「…何それ」
思わずわたしが尋ねると、師郎は手に持っている紙切れに目をやった。
「あーこれ?」
その手に持っている紙には、立派な字で”果たし状”と書いてある。
「果たし状って、まさか…」
嫌な予感がしてわたしが青ざめると、師郎はいや違うから!と立ち上がる。
「お前さんが思う程やばい奴じゃないから」
たまにあることだし、と師郎はわたしをなだめようとする。
「そんなに気にするこたないよ」
てか心配する人初めて見た、とネロは冷ややかな視線を送ってきた。
「いやだって…」
仕方ないじゃん、とわたしは弁明する。
何しろ師郎は見た目がちょっと怖いのだ。
言動などから悪い人ではないと分かっているのだが、こういうのを見てしまうと嫌な予感がしてしまうものだ。
だめだよ。って
なだめる手なんか
貴方じゃないみたいだ
そのやり口できっとあなた
消えないか心配だって
前を向かせるんだ
まだ納得できないのね
そんな人がいるなら
私が惚れちゃいそうだから
ねえ
自分のこともっとすきになりたい
寿々谷市の中心部、寿々谷駅の前にある商店街の裏には駄菓子屋がある。
その名も”ホオジロ商店”。
いつからかはよく知らないけど、この店はかなり昔から存在しているそうだ。
この店の前には多くのコドモ達が集まる。
そのため、ここに行けばそれなりの確率で知っている人に会える、とよく言われている。
まぁ、今のわたしは誰かに会おうという気はないのだけど。
それでも出会ってしまうときは出会ってしまうもので。
「あ、ネロ」
「またアンタか」
駄菓子屋”ホオジロ商店”の前で、わたしはいつもの”彼ら”とばったり会ってしまった。
「何してるの?」
「いや何って…」
駄菓子屋の軒先に座り込むネロは面倒臭そうに答える。
「見りゃ分かるだろ」
適当に答えられてしまって、わたしは苦笑いするしかなかった。
とにかく、駄菓子屋の前で駄弁っているのは分かるんだけど…
…と、わたしはあるものに目が留まった。
「2年になって最初の課題は石膏デッサンだっけな」
ふと、美術科に通うきみは言う。
「実は高校入ってから石膏デッサンは1回しかやってないんだよね」
「ふーん」
普通科の学校に通っていたぼくはうなずくことしかできない。
あの子はよく学校での出来事を語ってくれるのだが、いかんせんぼくは一般的な学校(と言っても大分環境が特殊だったが)に通っていたため、理解しきれないことも多い。
ついでに他人の課題のことなんていちいち覚えていられない。
「最初の方に石膏を描いたくらいだよ…何て名前だっけ」
あの石膏像、ときみは呟く。
「何だったかな」
前に調べた気がする、とぼくはスマホでWikipediaを開いた。
「写真、撮ったはずなんだよな」
そう言いながらきみはスマホのカメラロールを漁る。
「確かポセイドンの身内だった気がする」
ぼくはWikipediaの「ポセイドン」のページからその妻「アンフィトリテ」のページに飛んだが、石膏像についての情報は得られなかった。
面倒だな、と思いつつぼくはGoogleを開いた時、きみは急に言った。
「そうだ、”ラボルト“だ」
そう言いつつきみはぼくに石膏像の写真を見せる。
あーこんなだったね、とぼくは答える。
「コイツポセイドンの嫁なんだよ」
「へー」
そう呟きながらきみはこの部屋を後にしようとする。
「コイツ鼻が嘘くさいんだよね」
発見当時欠けてたのを直したらしい、ときみは付け足す。
「だから整形したみたいな鼻なんだよ」
「ふふふ」
ぼくは笑いながらきみの後を追う。
「元々はパルテノン神殿の破風の一部だったんだって」
「破風?」
何それ、と君は聞く。
「破風…って何だったけな」
よくよく考えたらよく分からない、とぼくは呟いた。
「でもパルテノン神殿か」
行ってみたいな、パルテノン神殿、ときみは呟く。
「いいね」
ぼくはそう笑って答えた。
久しぶりに観た作品
「前はあのシーンですごい感動したな」とか
思いだしながら観ていた
こんな感覚はいつぶりだろうか?
心の中に新鮮な風が吹いた
とても心地よかった
「さみしい」なんて口にしたら
「かなしい」自分が覗くから
「楽しい」空気を振りまいて
「明るい」自分を見せてゆく
人は道を歩くだけでは何も手に入れられなくて、弱いままだろう。人は茨の道を切り拓くことではじめて人は強くなれるだろう。