精霊はこちらを睨みながら静かに唸っている。
「きーちゃん、とにかくその子を返してみたら?」
かすみにそう言われて、キヲンは腕の中の精霊に目を落とす。
「…」
キヲンは暫く小さな精霊を見つめていたが、やがて分かったと小さな精霊を地面に置いた。
「ばいばい」
小さな精霊はぽてぽてと親と思しき精霊に駆け寄って行く。
親と思しき精霊は唸るのをやめて、小さな精霊に擦り寄った。
「…親子だったみたいだね」
その様子を見て、かすみはポツリと呟く。
「なんだ、そういうことだったのか」
慌てて損した、とナツィはため息をつく。
「あら、お前あの2体が親子だってことに気付いてなかったの?」
ピスケスはナツィに嫌味っぽく言う。
「そう言うお前だって気付いてなかったじゃないか」
1世紀くらい生きてるクセに、とナツィは言い返す。
ピスケスはうふふと笑った。
「よかったね、親の元に帰れて」
キヲンは1人ポツリと呟いた。
「…じゃ、そろそろ戻ろっか」
精霊を元の場所に返したし、とかすみはキヲンに話しかける。
「うん!」
キヲンは大きく頷いた。
〈幺妖造物茶会 おわり〉
気がついたら今日が終わってた
気がついたら五月が終わってた
気がついたら六月が終わりそう
どうしようもないこと
あたりまえなこと
なんでもないこと
なのに
涙が出た
「あ、あと」
かすみは思い出したように続ける。
「そんなにずぶ濡れだと“あの人”が心配するよ」
「…なっ」
かすみにそう言われて、ナツィは思わず恥ずかしそうな顔をする。
「…ふふふ」
かすみはそう笑ったが、ナツィはそっぽを向いて顔を赤くしていた。
「あ、あんまりそう言うこと言われたくないんだけど」
特に“アイツ“のことは…とナツィは呟く。
「やっぱり好きなの?」
”あの人”のこと、とかすみは首を傾げる。
「好きって訳じゃないけど…」
大事って言うか、とナツィはしどろもどろになりながら言う。
「そっか」
かすみはそう言って笑みを浮かべる。
「…行こう、ナツィ」
いつまでも雨の中で突っ立ってる訳にはいかないし、とかすみはナツィの手を取る。
「…うん」
ナツィはそう頷いて、かすみがさす折り畳み傘の中に入っていった。
〈雨傘造物帰路 おわり〉