「嫌なものは嫌なの、分かる?」
そう言ってミカエルはアモンに近づく。
「んなこた知らねぇよ」
とりあえず今すぐ失せろとアモンは言い放った。
「…嫌よ」
そう言ってミカエルはどこからともなく大剣を出した。
「わたしの邪魔をするのなら、誰であっても…」
ミカエルはそう言いながら大剣を高く持ち上げる。
「あ、待って…」
サタンが言いかけたが、ミカエルは気にせずアモンに剣を振りかざそうとした。
「…コラー!!」
不意に上から怒鳴り声が飛んできた。
皆がぱっと上を見ると、明るい茶髪の天使が飛んでいた。
「なーにやってるのよみーちゃん!」
仕事の途中でしょうが!と茶髪の天使は地面に着地する。
「あらラフィ」
来たのねとミカエルは微笑んだ。
「来たのねじゃない!」
どこをほっつき歩いてるのかと思えば…とラフィと呼ばれた天使は呆れた顔をした。
「とりあえず、帰るわよ!」
仕事が溜まってるんだから、とラフィはミカエルの腕を掴む。
「…」
ラフィは黙って目の前の堕天使に目を向けた。
「よーラファエル、久しぶり」
サタンはそう言って笑いかける。
「…そうね、貴方の処刑以来」
ラフィことラファエルは無表情で返した。
ミカエルはもう1度ルシファーに向き直る。
「うふふ、もう2度と私は貴方を離さない…」
「待って待ってみーちゃん落ち着いて」
わたしはもう…と言いながらルシファーは後ずさる。
「もう天上には戻れない、だから…」
そう言いかけた所で、ルシファーはぷつんと糸が切れたようにうなだれた。
周囲は一体どうしたと途方に暮れるが、不意にルシファーは顔を上げた。
「…やぁ」
久しぶりだねみーちゃん、とルシファーはゆっくりと立ち上がる。
その右目だけ赤く輝いている。
「貴方は…」
ミカエルはぱっと頬を赤らめる。
「そう”ぼく”だよ」
いつぶりかな?と言いつつ、その人物はミカエルを抱きしめた。
「サタン…」
ミカエルは嬉しそうな顔をする。
「どうしてぼくを迎えに来ようとしたのさ」
サタンが尋ねるとミカエルはだって、と呟く。
「だって貴方がいないと寂しくて寂しくて…」
すべてが色を失ったよう、とミカエルはサタンの頭を撫でた。
サタンはうんうん、とミカエルを慰める。
「…でもさ、好きでいてくれるのは良いんだけどね、ぼくを取り戻すなんてよすべきだと思うんだ」
「どうして?」
ミカエルは思わず聞き返す。
「だってぼく”達”は天界から追放された身、ついでに羽根も切り落とされて昔のようには飛べない」
サタンのその言葉に、それでも、とミカエルは返す。
「いやいや、君がどうやっても無理」
下手すれば君も追放されちゃうよ~とサタンは笑う。
「…」
その言葉にミカエルは何も言えなくなってしまった。
「まぁまぁ、ぼくのことはいいからさ、そろそろ帰りなよ」
他の天使が君のことを探してるかもよ、とサタンは促す。
「…でも」
「でもじゃない」
ミカエルがそう言いかけた所で、背後からアモンが剣を向ける。
「ソイツが言ってるんだ、そろそろ上へ帰れ」
じゃないとこっちも困る、とアモンは言う。
「ていうかさっさとソイツから…」
「…うるさいわね」
