表示件数
0

空の青さを知る君は明日海へ行く

M市基地男子寮のとある一室
隼斗は先程から隣でずっと机に顔を埋めたまま、1ミリも動かないルームメイトをあっけに取られながら見ていた。
事の顛末は簡単に言えばこうである。隼斗が部屋の自分のベットで寝ていると、ルームメイトである優樹が帰ってきたのだが…。どこかいつもと様子が違う。なぜなら、いつも誰よりも冷静沈着でほとんど無表情、無感情なあの優樹が若干頬を赤らめ、かつ微笑みながら、帰ってきたのである。それも、束の間、一瞬で無表情に戻り、そのまま机に突っ伏した。彼をこんなにも動揺させているものは一体なんなのか、隼人はただただ、気になるばかりだが、あいにく本人は微動だにせず、早30分が経った。個人の事情を探るのはあまりしたくはないが、長年、苦楽を共にしてきた仲間として、優樹をこんなにも動揺させているものが気になった隼斗は意を決して声をかけることにした。
「なぁ、優樹、あのさ、ちょっと、聞きたいことが…」
「隼斗〜!!助けてくれ〜!!」
「うん!?」
優樹に抱きつかれるままに、勢いで激しい音ともに隼斗は床にぶっ倒れたのであった。

0

空の青さを知る君は明日海へ行く

彼はサッと屈み舞の顔を心配そうに覗き込んだ。
「大丈夫ですか?何かあったのですか?」
舞はごまかしにならないと思いつつ下を向きながら横に首を振った。舞はさらに何か聞かれるのかと身構えたが、彼は意外にもあっさりと「そうですか。今日は熱中症注意警報が出ているようなので、お気をつけ下さい。」と言うなり、足早に去っていった。
淡々として、大人ぽいのに、どこか寂しそうな後ろ姿に舞はどこか胸が締め付けられる感覚と同時に心臓が高鳴る感覚がした。

0

ある人の帰路

踏切に足を止められていると、ふと、目の前の少女に惹き付けられた。手提げの通学バックをリュックのように背負い、ヘッドフォンをした、ストレートボブの女子高生である。ただそれだけなのに、なぜこんなにも惹き付けられるのか。踏切が上がり、少女は歩き出した。スマホを操作し、彼女のイメージに合った曲をかける。もう少し彼女を見ていたい。少し遠回りして帰ることにする。ヘッドフォンをしているからであろうか。いや、そうじゃない。彼女を構成する、すべてが惹き付けるのだ。少女が一瞬振り返り、顔が見えそうになる。いいや、君は、振り返らなくていいんだ。その後ろ姿から想像するのが楽しいのだから。今度は、にわかに少女が足を止める。バス停だった。完璧だ。ここに、1枚の絵画が誕生した。手提げの通学バックをリュックのように背負い、ヘッドフォンをした、ストレートボブの女子高生が、バス停でバスを待つ。なんと美しいんだ。感嘆のため息がもれる。しかし残念なことに、ここで彼女とはお別れだ。怪しまれぬよう彼女を横目に見ながら通り過ぎる。とてもいい時間を過ごさせてもらった。礼を言うよ。
いつの間にか、彼女をイメージしてかけた曲は終わっていた。