戻れない日常がいい
崩して進むまでの価値観はない
安全圏で自分を愛して生きていたいのに
生きるとはそういうことじゃない
抱きしめて締め付けるような愛し方で
千切れる前に崩すことだ
今日も独り動悸を撫で付ける
「それにしても稲荷」
師郎が不意に話し出したので、皆の視線が師郎の方に向いた。
「いつまでそこに立っているんだ?」
そろそろこっちに来れば良いのにと師郎は地面を指さす。
「あ…そうね」
そう言いながら稲荷さんは土手からこちらへ降りていった。
「それにしても、彼女が異能力を知ってしまった一般人ね…」
稲荷さんはそう言いながらわたしの顔を覗き込む。
「想像よりも平々凡々ね」
うぐっ、とわたしはうろたえた。
まぁ、そうかもしれないけれど…
「そ、そう言えば、稲荷さんの異能力ってどんなのなんですか?」
師郎の異能力に似てるとは聞いてたけど…とわたしは続けた。
稲荷さんはそうねぇ、と答える。
「私の異能力は…”一定範囲内の人間に見える自らの姿を別のモノにする”能力、と言えば良いかしら」
簡単に言えば、誰かに化ける能力ね、と稲荷さんは微笑んだ。
届いたかな
見てくれたかな
ほんとちょっと時間でもいいから
私の事を考えてもらえたらいいのに
なんて。
スクロールしないで!
ちょっでいいから…
読んでほしいよ
私のレスポンス
仮面を被った少女
絶望の雨が降り続ける散々な日々
変わらない毎日
そんな中で思うこと
「あたしって何だっけ」
あなたがいなくなった夜は、さらさらと雪が落ちていた。
それは徐々に増えていき、私の前に幕を下ろした。
しばらくして、雪がふわりと舞うようになった。
あなたはもう、そこにはいなかった。
溜息をひとつ、雪が飛ぶ。
冷たい空気を思いきり吸って、吐いた。
雪は私の温度で溶けただろうか。
暗闇の中。
針の音があなたを急かす。
「はやく未来(あした)に進みなさい」と。
あなたはそれどころではなかった。
決して掴めない何かに囲まれ、抜け出せずにいた。
暗闇で見るには強すぎる光源に、救いを探す。
ふと悲しい歌声に出会う。
それは人ではなかった。
決して明るくもなかった。
しかしその歌声は、あなたの後ろに腰掛けた。
背中に感じる、あたたかさ。
とん、とん、
と、雫は溢れ出す。
とん、ととん、
とん、とととん、
それは暗闇の底の音だったが、
同時にあなたの足音だった。
人ではないあの子の歌声が、
あなたに少しだけ、歩く力を与えた。
もう大丈夫なんて言わない。
またおいで。
あの子はいつでも何度でも、
寸分違わぬ歌声で、あなたにぬくもりを与えてくれるのだから。