アモンの言葉を遮るように、ミカエルは振り向いた。
「まさかそっちから呼んでくれるなんて、よっぽど私のことが好きなのね」
「まぁ、俺たちは体と中身を入れ替えた間柄だからね」
“俺”は今大事なことをさも何事もないようにサラッと言った。それ故にその事に気づくのに時間を要した。
「入れ替えた!?」
「あれ?まだ気づいてなかった?」
驚いた顔を面白がっているようだった。
「ほんとだ、振り回されてる私の顔、最高に面白い」
俺が『入れ替わり』に混乱していることがそんなに面白いか、しかも自分の顔で言われると何もかも見透かされているようで…経験のない苛立ちを覚えていた。
「なんてね、どう?イラッと来たでしょ、私の体で味わう苦しみ、私の視点で見るいつもの景色は」
煽っていた目は急に共感を求めるような目に変わった。
「イラッと来るも何も、色々パニック過ぎて頭が追いつかねーから、だから教えろ、一体何がどうなってんだ」
半分は“俺”にのせられないための演技だが、もう半分は本音から出た言葉だ。もう何が何だかわからない。
「教えるも何もこれが現実ってだけなんだけどなぁ、要はあなたが罰告することを知って、あなたと入れ替わることを決めた。それだけ」
「それだけって!」
俺はピシャリと閉じられた真実への扉を強くノックするように“俺”に怒鳴りつけた。
「要は元に戻る方法が知りたいんでしょ?それなら生憎だけど今すぐは無理、私がしたくないっていうのもそうだけど物理的に無理」
聞きたかったことではあったが内容は聞きたかったようなものではなかった。もっとなにか条件とかを提示してくるとばかり踏んでいた。
「…わかったよ…けどせめて次のチャンスには変われよ」
苦し紛れだったが必要なことだ。
「なら私の復讐に協力してね、次のチャンスが早く来るように」
いよいよ“俺”が何を言っているのかわからなくなってきた。次のチャンスが早く…?
「どういうことだ?」
「興味を持ってくれたみたいだね」
「いや、興味も何も必要らしいからな」
「あなたに、いえ、“あなたの体”に私の復讐を代行させてあげる。」
to be continued…
私たちは似た者同士
髪型 顔立ち 好き嫌い 趣味 服装 性格
何から何までそっくりなの
一つちがうとこがあるとすれば
どちらかは本物 どちらかはドッペルゲンガーってとこかしら?
何でそんなに不安そうな顔をするの?
大丈夫 私たちは仲良しだから
「ねぇ知ってる?
この木の下で成立したカップルは、
将来結婚できるんだってさー」
そう言って彼女はアイスをかじり、「つめたっ」と目を細めた。
『何を馬鹿馬鹿しいことを…』
と言いながら僕もアイスをほおばった。冷たい。
「え、でも悠、好きな子いるんでしょ?」
ふふん、知ってるぞ、とでも言わんばかりに片手で髪をかき上げる。さらりとした黒髪から甘い香りがして、つい目を逸らしてしまった。
『いや、興味ないって』
声が震えた。気付かれないといいな、と願うばかりだった。そして幸運なことに、彼女は僕の震えた声に気付いていないようで、「いやあ今日は暑いねー」と呑気に呟いている。
『梨花は信じてるわけ?
