心地良い朝に目を覚ましたら 陽の光が僕を照らした
暖かい風が僕の頬を撫でて 小鳥の囀りが朝の訪れを知らせた
僕らは出会う 人生というオレンジ色の物語の中で
君と出会えた奇跡のページに栞挟んで大切にしたい
眠れない夜に泣いていたら 月の明かりが僕を照らした
冷たい風が僕の頬を刺して バイクの音が闇の中に消えていった
僕は独りだ 人生という無色透明の物語の中で
誰とも会わず話すこともなく白紙のページをゴミ箱に捨てた
わたし達が立っている場所のすぐ側の建物の屋上から、誰かがこちらを見ている。
その姿はお昼頃に出会ったあの穂積のようにも見えた。
「…どうしたんだ?」
わたしが上を見上げている事に気付いた師郎がそう尋ねる。
わたしはえっ、と驚いて彼の方を見る。
「あ、ちょっと見覚えのある人が近くの建物の上に…」
わたしがそう言いながらさっき見ていた場所へ目を戻したが、そこにはもう誰もいなかった。
「あれ?」
さっきまでいたのに…とわたしは呟く。
「誰もいなくね?」
「見間違いじゃねーの?」
師郎と耀平も上を見ながらそうこぼす。
「でも確かにいたんだよ」
お昼頃に出会ったあの子が…とわたしは言いかけたが、途中でうふふふふふという高笑いにかき消された。
「ようやく見つけたわ」
声がする方を見ると、ヴァンピレスが白い鞭を持って道の真ん中に立っている。
「さぁ、わらわの餌食になりなさい…!」
彼女がそう言った時、ンな事させるか‼とわたし達の後ろから聞きなじみのある声が聞こえた。
「ネクロ‼」
黒い鎌を持って肩で息をしているネクロマンサーに対し、耀平は声を上げる。
「早く逃げろ皆‼」
ここはボクが足止めする!とネクロマンサーはわたし達の前に躍り出た。
耀平は分かったとうなずくと、行くぞとわたし達に行って走り出した。
「け、結局何なのよアンタ...」
眉間に皺を寄せる百合子。
「はて?先刻名乗った筈だ。何度も言う暇は無い、人の話はよく聞けうす馬鹿者。」
葉月は冷笑をたたえながら捲し立てる。
「じゃあ私の話も聞いてくれない?」
「はい、何でしょうか?」
「まず、その態度辞めて。周りに迷惑だし。」
「しか
「いいから。」
食い気味に突っ込まれ、押し黙る葉月。
リボンの端がちぎれ始めている。
「あっ…う」
叶絵は唸った。初めての、唐突に始まった戦闘なので戸惑っているのは勿論、正直目の前のエベルソルが怖い。しかし、リボンがちぎれるまでそう時間はない。
「蛾…蛾って、なにが苦手なの…」
そうだ…鳥、鳥なら!土壇場で思いついた。さっき少女を描いたとき、自分が描いた範囲しか反映されないことは学んでいる。ガラスペンを握り直した叶絵が鷲を描き始めたところで、エベルソルがリボンをちぎった。叶絵へ一直線に突進してくる。
「っ…!」
叶絵は半泣きになりながら急いで鷲を描いた。雑にならないように、急いでるからこそ丁寧に。
「おお」
薄紫色の少女が感嘆の声を漏らした。描き上げられた真っ黒な鷲は、突っ込んできたエベルソルを自分から捕まえに行き、爪で翅を押さえこむ。
「あ…あれ、鷲って…蛾食べるのかな…」
叶絵の呟きに、鷲が反応する。暴れるエベルソルを踏み潰して押さえながら叶絵を見つめた。
「あ…え、あの…食べてくれると嬉しいなー…」
戸惑いながら叶絵がそう言うと、鷲はエベルソルを頭と思われる場所から咥え__そのままごくりと飲み込んでしまった。
種枚・鎌鼬の二人は、この後も夜の町を高速で駆け抜けながら、目についた怪異たちを片端から狩り倒して回っていた。
種枚の駆ける速度は、人間はおろかあらゆる生物が発揮し得る移動速度を凌駕するほどのものであり、尚も加速を続ける彼女に、鎌鼬は異能を発動し続けてようやく食らいついているという有様だった。
「ちょ、ちょっと! マジで待ってください!」
道端に立っていた不気味な女の幽霊を真っ二つにした種枚に、鎌鼬はようやく声をかけた。
「ァン? どうした息子よ、もうバテたのかイ?」
「いや、当然でしょ……! 俺、〈鎌鼬第一陣〉発動中は全力疾走してるようなものなんスよ? むしろよく30分も保ってますよ……!」
〈鎌鼬第一陣〉とは、鎌鼬少年が種枚の手によって間接的に怪異を摂取したことで得た人外の異能である。
そもそも「鎌鼬」とは本来、3体1組で行動する怪異存在である。風のように駆ける3体の妖獣の第1体が対象を突き飛ばし、第2体が対象を切り裂き、第3体が薬を塗って止血することで、出血を伴わない切り傷を与えるというものなのだ。
鎌鼬の異能はこの第1体の力に由来し、風と化して空間内を自由に、高速で移動し、また接触した人間や動物、怪異などに接触を感じさせること無く転倒させるというものである。
この異能は体力を発動の代償としており、その消耗速度は、同じ距離を全力疾走しているのに等しい。
時おり立ち止まりながらとはいえ、異能の連続使用により、かなりの勢いで体力を消耗し続けていた鎌鼬が音を上げるのは、致し方ないことと言えた。