人に貢いでも
相手からそれ以上のものを
返してもらえなかったら
損となる
だから自分が貢がれるほど
最高の人間になる
そして貢いでくれた人に
最高のものを返す
それからも数度、短刀による刺突を放ったが、影はその尽くを回避する。
ゆらゆらと蠢く影を、跪いた姿勢のまま睨み続けていた平坂の背中を、不意に犬神が軽く叩いた。
平坂が振り向くと、犬神は既に巾着袋の口を開け、中の砂を掌に空けている。それを見て、平坂は数秒逡巡してから、結界の中の4人に声を掛けた。
「……そのまま目を閉じて、決して見ないように」
そして、犬神に手でゴーサインを出す。犬神は小さく頷き、手の中の砂を宙に向けてばら撒いた。砂は落下することなく空中に留まり、犬神の手の動きに合わせて波打つように動き、刃の形状に固まった。
犬神が影を指差すと、砂の刃は高速で射出され、影の胴体を切断する直前で回避され、床に衝突した。それによって粉砕された刃は、6本の棘に再形成され、うち4本が影に向けて再び発射され、そのうちの2本が命中し、影の身体を空中に持ち上げた。
(ふー、ちょろちょろとよく動いたけど、やっぱり『数』は『強さ』だよ)
口の中で呟き、外した2発、撃たずにいた2発の棘を構成していた砂を、1つの弾丸の形状に変形させ、空中で回転させながら照準を定める。
(吹っ飛べ)
砂の弾丸が発射され、影の胴体に命中し、その全身を衝撃によって破裂させた。
努力は報われると教わりました
人の為に尽くしなさいと教わりました
命を大切にしてくださいと教わりました
貴方にはいろんなことを教わってばかりです
「ね、ねぇ、これはどういう事なの⁇」
あの女の子は誰なの?とあま音さんはわたしに尋ねる。
「えっと…」
わたしはどう彼女の事を説明すれば良いか分からず言葉に詰まってしまう。
どうしようとわたしが思った時、不意にうふふふふと高笑いが聞こえた。
わたし達が声のする自分達の走って来た方を見ると、白いワンピースのツインテールの赤黒い目を持つ少女が立っていた。
「どうして」
わたしがそう言いかけると、彼女…ヴァンピレスはどうしても何もと続けた。
「貴女達はわらわの策にはまったの」
貴女達が先程遭遇したのはわらわが他の異能力者から奪った異能力で作った分身、とヴァンピレスは言う。
「本物のわらわは、今ここにいるわらわよ」
ヴァンピレスの言葉にわたしはそんなと絶句する。
「…じゃあネクロマンサー達は」
わたしがそう言うと、ヴァンピレスはええと答える。
「彼女達は貴女達を逃がしたつもりみたいだけど、まんまとわらわの罠にかからせたみたいねぇ」
滑稽だわぁとヴァンピレスはわざとらしく笑った。