「エマさん‼︎」
寝室の扉をばたんと勢いよく開け、かすみは自室へと飛び込む。
しかしそこには誰もいなかった。
「あれ…?」
エマさん…?とかすみは首を傾げる。
昼間に自室へ行くようかすみが言ったから部屋にいるはずなのに、エマは部屋にいない。
どこへ行ったのか…とかすみは一瞬考えるが、ふとあることに気付く。
「まさか」
かすみは慌てて自室を飛び出した。
そして向かった先は、この建物の屋上だった。
屋上への階段を駆け上がり、塔屋の扉を開けると屋上の柵から下界を見下ろす人影が見えた。
「…」
かすみが静かにその人影に近付くと、その気配に気付いたように人影は振り向いた。
「ハァーイ」
その人影…エマは小さく手を振りながらかすみに笑いかけた。
貴方の心を見透かして 硝子細工にしてみたい
それを窓辺に飾って見つめていたい
「また会おうね」って言葉が
切なく感じるのは
もう当たり前じゃなくなったって
気付いたから
「マスター……手足が無くなったので負ぶって運んでください。マスターは筋力だけはある成人男性なんですから」
気を失った少女の下から、サユリが呼びかける。
「えっ、でもこの子も運ばなくちゃだし……」
「マスター、妹にばっかり構ってるとお姉ちゃんは拗ねちゃうんですよ。2人とも負ぶえば良いのです」
「いや流石に二人背負うのはちょっと……」
「頑張ってくださいよ。何ならもう少し手足削りましょうか? 軽くなりますよ」
「それはしなくて良いよ……ごめん、本当にごめんイユ。この子のこと、運ぶの手伝ってくれるかな」
男性に言われ、気絶した少女の傍らに膝をついて頭や背中を突いていたイユは徐に立ち上がり、少女の足を掴んだ。
「ソぉーラぁー、頭の方持てぇー。新しい妹分連れて帰るぞー」
「はーい」
少女が退かされたところで、男性はサユリを抱き上げた。
「サユリもかなりダメージを負ったし、どおるも一人増えたし、一度戻ろうか。何にしてもサユリのダメージは直さないとどうにもならないから」
「「りょーかい」」
イユ、ソラの返事を聞いてから、男性は歩き出した。