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五行怪異世巡『百鬼夜行』 その③

「……とにかくだ」
平坂は空中に4枚の紙片を投げ上げた。それらは不自然な軌道で四方に飛び散る。
「この中に、白神。貴様の許しを得ていない怪異が紛れ込んでいる。何が狙いか知らんが……“潜龍”の膝元で無法を働こうというなら、容赦はせん」
「う、うおぉ……何これ、力が抜け……」
白神は結界の効力によって膝をついた。
「……む、そうか、貴様も妖怪の類だったな。少し待て」
平坂が懐から1枚の紙製の札を取り出し、白神の額に貼り付ける。
「あだっ」
「本来は人間用だが……霊的現象を遮断する守護の札だ。痛むだろうが動けるようにはなっただろう」
「うん……さてと」
ゆっくりと立ち上がり、白神は膝についた汚れを払った。
「おぉーい、みぃーんなー」
白神が目の前の怪異存在の群れに呼びかける。結界の効力によって地面に這い蹲っていた怪異たちは、各々顔に相当する部位を彼女に向けた。
「今日集まってくれたの、わたしはすっごく嬉しいんだけどね? この中にまだ挨拶が済んでない子がいるみたいなの。怒らないから出ておいでー?」
白神の呼びかけに、怪異たちは蠢いて反応を示す。そのうちの1体、黒い棒人間の頭に1対の白く丸い目がついたような子供程度の背丈の妖怪が這いながら近付いてきた。
「ん? 君、どうしたのかな?」
屈み込んで目線の高さを近付けた白神に、棒人間は蚊の鳴くような声で返答した。
『ゴメ……ァィ……ゥアァ……』
「んー……あ、もしかして君、挨拶がまだ済んでなかった子かな?」
『ゥン……タノシソダタ……』
「そっか。じゃ、今お友達になろ? これでもうわたし達の仲間だね。ヒラサカさん、それで良いよね?」
白神に顔を向けられた平坂は答えを返さず、代わりにその棒人間の頭部に雑に紙の札を貼り付けた。
『アキャァ』

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懐かしい日々

つまらない日々。

そんな日々に彩りを。

花を飾ろう。コーヒーを飲もう。

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Trans Far East Travelogue91

俺達は無事にチェジュ国際空港に到着し,飛行機も定刻通り大阪に向けて離陸した。
嫁は「日本帰れるんやね」と言った後旅の疲れが残っていたのか眠りにつき,俺は「よりにもよって大阪かよ…関西の薄味料理苦手なんだけどなぁ…」と呟き万が一に備えて後輩に用意してもらっていた分厚い時刻表を取り出して次の行き先を考えていた。
着陸後、後輩の「メードンとかどうです?明日のならお二人の分手配できますよ」という提案に「それ良いかもな!せっかくだし奮発しようぜ。でも,メーテンじゃなくて天サで頼めるか?」と返すと後輩は頷き嫁は「何の話?」と訊くので「明日の夜発の夜行バスで君と、とある面白い街に行くことになりそうなんだけど,その出発地が君もよ〜知っとる町なんよ。今日の新幹線でそこ行けそうだから、今夜現地入りしようぜ」と笑って返すと嫁も何か察したのか笑みをこぼす。
そうして入国審査も終えて市街地に行くべく乗り込んだ特急ラピートの車内で「先輩、9時半発最終ののぞみです。宿はBFでなんとか取れました。その後,明日21時のバスで7時半ビジネスセンター到着予定です。でら高い個室取れたのでごゆっくり。」と言うのを聴いて嫁が「今夜はどこ行くと?」と不安そうに尋ねるので俺が「さくらの券面見してくんない?」と声をかけると「はい、こちら小倉までの新幹線の切符です」とサラッと口にしたので嫁は「え?福岡帰ると?」と言ってかなり嬉しそうだ。
嫁とは対照的に作り笑いをしている俺を見て「先輩,明日1日我慢すれば明後日は天国ですよ」と耳打ちする後輩の一言に無言で頷き,窓の外を見るともう終点の難波が近い。
結局1時間半の余裕があるので3人で道頓堀に行き串カツを食べ、新大阪の新幹線改札に着いたら後輩は最終の快速に乗り換えて地元の刈谷に帰るとのことで東京方面の,一方俺達は新山口方面のホームに向けて歩き出し、定刻通りやって来た新幹線のグリーン車に乗り込む。
そうしてかつては海路で来た道を今度は陸路で西に向けて船より数倍速いスピードで瀬戸内を駆け抜ける。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑫

『桐華』と呼ばれたその使い魔、ツファルスツァウルは、地面に落ちた刀を辛うじて動く左手で拾い上げた。
「それでぇー……ボス? もしかしてこれ……任務失敗強制帰還の流れですかねー……?」
「んー? まあ、フル残機とはいえ、自分の使い魔に死なれると悲しいからねぇ…………そういうわけで、ナハツェーラーさん。今日のところは失礼させていただきます。もうナハツェーラーさんや周りの人を無暗に襲わないよう、こっちでよぉーっく言い聞かせておきますんで、どうかご容赦ください! それでは!」
「なっ、待て!」
「そうですぜボス」
「えっ」
ナツィと桐華から立て続けに制止の言葉が入る。
「こっちの都合でボコされたナハツェーラーさんは良いとして、なんで桐華さんまで?」
「いやぁ? ネリネの【外法・御霊縛り】は見せたのに、私の奥義だけ見せないのはアンフェアじゃない」
「やるの? ナハツェーラーさん死なない?」
「ここまでやって死なないならもう死なないでしょ。それに万が一にも今度戦うことになった時、不公平じゃん?」
「うーむ……まあ良し。それじゃ、ナハツェーラーさん。あと一撃、お付き合いくださいな」
「は?」
桐華とマスターの動向を警戒しながら見つめるナツィの前で、桐華は左手で刀を構えた。
「へいボス、ちょっと私のポケットからコンパクトミラー出して」
「え、やだ……」
「ちぇっ。じゃ……」
桐華は頭を大きく振り、勢いで外れた眼鏡の縁を口で咥えて受け止めた。
「これで良いや」

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金木犀

あったか

ぬくぬく

肌寒い日の過ごし方

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今日

心が萎れたって

体は動き続ける、動かし続けなきゃいけないから

同仕様もなくって。

いつまで積み上げなくちゃいけない?

その中に少しでも幸せひとつあれば…

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Trans Far East Travelogue90

浜辺の散策を終わらせて港に帰ると俺の秘書で韓国支部長代理から緊急事態を告げるメールが届いた。
本来俺達が乗ってきた船は中国の港にも入港する予定だが、国際情勢の変化により中国の市民権を持たない全員の入国許可が取り消されてしまったのだ。
仕方ないので船に戻ると兄貴をはじめ地位が最も高い台湾勤務の人にも既に現状が共有されており,今済州島にいる韓国勤務の職員を緊急招集してソウルも含めた本土の全支社と連携を取りなんとか済州島内でリゾート激戦区の中文地区にあるホテルから100人分の部屋は確保できた。
しかし,本船にはアジアにある全てのオフィスから代表団が来ているのでクルーを除いても5千人は軽く超えるし彼らに一定以上のランクの宿を手配しなくてはならず全く足りない。
韓国本土も対象にしてもまだ全員分は手配できず、結局兄貴の鶴の一声で済州空港発の国際線でまだ搭乗が間に合う行き先の人を全員帰国させることになり,船は有事の際の受け入れ先として指定された港で最も近いウラジオストクに回航し、俺と嫁は関空行きの便で帰国することになった。
そうして,最低限の荷物とパスポートだけ持った俺たちを乗せたバスは溶岩が見える高速道路を一路,空港のある北岸の新都市目指して駆け抜ける。