てかその話、なんで僕に』
「まぁまぁいいじゃんかー」
アイス食べ終わっちゃった…と悲しそうに棒を眺める。『僕のあげようか』と言う言葉が喉まで出かかって、理性で抑え、なんとか平静を装う。
「応援してるんよ?これでも」
『何を?』
「いやだから、悠の恋だよー
ずっと無愛想でそーゆーの興味ないとか
言ってたのにさー」
『あぁ…』
「応援してるから、教えたの」
『そうか…ありがとう』
「言うこと聞いたげるから何でも言いなよー
もちろん今だけだけどね笑」
彼女が帰り支度を始める。肌がジリジリと焼けてくる。心の中で葛藤する。どうしよう、と思う。
『さっき言ってた結婚できるってやつ、本当なん』
「えーどしたの?そー言われてるってだけやけど
みんながそうなったら素敵だよね」
彼女はうっとりした目で遠くを見つめる。
「少なくとも私は、それを実現したいんだ
これ内緒にしといてね」
そういってふふふ、と笑った。
『どういうこと…?』
「私昨日ね、好きな人にここで告白されたの」
頭を鈍器で殴られたかのような、ずしんとした痛みに襲われた。もちろん心理的な痛みなのだが。
「だから結婚できたらいいなぁ、なんてね」
高校生が何言ってんのって話だけどさー、と彼女ははにかむが、僕には表情筋を動かす余裕さえなかった。
幸せが、終わった。
流星 すぐに流れて消えてしまう
儚く 美しく 残酷だ
流星に恋をした少女はとっくの昔にいなくなった
キミとボク。
キミはボクの生きがい。
キミはボクの憧れ。
ボクとキミ。
ボクはキミに一生届かない。
ボクはキミを応援する。
キ ミ と ボ ク 。
キ ミ は ボ ク の 生 き が い 。
キ ミ は ボ ク の 憧 れ 。
ボ 同 ク 担 と 拒 キ 否 ミ 。
ボ 東 ク 京 は だ キ け ミ い に っ 一 つ 生 も 届 ず か る な い い 。
ボ グ ク ッ は ズ キ 買 ミ う を よ 応 ね 援 … す ? る 。
あなたのボクとキミの間は、
何が見えますか。
君のこと毎日毎日探してたあの日々をふと思い出して。こうやって君が「思い出」になってしまうんだね。そう呟いたら心がズキっとした。どうやらまだ僕は君を「思い出」にできないらしい。もうすぐ君がいなくなってから初めての夏が来る。あの日が繰り返される。
だいすき、なんだよ。いまも。
さっき声がした方へアモンが走ると、そこには2つの人影があった。
1つは眼鏡をかけたルシファー。
もう1つは見慣れないブロンドの髪の人…
いや、その背中には白い羽が生えている。
「うっ…」
アモンは思わず後ずさった。
長いブロンドの髪に立派な服装…何度か聞いたことがある。
ソイツの名前は…
「…みーちゃん」
その場に座り込んだルシファーは震える声で呟く。
みーちゃんと呼ばれた天使はうふふ、と笑った。
「久しぶりね、ルシファー」
そう言ってルシファーに近づこうとしたした。
すると上から誰かがサーベル片手に突っ込んできた。
「うちのぼすに手を出すなぁぁぁぁぁ‼」
すんでの所で”みーちゃん”は回避する。
飛び込んできたベリアルは”みーちゃん”の前に立ちはだかった。
「うちのぼすには指1本触れさせない!」
例え相手が天使長ミカエルであっても!とベリアルは相手を睨みつける。
「あら」
ベリアルじゃない、とミカエルは驚いたような顔をする。
「久しぶりね、どれくらいぶりかしら?」
勝手に堕天して以来ね、とミカエルは微笑む。
「…そんな事はどうでも良い」
とりあえずうちのぼすから離れて!とベリアルは怒鳴る。
「嫌よ、だって…」
ミカエルはニコリと笑う。
「ルシファーを取り返しに来たもの」
その言葉と同時に、ばっとベリアルの周囲に何人かの天使が飛びかかる。
とっさにベリアルは攻撃を避けようとするが、すぐに取り押さえられてしまった。
「ぼす!」
慌てて叫んだがもうすでに遅かった。
ミカエルはほんの一瞬の隙を突いてルシファーに飛びついた。
「ひっ」
ルシファーは後ずさるが、それも虚しくミカエルに抱きしめられてしまった。
「ああわたしの愛しのるし…」
言いかけた所で、ミカエルは背後に気配を感じた。
ぱっと後ろを見ると、剣を持った人影が飛びかかってきている。
「…」
ミカエルはどこからともなく大剣を出し、振り向きざまにそれを振るう。
キーンと剣同士がぶつかり合う高い音が響いた。
「まぁ、悪魔の癖に天使を気に入ってるなんて」
「とりあえずソイツから離れろ」
アモンは目の前の天使を睨みつける。
ミカエルはふふふふふ、と笑うと大剣でアモンを振り払った。
「ぐっ」
アモンは勢いのまま後ずさる。