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迷兎造物茶会 Act 10

蛍の母親探しが始まって暫く。
かすみとナツィも合流して、みんなで公園の周りを探していた。
蛍自身が母親に繋がる手がかりを全く持っていないため、6人は手分けして探すこともできないし、一般人の前だから魔術を使うこともできない。
そのため皆で固まって探すしかなかった。
「…蛍、それっぽい人いた?」
「ううん」
露夏が尋ねると、蛍は横に首を振る。
「そっか…」
露夏は思わずそう呟いた。
「もうこの辺りはあらかた探してしまったものね」
これで見つからないとなると厄介だわ、とピスケスもこぼす。
「もっと捜索範囲を広げるか?」
「そうするしかないみたいね」
露夏とピスケスがそう話し合っていると、不意にナツィがなぁお前、と口を開いた。
「どうしてソイツにそんな入れ込むんだ」
別にお前に関係ないだろとナツィが呟く。
「そ、ソイツって」
露夏は一瞬顔をしかめるが、ナツィは別にいいだろと真顔で言い返した。

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CHILDish Monstrum:CRALADOLE Act 10

「*]‘;・’{‘;’}<}+[‼︎」
飛竜はそのままインバーダに飛びかかった。
「いっけー‼︎」
ワイバーン!とイフリートは拳を突き上げて飛び跳ねるが、ゲーリュオーンは呆れたようにワイバーンの様子を見ていた。
「ワイバーン…指示はまだなのに」
「えーいーじゃんそれくらいー」
今回の出撃自体命令が出る前だったし、これくらい許してくれるだろーとイフリートはゲーリュオーンの方を見る。
「確かに命令が出る前の出撃だったが、それはまだいいとして指示前の怪物態使用は…」
「なんだよおめー真面目だな」
イフリートは長剣を地面に突き立てながら言う。
「アレか、お前作戦失敗が怖いんだ…」
イフリートはそう言いかけて言葉を止める。
なぜならゲーリュオーンが黙って俯いていたからだ。
「お前」
イフリートが思わず呟くが、ゲーリュオーンは黙ったままだ。
「…」
2人の間に沈黙が流れる。
しかしその沈黙は近くの建物にインバーダがぶつかり建物が崩れたことで破られた。
「危ない‼︎」
高い声と共に2人の頭上にバリアが張られ、頭上から落ちてくる瓦礫は弾かれた。
「2人共!」
バリアを展開するデルピュネーと共にビーシーが2人の元へ駆けつける。

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑨

「デーモン、穴が開いた!」
「ちょっと狭いな。まあ良いや、みんなも助けてほしいって言ってたし……」
怪物態に変化していたデーモンが、長い尾で民間人を数人巻き取り、軽く勢いをつけて投げ飛ばした。
「デーモン⁉」
あんな速度で投げたら、絶対怪我する!
結局、心配は杞憂に終わった。いつの間にか包囲の外に待機していたデーモンが、またもや尻尾で民間人たちをキャッチして、安全に地面に下ろしたのだ。
「え……ええ⁉」
さっきまでデーモンがいたはずの場所を見て、思わず声をあげる。そこには相変わらず、怪物態のデーモンが立っていたのだ。
「え、デーモン⁉ 分身……?」
包囲の中と外のデーモンを交互に見ながら、疑問が自然と口から出る。
「いや? 僕は一人だけだけど。……それじゃ、僕は外に送った分の世話しなきゃだから、あとの人達は君が守るんだよ」
「え⁉ あ、了解⁉」
デーモンは言い残して、包囲の外に消えてしまった。またインバーダたちが襲い掛かってくる。私の能力でこれら全部を民間人を守りながら片付けるのは難しいと判断し、重くした拳を建物の壁に叩きつけて破壊した。
「皆さん、中へ!」
民間人たちは少しずつ、建物の中へ避難する。最後の1人が入っていったのを確認してから、壁の穴の前に仁王立ちになった。
「…………絶対に通さない。お前ら全部、叩き潰してやる!」

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言葉になったり声になったり

君との時間がぼくの
言葉になったり 声になったりしてるのさ

だから僕の言葉が いちばん愛おしい

君の言葉がぼくの
心臓さしたり 声 つまらせたりしてるのさ

だからぼくの体は とってももどかしい

ベイビー 明日はあえなくてかなしいよ
ベイビー 今夜すこし 月を見に出かけてみるよ

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CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 4日目

時、11時22分。場所、老人の家。
昨日の夕食から魚を食べさせてもらえていたこともあり、ダメージの回復は順調に進んでいた。少しなら立ち上がって歩けるようになったので、家の中を歩き回って運動能力の回復・維持も並行することにした。
廊下を往復していると、玄関の引き戸が勢い良く開いた。あの老人は扉に鍵をかけるということをしないのだ。
扉を開けたのは、40代後半程度と見られる中年の男性だった。この漁村の住人だろう。男性は慌てた様子で、海に妖怪が現れたと言った。彼の話す内容からして、おそらくインバーダが現れたのだろう。
しかし、彼は『インバーダ』ではなく『妖怪』と言った。つまり、この漁村はインバーダ、並びにモンストルムを知らないということ。モンストルムとインバーダ対策課の守護は、この漁村に届いていないということ。
老人は中年男性の言葉を聞いて、玄関に立てかけてあった鉈を手に家を出た。
たしかに彼は漁業従事者なだけあって、痩せこけているようで全身に無駄なく筋肉が付いており、実戦に出てもそれなりに良い動きができる事だろう。
しかし、相手はインバーダ。しかも、中年男性の話から推測するに、全長約十数mの中型。軍事訓練すら受けていない一般人に、どうこうできる相手では無い。
だから、老人に申し出た。わたしも連れて行ってくれと。当然、老人はそれを許さず、わたしには大人しく寝ていろと言いつけて出て行ってしまった。
そして当然、わたしもそれに従う訳は無い。彼らと20秒ほど時間を置いて家を抜け出し、海岸に向かう。
大蜈蚣のような外見のインバーダを、村中の漁師が手に手に武器代わりの農具を持ち、追い返そうとしていた。決して力のあるわけでは無い、それどころか非力とさえ言える人間が、決死の覚悟で勝ち目のない脅威に立ち向かっている。肉体が戦闘に堪えられなくとも、わたしの能力が彼らを救う以外の選択肢を取らせてくれなかった。