わたしが自分のそっくりさんを目撃してから30分程。
わたし達はいつもの駄菓子屋の前に座り込んでいた。
「…ねぇ、”人を呼ぶ”って言ってたけど、まだなのか?」
ココアシガレットをくわえながらネロが呟く。
「まだだよ」
相手も色々あるみたいだし、と雪葉は駄菓子屋と路地を挟んで反対側の建物の前でしゃがみ込みつつ両手で頬杖を突きながら答える。
「そうなの~?」
ネロは思わず口を尖らせた。
…”わたしのそっくりさん”に心当たりがあると言った雪葉が誰かに電話をかけてから、わたし達は駄菓子屋の店先でその人を待っていた。
ネロや耀平はヴァンピレスではないかと不安がっていたが、雪葉が違うと言った事、そもそも雪葉にとってもヴァンピレスは厄介な異能力者である事から、その可能性は低いと思われた。
とにかく、わたし達は謎の人物によって待ちぼうけを喰らっていたのだ。
ガガガと音を立て、
今にもぶっ壊れて発火しそうな自動車が、
崩壊したビル群の中を走り抜けて行く。
運転しているのは、10代半ば位の少女。
名前はカナ。
そして助手席には、大きな猫。
名はエミィと言う。
車を運転する少女と猫。
これだけでも充分異様な光景だが、
何より目を引くのは、少女カナの顔である。
物凄い美人、又は不細工、と言う訳ではない。
ただ、左頬に炎の様な跡があるのだ。
そう。ちょうど、火傷でもしたかの様に。
キィ、とブレーキ音を鳴らして、車が止まる。
「ここにしようか。」
カナが呟く。
「うむ」
と答えるエミィ。
カナは車から荷を降ろし、
手早く野営の支度に取り掛かる。
昼休みの種枚さんと白神さんの様子、何というか、違和感があるように思えた。2人がかち合った瞬間、空気が重くなったような、嫌な感じだった。
結局あの場のストレスを引きずっていたのか、4限の講義もあまり集中して受けられなかったし……。
そういえば白神さんも、たしか今日は4限までだったっけ。
「…………5限、サボるか」
そう決心し、講義棟から急ぎ足で出て、まっすぐ正門に向かった。
どうやらタイミングとしては完璧だったみたいで、少し先を歩く白神さんの後ろ姿が見えた。
歩調を早めて、追いつこうと試みる。そして、彼女に続いて正門をくぐろうとして、自然と足が止まった。
白神さんの目の前に、種枚さんが立っている。種枚さんはフードを深く被っていて表情は分からないけれど、何か話しているらしい。
何となく近づけずに距離を取って見ていると、いくらか言葉を交わしてから二人は連れ立って歩きだした。見失ってはいけない気がして、距離を取ったまま後を追う。
2人が向かった先は、自分が鎌鼬くんと初めて遭遇したあの公園だった。その敷地内には日没直前とはいえまだ少し人が残っている。いくら種枚さんといえど、まさか白神さん相手に荒っぽい真似をすることは無いだろう。
きっと大丈夫だと心の中で自分に言い聞かせ、どんどん奥の人目に付かない場所に入っていく二人の尾行を再開した。
2人が現場であるショッピングモールに駆け付けると、外壁には大きな穴が開いておりエベルソルのものであろう巨大な尾がはみ出してのたうっていた。
「……随分デカいのが突き刺さってるな。あの辺りって何屋があったっけ?」
「さぁ……私あんまりここには来ないので……」
「ここって中高生の休日のたまり場の鉄板じゃないの? 私もあんまり来ないけど」
「えぇ……」
「取り敢えずリウ、先行して」
「りょ、了解です」
理宇を前に置き、2人はショッピングモールに入った。逃げ惑う一般人に逆らいながら、2人は外壁の大穴のあった辺り、2階のある地点にやって来た。
「……あー、ゲームコーナーか」
ロキは呟き、クレーンゲームの筐体を倒して暴れ回る巨大なエベルソルにインキ弾をぶつけた。
ナメクジとナマズとヘビを混ぜたような姿のそのエベルソルはのたうち回るのを止め、頭部を2人の方へぐりん、と回した。
「ん、こっち向いた。リウ、頑張れ」
「了解です! ……いやしかしでっかいな……」
インキ製のスティックを両手に、理宇はエベルソルに向けて駆け出した。