「隠れるぞ」
不意にそう言うと、ナツィはかすみの手を引いて近くの細い横道に駆け込む。
かすみはえっと驚くが、そのままナツィに引っ張られて建物の陰に隠れた。
「おーい2人とも〜」
暫くして、金髪のコドモはナツィたちが姿を隠した横道近くの十字路へ辿り着いた。
「どこ〜?」
金髪のコドモは不思議そうに辺りを見回すが、誰も見つからない。
ナツィとかすみは建物の陰から静かに金髪のコドモの様子を伺っていた。
「…」
暫く辺りを見回して、置いてかれちゃったかな?と金髪のコドモは不意に呟く。
「ま、探せばいっか!」
金髪のコドモはそう手を叩くと、ナツィたちがいる方の隣の角を曲がっていった。
金髪のコドモが道の奥に消えていったのを確認すると、ナツィはそっと建物の陰から出た。
「…やっとどっか行ったか」
呆れたように呟くナツィに、かすみはナツィ…とこぼす。
白神さんはまだ、下で靴探しをしている。それなら、今自分の隣に現れたものは何だ?
恐る恐る、気配の方に目を向ける。そこには、人間ほどの大きさのサルがいた。
……いや、サルとも少し違う。大きすぎるというのはともかく、口元が不自然にニタニタと吊り上がっている。もしかして……。
『……お前は』
謎の動物が口を開いた。年寄りのようにしわがれた声で、『人間の言葉』がそこから漏れる。
『「もしかして、これが例の覚妖怪か」と考えているな?』
この文言。間違いない。昔話に出てきた妖怪と同じ言い回し。そして覚は。
『お前は今、「この妖怪に食われるかもしれない」と考えているな? ……正解だ』
覚が動き出そうとしたその時、白い影が自分と覚の間に割って入った。
「し、白神さん⁉」
「ごめん千葉さん、助けるのが遅れて! 大丈夫⁉」
「大じょ、うおわぁっ!?」
白神さんに抱きかかえられて、地面に下りる。覚もすぐに追ってきた。
『……ふむ、そちらの娘、どうやら人間ではないようだぞ、そこの人間。たしか、チバといったか?』
いやまあ、それは最初から知っているけども……。揺さぶりのつもりだろうか。
『む……つまらん。して、そちらの雷獣の娘よ。お前は次に、こう言おうとしているな?』
「『千葉さんを傷つけようとするなんて許せない。ぶっ殺してやる』!」
覚は白神さんの言葉にぴったり合わせた。白神さんはそれを気にする事無く、覚に突進する。
『ふむ、心を読まれてここまで動揺しないとは』
「それ、お前を、殺すのに、関係、ある、のっ!」
言い返しながら、白神さんは電光を纏った貫手を連続して放つ。しかし相手も流石は覚妖怪。悉く回避されてしまう。
私のブラックホール。
今や何だったのか
通り過ぎた記憶は
振り返る隙すら与えてくれなかった。
惹かれた後ろ髪は
宙に舞っていた
幾度となく惹かれた思いはこの空に溶け込んでいる。
淋しく切ないあのあの人は
あの苦しかった夜は
帰り道何度も読み返した。
誰も知らないこの道通って帰ろう
空っぽの空を見て
懐かしんだ
あの夕焼け空は
今もフィルムの中に残っている
あの大海原に戻りたい