「黎が、黎がお前に会った時、寂しそうだったって言ってたんだよ」
だから会いに来たんだ、と耀平は語気を強める。
「…黎、言ったの?」
ネロは扉の隙間から、黎の方に目を向ける。
「…」
黎は静かにうなずいた。
「…」
ネロは言っちゃったのか、と言わんばかりにため息をついた。
「ネロ、お前どうしてこの1週間連絡に応じなかったんだ」
何か、先週の件と関係してるのか?と耀平が尋ねる。
「…それは」
「それは?」
ネロは気まずそうな顔をしたので、耀平はネロに顔を寄せる。
「…スマホ行方不明になった」
「は?」
思わず回答に、耀平はポカンとする。
「だからスマホが部屋の中でどっかいっちゃったの!」
そう言って、ネロは恥ずかしそうな顔をした。
「…何だよ、ソレ」
耀平は呆れるあまり後ずさる。
「へー、そんな話があるんだ」
とある喫茶店の2階にある物置で、赤髪の人物…露夏はそう呟く。
「そうなのよ」
古ぼけた椅子に座りながら、青髪の人物ことピスケスは笑う。
「あの学校にも七不思議があるのは知ってたけど、この手の話は聞いたことないわ」
ピスケスはそう言って、手元のティーカップに口を付ける。
「…で、その“見たことない生き物”って言うのは何なんだ」
ピスケスから見てテーブルの反対側に座る黒髪の人物…ナツィはそう尋ねる。
「あの小学校含めあの大学…“学会”の本拠地の周辺は精霊避けの結界が張られてるから、精霊じゃなさそうだけど」
ナツィはそう言いつつテーブルに頬杖をつく。
「あら、どうかしら?」
ピスケスは微笑む。
「この噂を聞いた私の“保護者”が調査したけど、どうやら“学会”の本拠地周辺の結界に破損箇所が見つかったみたいなの」
え、とナツィは呟く。
「だから噂になっている“見たことない生き物”はきっと精霊よ」
ピスケスがそう言うと、露夏がこう尋ねる。
「でもそうだとしたら、なんで目撃者の目に見えたんだ?」
普通精霊は一般人の目には見えないハズだぞと露夏は付け足す。
「それはきっと、その人が“精霊が見えてしまう体質”の人だからよ」
魔術師じゃなくてもそういう人っているから、とピスケスは言う。
とある学校に伝わる七不思議。
その学校の昇降口から最も遠いトイレの洗面所に設置された鏡を覗き込み、鏡に映った自分の眼をよく見ると、合わせ鏡の要領で自分の姿が瞳に更に映り込んでいるのが見える。
本来ならばその『眼球に移り込んだ自分の眼』はあまりに小さいため、普通の合わせ鏡のように更に奥の鏡面を覗くことはできない。しかしごく稀に、『自分の眼球に映った自分の眼球』を見ることができてしまうことがある。この合わせ鏡の奥を覗き込むことができてしまった場合、不可視の強い力で弾かれ、合わせ鏡に使った眼球は180°裏返り失明してしまうという。
あの日の夢の先に
ちゃんとさよならが待っていて
君を追い切れない私は
過ぎ去ったあの日をやっぱり思い出す
忘れないで欲しいし
何も変わらないで欲しいけど
離れ離れのその先に
また君と笑えるように
私は、また