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大人の階段

私の好みでは無い所をいつまでも受け入れられなくて
今日も恋と愛の狭間で泣いている

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鏡界輝譚スパークラー Crystal Brother and Sister Ⅱ

「うちのSTIも、戦闘経験を積むのに必死だな」
澁谷學苑の方が強くて負けが見えてるのに、と水晶の右隣に座るメガネの少年…熊橋 寵也(くまはし ちょうや)は言う。
「えーいいじゃん」
いい刺激になると思うのにーと弾は口を尖らせる。
「まぁそれはそうだけどさ」
寵也と弾がそう話していると、寵也の右隣に座るサイドテールの少女…呑海 巴(どんかい ともえ)は水晶の様子に気付いたのか、彼女に話しかける。
「加賀屋さん?」
どうかしたの?と聞かれて、水晶は慌てて顔を上げる。
「…なんでもない」
大丈夫、と水晶は言うが、他のみんなは心配そうな顔をする。
「…そう言えばみあきち、元々は澁谷學苑に通ってたんだよね」
ふと紀奈が呟いた。
「澁谷學苑の人が来るのは、ちょっとアレだよね…」
紀奈が暗い顔で呟くのを見て、水晶はそれもあるんだけど、と言う。
「代表部隊の隊長が兄さんだから…」
水晶がそう言った所で、突然サイレンが鳴った。
「管轄地域内でカゲの出現を確認」
出撃可能スパークラーは速やかに出撃せよ、場所は…と校内放送が流れる。
カフェテリアのくつろいだ雰囲気が、一気にピリつく。
「おっと、出撃か」
「騒がしいねぇ」
紀奈と弾は呑気に天井のスピーカーの方を見る。
「そんなこと言ってる場合か」
「そうよ、人が死ぬかもしれないのよ」
寵也と巴は険しい顔をする。
「はいはい分かってますよ」
んじゃ行こうか、部隊長、と紀奈は水晶の方を見る。
水晶は無言で頷き、そしてこう宣言した。
「加賀屋隊、出撃!」

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憧憬に泣く 1



 鏡都府某所、私立大学附属STI集会場にて、一年生の緊急集会が行われた。
 一通りの前置きの後、学年主任が言った言葉に集会場中がざわめいた。
 そのざわめきの中に、善はいた。彼には状況がよく飲み込めていなかった。体育座りをしたままただ口を半開きにして呆然としていた。目は虚空を見つめる。その後の学年主任の話も耳に入らない。
「……ぜん、おい善!」
 善の前に座っていたクラスメイトがずっと呼びかけていたらしい。半ば怒鳴ったクラスメイトの声にやっと気が付き身体をビクッと震わせ目線をゆっくり彼に向けた。善を見つめるその目は心配を言葉なくとも体現している。
 善はキョトンとした顔で、やっと口を開いた。
「……な、にが、どう……って?」
「和樹が……和樹がっ和樹が死んだんだよ!」
 尋ねられたクラスメイトは言うのを躊躇いつつ、涙をためながら至極はっきりと簡潔に告げた。
 和樹が死んだ。
「そんな訳……そんな、そんなっ……」
 裏返り嗚咽する声でそれだけ絞り出せた。
 善は状況を受け入れられなかった。そして間もなく彼は集会場を飛び出していった。

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野良輝士市街奪還戦 その②

「……まあ、真理ちゃんがそう言うなら、俺らからは何も言うこと無えよ」
「あ、宗司お前、『ら』って言ったな! 俺はまだ賛成してねえぞ!」
「じゃあ多数決で負けね」
初音も真理奈の意見に従うようで、灯もすぐ押し黙り、鉄線銃を強く握りしめた。
「……じゃあ行くぞ、宗司、かどみー。遅れんなよ、落ちて死ぬぜ」
「おう」
「了解」
3人は同時に駆け出し、屋上の落下防止柵に跳び乗り、勢いのまま空中に飛びだした。
「っしゃ行くぞコラァッ!」
灯が掛け声と同時に鉄線銃を発射し、約30m先のビルの屋上にフックを固定する。そのワイヤーを掴んで引き寄せると、勢いで灯とその肩に掴まったあとの二人の身体はそのビルに向けて飛んでいき、3人は地上を蠢くカゲと関わることなくその距離を無事に移動した。
「よっしゃ、もう1発頼むぜ」
宗司に言われ、灯はワイヤーを銃の中に巻き取りながら答えた。
「ああ分かってるよ。今ワイヤー回収してるから待ってろ」
「はいはい」
先にこの建物の屋上まで投げておいた戦槌型P.A.を拾い上げながら、宗司もそれに応じた。
「……あ、そういえば」
思い立ち、初音はポケットから携帯電話を取り出して通話アプリを起動した。
「もしもし真理奈?」
『はいはいこちら真理奈。そっち見えてるよー』
「そっち大丈夫?」
『そこから見える?』
初音が元来た建物の方を見ると、猟銃を杖に、右手でスコープを持ち、肩と耳で携帯電話を挟み、片脚で屋上への入り口の扉を押さえている真理奈の姿が小さく見えた。
「大丈夫じゃなさそうなんだけど⁉」
『まあそろそろ限界かなー。そういうわけで、1度切るからまたかけ直して?』
「え、あ、うん……」
「おいかどみー、次行くぞー!」
初音が灯の言葉に振り向くのとほぼ同時に、真理奈の側から通話が切られた。