「…」
ピスケスやキヲン、夏緒、そして蛍はそのまま露夏に付いて行ったが、かすみだけはその場に残ってナツィに近付く。
「ナツィ」
行こうよ、とかすみはナツィに話しかける。
「…やだ」
「そんなこと言ったって最終的に自分のことが心配で付いて来るんでしょ」
かすみにそう言われて、ナツィはうっと焦る。
「…」
ナツィは恥ずかしそうにそっぽを向いたが、やがてかすみの方に目を向けた。
そしてすっくと立ち上がる。
「付いてく」
「ほんと?」
かすみがそう尋ねると、ナツィは静かに頷いた。
「じゃ、行こう」
かすみがそう言って手を出すと、ナツィは黙ってその手を取った。
胸の霧が晴れない
まだ覚めない夢の中の
地面に足がつかないような
そこに見えるのに届かないだけだと
ちっぽけな悩みだと笑うだろうか
まだ書けないこの思いを
綴る日は来るのかと悩む
受験がおわりましたので一時中断していた常勝のダイヤの不定期連載再開いたします!!少々お待ちを!
時、8時30分。場所、老人の家の客間。
今日の朝食は、粥と二枚貝の佃煮だった。動物性蛋白質は肉体修復に有用だから、しっかり食べる。内臓にはあまり損傷が無かったおかげで、食事はしっかりと摂れる。筋肉以外にダメージが無いのは幸運なことだった。
朝食を摂った後は、手足を動かし、回復の状態を確認する。まだ身体が重い感覚はあったが、確実に回復してきている。この調子で行けば、1週間より長く老人の世話になることは無いかもしれない。
再び睡眠をとり、目覚めたのは16時21分。上体を起こしてみる。身体を支えた両腕はまだかなり痛む。立ち上がろうと足を踏ん張ると、こちらもひどく痛んだ。まだ回復が十分じゃない。漂流していた時間からして、わたしの帰るべき場所まではかなりの距離があるだろう。それだけの距離を歩くためにも、十分に休息をとり、回復しなければならない。
幸いにも、民間人は大体ひとまとまりになってある建物の傍に固まっていた。そして、そのせいかインバーダ達は彼らに一斉に襲い掛かっていた。
「この距離だと、ちょっと間に合わなさそうだな……ちょっと失礼するよ、ベヒモス」
「え?」
突然、デーモンが私の腰の辺りを掴んできた。
「デ、デーモン⁉」
「飛ぶよ」
そう言って、デーモンが“怪物態”に変化した。山羊の脚と角、蝙蝠の翼、長い尾を持つ、大柄で不気味な人型の怪物が私を捕まえたまま飛び上がる。咄嗟に私も能力を発動して、体重をほぼ0にまで軽くした。
「わ、軽い。こりゃ良いや」
デーモンは殆ど瞬間移動みたいなスピードでインバーダの群れをかき分け、人型に戻りながら化け物たちの前に立ち塞がった。
「やあ君達、君達の願いを叶えてあげる。だから望みをお言い?」
デーモンは何故か、民間人たちに向かって何やら言い始めた。
「デーモン、何やってるの⁉ インバーダが……」
「悪いけど、必要なことなんだよね。ちょっと時間稼ぎ頼める?」
「ええ……ああもう!」
仕方ない。とにかく私だけでもインバーダと戦わなきゃ。まずは飛びかかってきたクマのような姿のインバーダの突進を受け止める。能力で全身の質量を何十倍にも上げることで防御には成功した。そして、無防備に晒された鼻っ面に、更に質量を増強させた拳を、思いっきり振り下ろし殴り潰した。地面に伏せた頭をそのまま踏み潰し、続いて飛びかかってきた食肉目型のインバーダもパンチで吹っ飛ばす。この攻撃で、小さなインバーダがいくらか巻き込まれて吹っ飛び、包囲網に小さな穴ができた。
「さーてどう奴を…っと?」
建物の屋上からワイバーンが地上を見下ろすと、2人のモンストルムが目に入った。
「イフリートにゲーリュオーン‼︎」
おーい!とワイバーンが大声を上げると、地上を走る2人は顔を上げた。
「お」
ワイバーン‼︎とイフリートは手を上げる。
「暴れ回ってるアイツー、あたいが倒しちゃってもいーいー?」
ワイバーンがインバーダを指差しながら尋ねると、イフリートはいーんじゃ…と答えかける。
しかし、いやまだだとゲーリュオーンがそれを遮る。
「本部からの指示が出てない」
「いやそんなのどうでもいいでしょ!」
イフリートはそう言い返す。
「指示ばっか待ってたら街への被害が広がるだけだ!」
お前だって分かってるだろ!とイフリートはゲーリュオーンに詰め寄る。
「…」
ゲーリュオーンはそっぽを向いた。
「という訳でワイバーン‼︎」
やっちゃえ‼︎とイフリートはワイバーンに向かってサムズアップをする。
その様子を見てワイバーンは了解‼︎とインバーダの方を見据えた。
そして雑居ビルの屋上から飛び降りた。
その瞬間ワイバーンの身体から光が放たれ、その影はみるみる内にインバーダと同じくらいの前足のない赤い飛竜の姿に変わった。
君の何気ない言葉が
僕を明日へ連れてきたこと
君は知らないんだろう
それでいいんだ