石段を駆け下りた平坂の目に映ったのは、大量の怪異存在の行列だった。そしてその先頭を歩いていたのは。
「はーいみんなー。ここはわたし達のリーダー【水行】“潜龍”さんがいる神社だよー」
白神鳴その人だった。
「……おい貴様」
「んー? あらリーダー。こんばんはぁ」
「百鬼夜行を引き連れて、何をしている?」
「ん、そりゃあ勿論、〈五行会〉に引き入れた妖怪のみんなを案内してたんだよ。こちら総勢43名、これからはわたし達の仲間だからよろしくね?」
「………………」
平坂は何か言いかけ、口を閉じ、天を仰ぎ、白神に向き直った。
「……分かった、覚えておく。普段は人界から離しておけよ」
「りょーかい」
「……ところで、貴様…………今『43名』と言ったな?」
「ん? うん」
「にしては、多くないか」
「はぇ?」
白神が背後に立ち止まる行列を振り返る。指差しながらその頭数を数え始め、やがてその動きも止める。
「駄目だ、いっぱいいるから誰を数えたか分からなくなる……そうだ、ばんごー!」
怪異存在達は1体ずつ順番に数字を述べ、その数は「49」で止まった。
「……多くない? なんで分かったの“潜龍”さん」
これからはたくさんの仲間に囲まれて
たくさんの選択肢の中から生きる道を見つけていくのだ
盾と剣はとうにどこかへ行ってしまった
もう戦うのは懲り懲り。
good lovers.
「どうした、あんた『伝説』なんだろ? この程度で倒れてくれるなよ、ナハツェーラーさん!」
「倒れるかよ、この程度で……!」
ナツィが距離を詰める。それに合わせて、少女は刀を振り下ろした。
「っ……⁉」
ナツィはその攻撃を大鎌の柄で受け止めたが、少女の動作に違和感を覚え、素早く観察する。振り下ろした姿勢のまま、微動だにしない。
(…………この現象……もしかして、あのネリネって奴に散々やられた……?)
「それな……らっ!」
ナツィの放った蹴りは、少女が回避動作を取る間も無く命中し、数mも後退させる。
「『それ』、そっち側もなるんだ?」
「げッ……ほ、ぇほっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……痛ってェー……!」
少女は体勢を整え、上段の構えでその場に制止する。
「来なよ、ナハツェーラーさん。迎え撃ってやる」
「……そんなら、お望み通り!」
ナツィが駆け出す直前、少女は既に動き出していた。刀1本にて、遠距離に届く刺突の技。しかし、その動きはまたも空中で不自然に停止した。その隙を逃さず、ナツィは大鎌の斬撃を命中させる。ダメージによって少女はよろめき、更に後退する。
「ごッ……ふぅっ、はぁっ、っ、ぐぅぅぅ……完璧な騙し討ちだと思ったのにぃ……」
肩から胸にかけて深く残る傷を撫で、掌にべったりと付着した血糊を眺めながら、少女は溢す。
「……まあ良いや」
そう呟き、少女は再び刀を構える。
「どうせ私はこれ以外の戦い方知らないし」