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迷兎造物茶会 Act 5

「だぁれ?」
蛍がピスケスに目を向けると、夏緒はピスケスだよ!と言う。
「露夏ちゃんのお友達」
ピスケスって言うの!と夏緒が言うと、ピスケスは静かに微笑んだ。
「へー」
蛍はそう言って頷く。
「夏緒ちゃん」
するとここでさっきまで滑り台で遊んでいたキヲンが夏緒達の元へ近付いてくる。
「何してるの?」
キヲンがそう尋ねると、夏緒は楽しそうに笑う。
「お友達の蛍ちゃんにみんなのこと紹介してるの!」
夏緒がそう言うと、キヲンはへーと頷いた。
「ボクはキヲン」
みんなからきーちゃんって呼ばれてるんだ、とキヲンは屈みながら蛍に言う。
「よろしくね」
キヲンがそう笑いかけると、蛍もよろしく〜と返した。
「じゃああの2人は?」
キヲンの自己紹介が済んだ所で、蛍は何気なくベンチに座る2人組を指さす。
「あの2人?」
夏緒が聞き返すと蛍はうん、と返す。
少しの沈黙の後、夏緒は口を開いた。

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CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 1日目

時、15時25分。壁掛け時計に表示されていた。場所、知らない民家の一室。
目を覚ますと、見知らぬ部屋の風景が目に入った。身体中の切り傷や擦り傷の上には絆創膏やガーゼ、包帯で手当てが施されており、わたしは床に敷かれた布団の中に寝かされていた。
全身はまだ痛んだけれど、上体を起こして手足を軽く動かしてみる。幸いにも骨折したりはしていないようだった。ただ全身の筋肉をひどく傷めていて、大量に出血していただけだった。これなら動ける。自力でも帰ることができる。
掛け布団をどかし、立ち上がろうとする。脚には全然力が入らず、立ち上がるのには失敗したので、一応動かすことのできる両腕を使い、這うようにして部屋を出ると、板張りの廊下に出た。廊下の先には外に続いているであろう引き戸が見えたのでそこに向かう。
その途中で、右手にあった扉が静かに開いた。そちらに顔を向けると、老人が立っていた。よく見ると、あの小さな漁船に乗っていた老人では無いか。信じられないものを見るような目でこちらを見ている。会釈して出て行こうとすると、老人に抱え上げられた。抵抗する間もなく——隙があったとして何かできた訳も無いけれど、元の部屋に連れて行かれ、また寝かされる。
何故そんなことをするのか、老人に問うた。老人は、自分が拾った以上、治るまで放り出すわけにはいかないと言っていた。
『自分が拾った』? それは違うだろう。わたしが勝手にあの船に乗り込んだのだから。
彼は面倒な荷物でしかない、殆ど死にかけだったわたしをそのまま海に捨てても良かったのに。きっと彼は善人なのだろう。可能な限り早く、動ける程度に回復し、迷惑にならないように出て行くことに決め、わたしは睡眠による回復に努めることにした。

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廻るは因果、故に舞い散る桜の刃 九

「えーっと、秋山さん、だっけ?私、貴方とは面識な
「何⁈当主ともあろうお方がわたしの様な下賤の者に敬称を付けるなど...!何というお方だ...!」

と、言うが早いか涙ぐむ葉月。

「だから、私達、面識ないよね?何方様?」

葉月はハッとした様にひざまづく。

「これは失礼を...まだ本人様に名乗っていませんでした。わたくしとした事が...申し訳御座いません。わたくし、秋山葉月と申します。秋山家の跡継ぎであり、現当主である父 秋山白也から貴女様の従者役を仰せつかっております。先日、当主からの指示が出ました故、本日より、貴女様の従者となります。」

その場に居合わせた全員が唖然とする。
百合子もポカンと口を開けている。
完璧に意味が分からなかった。

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CHILDish Monstrum:CRALADOLE Act 5

「何かあったら隊長の自分が責任を取る」
だから行ってこい、とゲーリュオーンは呟く。
「…分かったわ」
デルピュネーはそう言ってビィと目を合わせると、バッと店外へ飛び出していった。
「…いいのか、そんなこと言って」
どうなっても知らんぞ、と羽岡はゲーリュオーンの方を見ずにこぼす。
「ああ」
自分は隊長だからな、とゲーリュオーンは店のガラス戸に映る自分を見つめた。

