「…やっぱり、あの子変な異能力の気配がする」
わたしが駄菓子を買って店の外へ出た所で、雪葉はそんな事をネロ達と話していた。
「まぁ確かに、あの女からはうっすらと異能力の気配がするけど…」
別に気にする程でもなくない?とネロは言いながら、買いたてのココアシガレットの箱を開ける。
「そうなんだけどさ」
気になるじゃん?と雪葉は頭をかく。
「もしかしたらヴァンピレスと関係あるかもしれないし」
雪葉がそう笑うとネロは少し顔をしかめる。
「…さすがに寿々谷の外から来てるみたいだからそんな事ないと思うんだけど」
ネロの言葉に、彼女の隣に立つ耀平はだなとうなずく。
「あのヴァンピレスが寿々谷の外で活動している話なんて聞いた事ないし」
てか何でも奴と結びつけんなよ、と耀平は呟く。
雪葉はごめんごめんと苦笑した。
…とここであま音さんがわたし達の元へやって来た。
色々と駄菓子を買ったのか、その右手には中身の入ったビニール袋がさがっている。
「皆、何の話してるの?」
何か寿々谷がどうとかって聞こえたけど、とあま音さんは尋ねる。
わたし達は一瞬どきりとしたが、すぐに機転を利かせた穂積がこう言いだした。
ようやく気付けた……けど、こんなこと普通あり得る?
振り下ろされた槍の穂先が、身を捩った私の肩を掠める。
「っ……! 人間でも修行すればできるようになるとは聞いたことあるけどさぁ……!」
暗闇を飛ぶコウモリや海中を行くイルカをはじめとした、種々の動物に確認される生態。何らかの音を発し、それが周囲の物体に反射して戻ってくる時間差と角度から、目に見えない世界を、音を使って『視る』技術。
「”反響定位”……!」
また、短槍がコンクリートを叩く。片腕しか使えない上に、既に毒気が回り切っているはずなのに、彼女の攻撃は回数を重ねるごとに鋭さと精度を増している。これじゃまるっきり、向こうの方が化け物じゃないか。
薙ぎ払いを咄嗟に片腕で受け止める。みしり、と骨が軋む感覚。直後、全身を衝撃が駆け、弾き飛ばされた。
「っ……っあ、はぁっ……はぁっ…………! くそ……! 私、なんだよ……! 殺すのは……! 私の方、だってのに……!」
頬の皮膚が削れて熱い。槍を受けた左腕も動かない。もしかして折れた?
「っ……でも、これで……『お揃い』だ…………!」
今、私と彼女は鏡合わせに同じ腕を潰している。両眼を潰すのは気が早かったかな……まあ良いや。
「一つ、呪ってみようか」
また、彼女が短槍で足元を打つ。転移する気か。
「させるかっ!」
ダガーを投げる。この風切り音は聞こえてるはずだ。そして、この状況。『前例』はただの1度きり。使うかどうかは彼女次第。それでも、信じてる。彼女が本気で、私と渡り合おうとしてくれることを。
一瞬の浮遊感と共に、視界が変化する。来た、『位置を入れ替える魔法』!
来たる衝撃に備え、身体を硬直させる。それと同時に、背中の一点にダガーが突き刺さった。