「人間失格」
そう言われたなら
いっそ異形の者になってしまえ
“人間”の型にあてはまらず
自由に生きていこうじゃないか
「私に構わないで」
言いたくて仕方なかった
「近づかないで」
抱きしめられる度に思った
「知ろうとしないで」
訊かれる毎に願った
構ってほしかった
近づきたかった
知りたかった
全部 全部 ほんとだけど
今は違う
怖くて どうしようもなくて
君の昨日の言葉を反芻して
また一人で夜に溺れてく
『中身のない人は苦手
自分を持ってる人は素敵だと思う』
私はどうなんだろう
君の想うような人なんだろうか
構われる程
抱きしめられる度
訊かれる毎
「私はそんなんじゃない」って
現実を知って
いまを突きつけられて
つらくなって
でも君を嫌いにはなれなくて
まだ迷子です
私を早く見つけて、お願い、私
「…」
その後も何度も歩いては振り向き、歩いては振り向き…を繰り返していたが、別に何も起きなかった。
「…」
ずっと何かの気配がついて来るのは、不気味で仕方ない。
わたしは嫌になって思わず走り出した。
すると気配もわたしに合わせてついて来る。
「何なのよ…」
そう呟いた時、背後で誰かが芝生に倒れ込むような音がした。
わたしは思わず振り向く。
「!」
わたしの数メートル後方で、複雑に髪を結った少女が倒れていた。
「…え?」
意外な人物だったので、わたしは近付きながらついそんな声を上げてしまった。
少女はゆっくりと立ち上がる。
「バレてしまったわね」
少女はそう言ってスカートに付いた汚れを払った。
足が思うように動かない朝
知りたいけど知りたくないんだ
私の1年間がかかってるんだ
年に一度のクラス替え
あの子と同じクラスじゃなかったら
私はどうなってしまうのだろう
きっと生きていけないだろうな
ほんとに頼むよ
勉強、部活頑張るから
同じクラスにしてください
再生ボタンを押す
あの人の歌声がイヤホンから流れてくる
辛い思いも、悲しい気持ちも包みこんでくれる
音楽の力ってすごいなぁ
そう思いながら、歌声に聴き惚れる日々
春からの新生活
ご飯が美味しい素敵な下宿に入った
おばちゃんは優しくて面白いし
下宿のみんなもあったかい
なのに、それなのに
私はどうしても、馴染めない
何でだろうなぁ、もっとちゃんとできるって
楽しくなるぞって思ってたのに
頑張って 空回って 無理して
馬鹿みたいだ
一人って
こんなにつまんなかったっけ
こんなに苦しかったっけ
おかしいな なんでかな
まだまだこれからなのに
ちゃんとできるのかな
ちゃんと話せるのかな
不安で涙も出るけれど
深呼吸をひとつして、
一歩、進めるように、笑えるように
頑張らなきゃ
4月に入って以来
かつての仲間がバラバラに
それぞれのスタートを切っていく
前には誰かいて後ろにも誰かいる
だから人の波に呑まれながらもどこか安心してる
でも暦はお構い無しに正確な時を告げる
4月最初の月曜日
自分を取り囲む世界が一斉にスタートを切る
ここでの初めの1歩は差が残酷に露にされる
そこでは前と後ろに雲泥の差が生まれる
だから他人の波に呑まれながらどこか焦りを感じる
「…」
皆が散ってから暫く、わたしは公園の片隅でぼーっとしていた。
と言うのも、対決の見張り役とは言えやる事がないのだ。
あの2人は異能力で化けているし、ほかの3人もどっかに行ってしまったから、どこにいるか分からない。
正直、わたしには手元のスマホを見たり、ぼんやりする事ぐらいしかやる事がないのだ。
退屈だな…と手元のスマホを見ていると、ふと気配を感じた。
ちら、と周囲を見回すが、辺りにはいつもと変わらない公園の風景が広がるだけ。
特におかしい所は見当たらない。
何だろう、と思いながらわたしは歩き出した。
実際、この気配はさっきから何度も経験しているから、少し慣れつつあるのだけど。
それでもこの気配は少し気になった。
「…」
ぱっ、と急に振り返ってみる。
しかし、背後には何の変哲もない公園の風景があるだけ。
特に誰かがつけて来ているという訳でもないみたいだ。