「でもその子すごいよねぇ。あの密度のカゲの中で無傷だなんて。むしろなんで気絶してたんだろ」
「いやあの気持ち悪いカゲ相手じゃ正気保ってるのもキツイっすよ……あ、彼女を助けてもらったのは、ありがとうございます」
「うん、後でワタシの親友にお礼言っときな」
「あ、はい」
2人の間に沈黙が流れて数分、げんなりした様子で吉代が部屋に入ってきた。
「おかえり」
「ん、死ぬかと思った」
「それだけは無いでしょ」
「意外とそうでも無いんだ」
吉代の手首のデバイスには『255』と表示されている。
「すごい、残り2割くらいじゃん。あ、紹介するね、君が助けてきた……あれ、名前聞いてないや。ごめん、2人何て名前だっけ。というかワタシらも名乗ってないよね」
「プロフあんたその状態であのノリで話そうとしてたのか……」
呆れて溜め息を吐きながらも、吉代は明晶の隣に立ち、少年と向かい合った。
「どうも親友。それじゃ、ワタシらから自己紹介させてもらおうか。ワタシは村崎明晶。この村唯一の『生き残り』にして、この解放戦線の技術担当だよ。“プロフェッサー・アメシスト”と呼んでくれたまえ。こっちは我が親友にして戦友にして、あと何か色々の三色吉代。君らの名前も聞かせておくれ」
一息に言い切り、明晶は催促するように指を動かしてみせた。
「えっと、僕は金沢剛将(カナザワ・ゴウショウ)、彼女は佐原花(サハラ・ハナ)。県立鉱府光明学園中等部普通科の、どっちも2年です。今日は6人部隊で来たんですけど、他のみんなは……」
「多分、もう駄目だろうねぇ。君たち2人が生きていただけで十分奇跡だもの」
「そうでしょうね……」
それから1週間後。
物置のコドモ達は花火がよく見える公園の近くを歩いていた。
「わーすっごく人がいる〜」
術式をいじることで角を隠し、白いカチューシャを身に付けたキヲンはそうはしゃぐ。
「お前はちびっ子か」
「ボクちびっ子だもーん」
ナツィにジト目を向けられたが、キヲンは気にせずナツィにくっつく。
「…」
ナツィは腕にしがみつくキヲンを無言で振り解いた。
「とにかく早く公園に行こうぜ」
そろそろ花火大会が始まっちゃうし、とここで露夏が言う。
「そうだね」
「そうね」
かすみとピスケスはそれぞれそう答えて歩き出す。
「…行くぞキヲン」
ナツィもそう言って歩き出そうと何気なく隣を見た。
しかし忽然とキヲンはいなくなっていた。
「…え」
ナツィは思わず呟く。
「アイツ…」
ナツィは辺りを見回したが、人混みでさっきまで一緒にいた仲間でさえどこにいるのか分からなくなっていた。
「仕方ねぇ」
探すか、とナツィはこぼしてその場から歩き出した。