『あなたに愛してもらうために、
かたちを少し似せたのです』
わけわからないこと言うきみの 両翼の 白さの
「きみが『かわいい』と言うなら、
この背中もかわいいの?」
もちろん、だなんて 微笑まないで。
『翼があったら、あなたの震える肩を支えることなんてできないでしょう?』
『ほら、こんなふうに』じゃないの!
泣かないで とか言いなよ、強くなれ とか言えばいいのに
「なんなのさ、」
でも、わたしのこの耳が
きみのやさしい言葉を聞くために大きくなっているのなら
その神様ってやつと きみを 今は信じてみてもいいかもしれない
「あの子、思ったよりタフだよ。…………いやしかし、下手とは言ったが案外悪くないぜ、あの子のやり方」
「え」
「あの滅茶苦茶な振り回し方、ロクに刃を入れられてないモンだから全然斬れてないが……」
「刀使ってるのに斬れないんじゃ意味無いんじゃ?」
「お前想像してみろ。たしか真剣の重さは1㎏くらいって聞いたことがあるが、それだけの重量がある金属の塊を叩きつけられるのを」
鎌鼬は顎に手を当てて少し考え、得心したように手を打った。
「当たっても硬度で弾かれる可能性のある斬撃と違って、打撃は当たりさえすれば絶対に、中身を揺さぶって影響を残すんだ。最低限得物を振り回せるだけのパワー、最大威力の先端をぶつけられるだけのテクニック、相手に捉えさせないだけのスピード、相手が死ぬまで戦い続けられるだけのスタミナ。全部あれば『無い』戦法じゃあないのよ」
種枚の言葉を聞きながら、鎌鼬は少女の方を見下ろす。少女は両膝をつき、肩で息をしていた。
「……全部あります?」
「……少なくともスタミナには不安があるかな」
種枚がのろのろと立ち上がる。
「おい馬鹿息子」
「……何すか」
「ちょいと転ばしてやって来な」
「師匠はどうするんです?」
「何、殺しゃあしないよ。あの子の獲物だ」
鎌鼬に目を向ける事も無く指示を出し、種枚は屋根から飛び降りた。
(さッ……すがに、難しいよなァ…………アイツのやり方ってのは)
援護射撃を送りながら、タマモは相棒たるロキのことを思い出していた。
(アイツの才能『展開の演出』。たしか『より面白い物語を演出するために、持ってるもの全部使って場の全体を都合良く操る』みたいに言ってたか。……面白い展開って何だ?)
弾幕が腕を更に1本吹き飛ばす。
「やッべ、テンポ狂うじゃん」
呟き、弾速を僅かに下げる。
「向かって左、1本減ったぞ!」
「ん、了解です!」
短く答え、敵の攻撃をいなしながら、隙を見て理宇は横から来る拳を両手で受け止めた。その腕に組み付くと、エベルソルは振り解かんとその腕を大きく振り上げ振り回す。放り出されまいと歯を強く食い縛りながらも、理宇の口角は、にっ、と吊り上がっていた。
(私がトドメをお願いしたのに……当然だ。私が前にいれば、タマモ先輩は誤射の危険から敵の芯は狙えない。だけど今なら!)
