白神さんの方を見上げると、彼女は手足の爪を直径数mはありそうな大樹に突き立てて、その木の幹にくっついていた。と思うと、すぐに地面に飛び降りてしまった。
「千葉さん、大丈夫? 怪我とか無い?」
白神さんが尋ねてくる。その手足は既に人間のそれに戻っていた。
「はい。白神さんが上手く走っていたので。さっきのは種枚さんに受け止めてもらったし」
「そっか、良かったぁ……」
突然、種枚さんが間に入ってきた。
「そんじゃ、ここを中心に手分けして探していくぞ。私はあっちに行くから、お前ら二人で反対側から攻めていけ」
「りょ、了解です」
「分かったー。それじゃ、行こっか千葉さん」
「分かりました」
白神さんと連れ立って、大して整備もされていない山中の細い獣道を進む。頭上の密集した枝葉のおかげか、天気予報で見た気温ほど暑くはない。
「白神さん、大丈夫ですか?」
自分の前方3mほどのところを、生えている草や灌木をかき分けて道を広げながら進む白神さんに声をかけてみる。
「んー? 大丈夫だよ、千葉さん。心配してくれてありがとうね」
「いやまあ、はい……ん?」
白神さんを追っていると、ちょうど左後方から植物をがさがさとかき分けるような物音が聞こえてきた。反射的にそちらを振り向き、うごうごしている藪の動きに注意を向ける。
数秒ほどじっと眺めていると、1頭のイノシシが顔を覗かせた。直後、自分のすぐ脇を放電が通り抜けて、イノシシの足下に直撃する。
「……なーんだ、ただの野生動物だったのかぁ」
白神さんが自分の下に駆け寄ってきた。
「もし悪い妖怪だったらと思って、つい電気使っちゃった。感電してない?」
「あ、それは大丈夫です」
「良かった。ほら、行こう?」
「あっはい」
「ここに寧依がいるの?」
金髪のコドモの質問に、ピスケスはそうと頷く。
「彼女はここの学生なの」
ピスケスはそう言うと、ほら行くわよと金髪のコドモの手を引っ張る。
金髪のコドモはあ、うんと頷き、ピスケスに手を引かれて門をくぐった。
門の向こうにはレンガ造りの立派な建物や5、6階建ての建物があり、金髪のコドモの目を惹きつけた。
しかしピスケスはその様子を気にも留めずどんどん進んでいく。
暫くして2人は建物と建物の間の通りのような所に出た。
「あ」
不意に前方から声が聞こえたので金髪のコドモが前を見ると、人気のない通りの真ん中を短い赤髪でキャップ帽を被ったコドモが歩いているのが目に入った。
赤髪のコドモはピスケスと金髪のコドモに気付くと笑顔で駆け寄ってきた。
「よーピスケスー」
何してんだー?と赤髪のコドモはピスケスに尋ねる。
ピスケスはあら露夏と返す。
「この子の“保護者”を探しに来たのよ」
ピスケスが金髪のコドモの方を見ると、赤髪のコドモこと露夏はへぇと頷き金髪のコドモの顔を覗き込む。
ふと匂いがした
あなたの匂い
ブルガリの匂い
風にね
頼んだよ
私にはちょっぴり切ない匂いだったから
太陽の匂いがするあなたを…