「そう」
そしたらあのツノっ子が…と寧依が言いかけた所で青髪のコドモはふふふふふと笑う。
寧依は訝しげな顔をした。
「いや、ね、まさかあなたが人工精霊の術式に魔力を流してしまうなんてね」
中々想定外よと青髪のコドモは続ける。
寧依は、仕方ないじゃないと呟いた。
「あなたが、独りが寂しい時にでも使いなさいとか言って渡してきたから」
「あら、昨晩は寂しかったの?」
「うるさい」
青髪のコドモが茶化すと、寧依は青髪のコドモを睨みつけた。
「とにかく、昨日はなんか魔が差しちゃったの」
別にそれ以上の意味はないんだから、と寧依はそっぽを向く。
青髪のコドモはまぁと笑みを浮かべた。
「…わたし、そろそろ行くから」
道草食ってたら1限に間に合わないしと寧依は足早に青髪のコドモの目の前を通り過ぎていく。
青髪のコドモはその様子を目で追った。
両手いっぱいに抱きしめる星
力尽きて倒れる瞬間まで
私は生きる
少女を睨みつけたまま、女性は足元をちろちろと走り回るノネズミの背中を素早く摘み上げ、自身の目の高さまで持ち上げた。
『不快である。速やかに消え去れ。然も無くば……』
ネズミの首を締め上げていた手の親指を僅かに持ち上げ、具わった長く鋭い爪で喉笛を搔き切る。ネズミは小さく断末魔を上げ、数瞬暴れた後、ぐったりと動かなくなった。
『「こう」じゃぞ』
凄む女性を前に、少女はただ怯えてその場で震えるばかりであった。
(脅し過ぎたか……否、よく考えてもみれば、此奴は死ぬために差し向けられたのか。となれば、脅迫の文句を違えたか?)
女性はネズミの死骸をその場に静かに置き、徐に立ち上がった。少女はほぼ恐慌状態となってその場に縮こまる。女性は少女に近付き、髪の毛をぐい、と引いて顔を突き合わせた。
『良いか、人の子。妾は今、大層機嫌が悪い。貴様らが無駄に騒ぎ腐ったためじゃ。此度は慈悲をくれてやるが、次は無い。疾くこの場から去ね。村へ帰れぬなら、山を降りろ。住むべき街なぞいくらでもあろうが。貴様らの如き連中の面なぞ、思い出すだけで反吐が出る。嗚呼、貴様の面なんぞ明日目覚めた後にはもう忘れてくれるわ。理解したな? ならばこれ以上妾の目が貴様の小憎らしい泣き面を映す前に何処へなりとも逃げ失せよ』
女性に突き飛ばされ、少女はようやく正気を取り戻したかのように、這うようにしてその場から慌てて逃げ去った。
『………………漸く行ったか』
女性はごくり、ごくりと音を立てて首を回し、先程置いたネズミの死骸を拾い上げて社の奥へと引き返していった。