になく、家の内は暗き處なく光滿ちたり。翁心地あしく苦しき時も、この子を見れば苦しき事も止みぬ。腹だたしきことも慰みけり。翁竹をとること久しくなりぬ。勢猛の者になりにけり。この子いと大になりぬれば、名をば三室戸齋部秋田を呼びてつけさす。秋田なよ竹のかぐや姫とつけつ。このほど三日うちあげ遊ぶ。萬の遊をぞしける。男女をとこをうなきらはず呼び集へて、いとかしこくあそぶ。
2
世界の男をのこ、貴なるも賤しきも、「いかでこのかぐや姫を得てしがな、見てしがな。」と、音に聞きめでて惑ふ。その傍あたりの垣にも家のとにも居をる人だに、容易たはやすく見るまじきものを、夜は安きいもねず、闇の夜に出でても穴を抉くじり、こゝかしこより覗き垣間見惑ひあへり。さる時よりなんよばひとはいひける。人の物ともせぬ處に惑ひありけども、何の効しるしあるべくも見えず。家の人どもに物をだに言はんとていひかくれども、ことゝもせず。傍を離れぬ公達、夜を明し日を暮す人多かり。愚なる人は、「益やうなき歩行ありきはよしなかりけり。」とて、來ずなりにけり。その中に猶いひけるは、色好といはるゝかぎり五人、思ひ止む時なく夜
逆にあの子を傷つけてしまうくらいなら、
受け止めに行かなくても、
許されますか
私も今は
いろいろとあるのです
許して。
いえ。
許すと言って。
私しかいないって、
それじゃああなた、
生きていけないわよ。
「正式な主従じゃないから必ず命令を聞くわけじゃないって最初に言ったんだけど」
ナツィは面倒臭そうに答える。
あっそ、とグレートヒェンは返した。
「…まぁ最初に言ってたものね、分かってたわ、分かってたわよ」
そして精霊に向き直った。
「それなら…好きになさい‼」
グレートヒェンはそう吐き捨てるや否や、懐から赤い石を幾つか取り出して地面に投げつけた。
石は雪原に着地すると共に白っぽい煙を上げ、見る見るうちに辺りを覆い隠してしまった。
「あまり時間がないから、これ位しかできないけど」
煙幕から離れ始めたグレートヒェンは、外套の内側から何かを取り出しつつ呟く。
「時間稼ぎ位なら‼」
グレートヒェンは手の中にある青い石を幾つか放り投げた。
術式が刻まれている青い魔石は光の糸で繋がり、さらに光の糸を広げていってあっという間に簡易的な防御結界を作り出す。
これで暫くの間はあの精霊の足止めはできるはず、とグレートヒェンは足跡を頼りに真冬の森を駆け出した。