インバーダの急襲に、意外にもクララドル市中心部は落ち着いていた。
「シェルターはこちらでーす‼︎」
落ち着いて避難してくださーい!と警官が人々を誘導する中をイフリートは駆け抜けていった。
上空を見上げるとワイバーンが自らの特殊能力で空を飛んでいる。
「しっかしずりぃなぁワイバーン」
飛行能力とか羨ましいよとイフリートがこぼした所で、おっとと足を止める。
イフリートの目の前には成人程の大きさの昆虫のようなインバーダが4体向かって来ていた。
「お出迎えか」
イフリートはそう呟くと、右手で拳銃の形を作った。
そして向かって来るインバーダたちの内1体に向けて銃を撃つように手を動かすと、人差し指の先からまるで火炎放射器のように炎が吹き出た。

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視える世界を越えて エピソード5:犬神 その③

混み合う電車に揺られて約30分、8駅先で一度下り、更に乗り換えて40分ほど、ようやく目的駅に着いたようだ。
「随分な郊外まで来ましたね」
駅を出て周囲を見回すが、ほとんど山と畑しか見えない。
「まあ、周りに何もない場所じゃなきゃ迷惑がかかるからねェ」
「周りに迷惑がかかるようなことするんですか……」
「まーね」
更に1時間ほど徒歩で移動し、山中に分け入り、かなり足が痛くなってきたところで、ようやく種枚さんが足を止めた。
「到着ですか?」
「うん、結構昔の採石場跡地」
「はあ。入って大丈夫なんです?」
「さあ? 少なくとも立ち入り禁止の看板は見た事無いねェ」
話しながら奥へと踏み入り、少し開けた場所に出る。座り込んで地面をいじっていた小柄な人影がこちらに気付き、立ち上がってこちらに駆け寄ってきた。
「やっと来たなキノコちゃーん! 待ちくたびれたよ!」
人影、その少女は駆け寄る勢いのまま種枚さんに抱き着き、種枚さんは全く動じずに受け止めた。それより『キノコちゃん』か。あの名前を聞いてそれを連想するのは自分だけじゃなかったみたいで少し安心した。
「私も会いたかったぜィ犬神ちゃん」
2人して一頻り盛り上がった後、少女の方がこちらに顔を向けた。
「誰それ?」
「ああ、こいつは最近見つけた霊視の才の持ち主だよ」
「霊感は?」
「まだ無い。だから顔くらいは覚えておいてやってよ。ついでに気が向いたら助けてやって」
「りょーかい。じゃあ早速やろっか」
「はいよ」

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その④

突然、辺りにサイレンの爆音が鳴り響いた。
「な、何⁉」
「何だ、『外出許可』は初めてか?」
私に反してフェンリルとスレイプニルは落ち着いている。
「ガイシュツキョカ?」
「フェンリルが勝手に言ってるだけだから。……まあ、外に出られるって意味では間違ってないけど」
「そうなんです? で、何が起きてるんですか?」
答えてくれたのは、フェンリルの方だった。
「ああ、外にインバーダが湧いたんだ」
その答えは、別に驚くべきものでもなかった。
「けど、それなら外で動いてるモンストルムが何とかするんじゃ……?」
「それで何とかならないから俺らが呼ばれてんだろーが。だって考えてもみろ、俺らがここに閉じ込められてる理由は何だ?」
私の場合は、最初にインバーダと戦った時に周りにひどい被害を与えたからで……。
「……あ」
「ようやく気付いたか。そのくらい大規模な能力が無きゃ間に合わねえ程度に、状況は逼迫してンだ。もう1人仲間がいるから、ソイツも連れて行くぞ」
そう言って、フェンリルはどこかへ向けて歩き去った。スレイプニルに手招きされて、私も急いで立ち上がり、後について行った。

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はじめの一歩

あどけないまま
大人と定められ

幼さを隠しきれない
頬と口紅

跳ねた前髪
浮わついた表情

背中を押されて
足が前に出た