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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑦

「この子はどうして耀平くんたちと一緒にいるようになったの?」
霞さんの質問に、師郎はあぁそれは…と答える。
「黎はネロと耀平が拾ったようなものでね」
夏の雨の日に、ネロが傘貸してやったのが縁だそうな、と師郎は腕を組む。
へーと霞さんはうなずいた。
「何だか不思議だね~」
「そうなんだよ」
俺達は偶然が重なって一緒に行動するようになったんだから、と師郎は笑った。
「…僕もそうだよ」
少しの沈黙ののち不意に霞さんは呟いたので、わたし達は彼の方に目を向ける。
「僕だって、長らく独りだったんだから」
霞さんのどこか寂しげな呟きに、わたしと師郎は目をぱちくりさせる。
それに気付いた霞さんは、あーごめんごめんこっちの話、と手を振って微笑む。
わたしは何の事だろうと思っていたが、師郎はふと側にいる黎がゲームセンターの外に目を向けている事に気付いた。
「黎、どうした?」
師郎がそう聞くと、黎は彼の方を見て横に首を振った。
師郎はそうかと答えると、ネロと耀平が攻略に四苦八苦しているクレーンゲームの方に目を向けた。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ:告鳥と悪霧 その⑦

カズアリウスの言葉に、男性は平然と答えた。
「知っているさ。だからこそ、こんな『地下』で、ひっそりと生み出したんじゃあないか」
「なッ……!? テメェ、確信犯かよこの野郎!」
「そうだね。しかし、悲しいことに私は研究者でね。憧れは止められない、というやつさ。エクトピステス・ミグラトリウス。君の力を見せてやりなさい」
男性の命令に、少女クミ――エクトピステス・ミグラトリウスは静かに頷き、右手を前方に翳した。
「動き出せ――“プリンセプス”」
クミの足下から黒い霧が噴き上がり、空中に吊られたアリエヌスの残骸に吸い込まれていく。
「……プリン、何?」
困惑するカズアリウスに、白衣の男性は溜め息を吐いた。
「まったく、呆れたね。アヴェスのくせにラテン語も分からないのかい? 群れを統べるもの、“Princeps”。意味は――」
男性とクミの背後で、アリエヌスの残骸が「ごとり」、と音を立て、動き出した。
「『支配者』さ」
アリエヌスの眼窩に赤い光が宿り、身体を伸ばして咆哮をあげる。
「安心し給え、防音対策はしっかりと取ってある。外に騒ぎを聞かれる恐れは無いよ。さて、“プリンセプス”について説明してやろうか」
男性は意気揚々と、説明を続ける。
「彼女の使う“プリンセプス”、その正体は『ナノマシン』だよ。無数の超小型機械を操作し、アリエヌスの体内に潜り込ませる。体内で“プリンセプス”を操作することで、そのアリエヌスを強制的に使役し、最後には内側から食い破って破壊する。実に効率的だろう。『支配』と『殺戮』、二段階で敵を減らせるのだから。しかし唯一欠点があってねぇ……」
大型アリエヌスは咆哮を止めると、3人のアヴェスに目を向けた。
「試験回数が少なすぎるのだよ。どれ君達、1つテスターをやってくれるかい? 何、この残骸が内側からズタズタに崩壊するまで、死なずに粘ってくれるだけで良いんだ。良い戦いを期待しているよ」