理宇の取り付いている腕を振り下ろそうとしたエベルソルの身体が大きく傾ぐ。理宇は素早く離脱し、タマモの目の前に回転しながら着地した。
「見事な着地、10点満点」
「ありがとうございます……っと」
2人に向けて伸びてきたエベルソルの腕を、理宇は片手で受け流した。続いて伸びてくる腕の攻撃を、次々捌いて行く。
「うッわァ……これ、近くで守られてると圧がすげェな」
苦笑しながらガラスペンを取り出し、巨大なインキの塊を空中に生成する。
「せっかく後輩がカッコイイところ見せてくれたわけだし、こっちも1発大技決めてやらねーとなァ……」
10秒以上インキを垂れ流し続けて完成させた巨大な砲弾で、エベルソルに対して照準を定める。
「おいリウ! 隙見て躱せ!」
「え、無理です!」
「……分かった。隙はこっちで用意する」
守りたいと思った経緯
ただ単に人間が可愛くて仕方ないから
人間だけではない
植物や木々、動物、生き物全てを守りたい
「ここ、は……」
今目覚めた方の男性は、周りを見渡し、室内にいる唯一自由な存在にすぐ目を付け、食ってかかった。
「おい貴様! 誰に向かってこんなことをしている! さっさと解放しろ! 無礼な片羽根の罪人が、殺してくれる!」
「おーこっわ。こんな風に言われて解放するひと居るわけ無いじゃないですかぁ、ねー?」
「ネー」
長髪の青年は、先に起きていた男性と意気投合したように同意し合った。
「貴様、舐め腐りやがって……!」
パチパチと奇妙な音が鳴る。さっき起きた方の男性を見ると、彼の身体の周囲を青白い電流が走っていた。そういえばこの人、背中に白くて長い鳥の翼が1対揃って生えている。まるで……。
「『天使』に楯突くことの意味、とくと知れ!」
彼が叫ぶと同時に、電流が長髪の青年に向けて飛んで行った。青年は冷静に長剣で電流を弾き、流れ弾が私の足下にぶつかり焦げ跡を残す。
「あー、いけないんだー。地上に平和をもたらす天使さまが人間殺しかけたー」
「ウッワドン引くわー。地上の先住民たる俺ら『悪魔』を虐めるのはまァ良いとしても? だって迷惑するのは俺らだけだし? けどこんな無力でか弱い生き物イジめるのはさすがに最低だろー」
2人が揶揄うように言う。天使氏は悔しそうに歯ぎしりしながらも大人しくなった。
みんな隠しているのでしょ
自分の大切な部分を隠すことで自分を守って
他人の目から隠れて
そんな人が溢れてるこの世界で
自分の想いを表現してる貴方に惹かれて
真っ白な世界を創り上げた貴方に逢いたくて
いつか生で貴方を感じることは出来るのかな
(角度ヨシ! 振り抜け!)
「はい!」
勢い良く泥の刀剣を振ると、それに従って刀身が勢い良く伸長し、地上の一点、雑木の下を貫いた。
「手応えあり、刺さりました」
(よっしゃ、引けィ!)
「はい!」
刀剣をぐい、と引っ張ると、鉤状に変化した刃が縮みながら、突き刺さった対象を引っ張り上げた。
「…………妖獣? ですかね」
(トゲトゲした鼠……にしちゃあデケエな)
油色の毛皮に身を包み、背中にはさっきまで飛ばしてきていたためか、少し禿げてはいるけれど棘状の体毛が並んでいる、大きめのネズミみたいな生き物が、泥刀の鉤に引っかかっていた。
(体毛を飛ばしていたわけか。にしたってあの速度はブッ飛んでるよなァ)
「気を付けましょう。また撃ってくるかも」
(いやァー……させねーよィ)
泥刀を神様の泥の余剰が伝い、瞬く間に妖獣を覆い尽くしてしまった。
(毛針も抑えた。コレで捕獲完了ってェわけよ)
「……流石神様」
(もっと褒めてくれても良いぜィ? お前は唯一の我が信徒だ。信仰と尊敬はいくらあってもあり過ぎることにはならねェ)
「はいはい。とりあえずコレの処理は後で決めるとして、この辺りに他に厄介な人外はいるでしょうか」
(雑魚の幽霊ならいくらか気配があるが……お前には分からねェのかァ?)
「残念ながら……。私、気配を感じるとかそういうのはあんまり得意じゃなくて」
(マ、追々鍛えていきゃァ良いだろうよ。そら、地上戦に行こうぜ)
「了解です」
神様が泥の足場を解き、私の身体は重力に従って落下していった。